回想のオワリ


先の試合は大勝だった。

それもそのはず、相手はガッツリ編成事故を起こしている(チャージの必要な武器がなんと4丁!)上に名前から初心者や子供の名前である事が明らかだったからだ。

なるほど、これで勝ててもまあ別にそこまで気分は悪くない。

負け続きでひどい目に遭っていたなら尚更ストレス解消になってしまう事だろう。

スマーフ野郎の心理状態が分かった所で大した糧にはなるまいが、個人的にはそこまで晴れやかな気分かと言えばそうでもなかった。

正にその前例にボコられていた事実もあるが、ストレス発散扱いだったとしても腹を立てる必要もない。それはそいつらが勝手にしている事であって、わざわざこれ以上サンドバックになってやるつもりは毛頭ないからだ。

それに、自分がどれだけ操作面で未熟だったかも痛感した。

単純に字面だけ読み込んできただけの、ルールを実感として掴めていない初心者がそんなに勝てるはずがなかっただけなのだ。それが分かったら俄然やる気が湧いてきた。あの野郎絶対に許さねえからな。(血は争えない)とりあえず次はピカソ筆を練習してみよう。


そして事件は起きた。

簡単に言うと、妹は俺より元気だった。

それは純粋な体力とか病気に罹りにくいって意味でもあったが、そうじゃない。

そうじゃなくて。

妹の筆は…恐らく音速を超える(※誇張表現)程の速度で連射されていた。

秒間16発の有名な名人が昔に居たが、彼と同じくらいの普通に目で追えない残像が出ている。

しかも…多分本人は気づいていない。

これが一般的な筆だと誤解してしまっているのではないか?完全になろう系だ。

凄まじい運動神経だ。というより、すんごい手指が柔軟なのだ。

しかも腕の筋肉は心なしか連打する時だけ漫画みたいに倍レベルに怒張している。(※漫画的表現)

我が妹ながら惚れ惚れする二の腕の筋肉だ。正式名称は良く知らないが。

コントローラーが持つのか不安になってきたが、奇跡的な調節で照準を完璧に保っている。これなら振動で内部機械が壊れる心配はあるまい。単純に連打のしすぎてボタンはその内凹むかもしれないが、そうなるとハード的な寿命なので仕方ない。微妙に高いが…まあ最近バイトを始めたようだし、その内自分で買い足すだろう。うん。(なんか納得した)


画面には4連続KOどころではなくワイプダウンが繰り返し表示され、前述のスマーフどころではないスコアを妹は叩きだした。34/2/7。左から順番に倒した数+味方の倒した時アシストした数の合計/自分がデスした回数/使ったスペシャルの回数だ。例え相手が初心者であってもこれが普通であってたまるか。正真正銘の…天才だ。相手が俺ならコントローラーを投げ出して台パンしてしまうかもしれない。妹と違ってその威力には自信が無いが。(勿論そんな自信があっても良くないのだろうが)

実際途中から相手も動きが諦め気味になって、自陣に引き籠る奴とか防衛専が増えていった。妹はそれも倒すのだが。そういう武器じゃないってばそれ。射程負けてるのになんで撃ち勝ってるんだよ普通に。

それというのも凄まじい勢いで連射するのは丁度相手が間合いに入った時だけで、塗り移動を巧みに使って相手の攻撃を”すり抜けて”居るからだ。

確かに体勢的にも塗り移動は多少判定が少ないのだが、ここまで弾を”一発ずつ意図的に避けて”いるのは見た事がない。相手も連射してるんだぞ。完全にスーパープレイの領域だ。プロでもこんなのほとんど居ないぞ。(※勿論小説の登場人物だからやっている事である。真似…できるもんならしてみやがれ!)


ああ、俺の妹なのだなやはり。

そう意味深に呟いてみたが、別に俺はそこまでのスーパープレイをした覚えが特にない。強いて言うならたった二回出場した公式戦で、ワイプダウンを取ったのが少ない自慢の一つではあるのだが、野試合でこんなものを見せられてはあんなのただ運が良かっただけまである。(※対戦した相手に失礼な思考)


「プロ…目指してみないか?」


勿論そういう言葉がふと口をついて出てしまったのも、無理らしからぬミスだと思うんだやはり。うんうん。(必死)

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