エピローグ 空を越えて
リカルドとケントがゲームをした翌日にアランら一行は帰路につくというので、ケントとエリは予定していた観光をキャンセルして空港へ見送りに行った。
車イスに乗ったリカルドは昨日よりも肌が透けるほど白く、心なしか体の線も細くなったような気さえする。
体力的にも相当しんどいだろうと想像するが、リカルドはそれを表情に出さず凛とした姿勢を最後まで崩さなかった。
「Jugamos manana. (また明日)」
「See you tomorrow. (また明日)」
空港のゲートを通る直前、ケントとリカルドはゲームを終えるときの合言葉を交わし、固い握手でお互いの気持ちを通じ合わせた。
「リカルドくん、本当に幸せそうでよかったね。でも、そういえばリカルドくんがケントに会いたかった理由を結局聞かなかったわ」
「うん、それはもういいんだ……」
「もういいって、どういう意味?」
「理由はなんとなくわかる気がする」
「それもゲーマー同士なら分かり合えるってこと?」
「そういうことになるかな」
穏やかな表情で笑うケントとエリは、付き合いたての頃のように手を握り体をぴたりと添わせるようにして帰路についた。
その翌日から、ケントとエリは特にゲームをしない日でも毎日戦車のゲームにログインして、可能な限りパソコンを開いたままにしておいた。
しかし、リカルドからの誘いは全くなく、彼がログインしている様子も見受けられなかった。
ある日、2ヶ月が経とうとした頃、リカルドのアカウントからメッセージが届いた。
いつものVamosではない長い文章に、2人はある程度の覚悟をもって翻訳にかけた。
——ケント様、エリ様
あれから連絡できなくて申し訳ない。
あの日、リカルドは心の底から楽しんでいたようで、あれから毎日のようにあなたと遊んだ日のことを楽しそうに語ってくれた。
産まれたときから苦労をしてきた息子の願いを叶えるため協力してくれたことに改めて感謝を申し上げる。
リカルドは、先週、空へ旅立った。
闘病中も私たち親のことを心配していたあの子は最期まで立派だった。
あなた方の心の負担にならないように訃報は伝えないでおこうかとも考えたが、最後に愚かな親の願いを聞いてほしい。
リカルドのゲームのアカウントをあなたに引き継いでいただけないだろうか。
ジャックが言うには、パスワードさえあれば譲渡できるらしい。
リカルドの楽しんだゲームが今日も稼働していると想像するだけで、私たちは幸福な気持ちになれる。
リカルドの友人になってくれてありがとう。
あなた方にも幸多く訪れることを祈っています。
アランとライザより
長いメッセージを読み終えたエリは静かに涙を流していた。
ケントは鼻をすすって誤魔化しているが、堪えきれずにティッシュで涙を拭った。
「素敵な出会いだったね」
「ああ、そうだな。ゲームでの出会いも悪いもんじゃなかった。エリが背中を押してくれてよかったよ、ありがとう」
ううん、と静かに首を振ったエリは、もう一度アランからのメッセージに目を通してから自分のお腹を撫でた。
「私ね、男の子の気がするんだ」
「そうだな」
ケントも、エリのお腹を愛おしそうに撫でた。
願いは空を越えて 常和あん @TokiwaAnn
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