【闇属性の冒険者】

さい

葛藤

「なあ、ガルル」


 森の中、剣を振って時、突然の声に振り返ると、そこには金髪ロングのキンジさんが立っていた。

 いつもは無邪気で軽やかな表情をしている彼だが、今はその青い瞳が冷たく鋭い光を放っていた。


「何ですか、キンジさん?」


 ガルル・ブラスは軽く微笑んでみせたが、その笑顔はどこかぎこちなかった。

 心の奥では、キンジ・ゴールダンが何を言おうとしているのか、薄々感じ取っていたからだ。


 キンジはしばらくガルルを見つめていた。

 その沈黙は重く、周囲の雑音がまるで消えたかのようだった。

 そして、彼は深い溜息をつきながら、ゆっくりと口を開いた。


「お前、冒険者になるの諦めろ」


 その言葉は、まるで刃のようにガルルの胸に突き刺さった。

 彼の顔から笑顔が消え、一瞬にして硬直した。 

 

 キンジは続けた。


「ガルル、お前には属性がない。魔法が使えないんだ。それじゃ、冒険者としては致命的だ」


 ガルルはその言葉を聞きながら、自分の無力さを痛感していた。

 冒険者の世界では、火、水、風、土などの属性を持つことが基本であり、それによって強力な魔法を使うことができる。

 しかし、彼は生まれつきどの属性も持たず、どんなに努力しても魔法を使うことができなかった。


「でも……俺は、剣術で戦うんだ!!」


 ガルルはかすれた声で反論した。

 

 しかし、自分でもその言葉がどれほど無力であるかを理解していた。

 魔法の力がなければ、敵と戦うことも、仲間を守ることも難しい。

 冒険者としての活動は、魔法が使えない者にとっては非常に厳しい現実だった。


「確かに、お前は剣術が得意だ。でも、魔法が使えないお前に、冒険者としての未来はない。現実を見るんだ」


 キンジさんの言葉は冷酷だったが、その裏には深い憂いと優しさが隠れていた。

 彼はガルルが傷つくのを見たくなかったのだろう。

 だからこそ、ここで夢を諦めさせようとしているのだ。


「俺は、それでも……」


 ガルルは言葉を詰まらせた。彼の心は揺れていた。

 夢を追い続けるか、それとも現実を受け入れるか。

 その決断が、彼の人生を大きく左右することになる。


 キンジはその様子を見つめ、静かに言った。


「ガルル、俺はお前のように無茶な夢を追いかけて亡くなった者たちを何人も見てきた。お前にそうなって欲しくないんだ」


 ガルルはキンジの言葉を噛み締めた。

 彼の言う通りかもしれない。

 しかし、諦めたくない。

 何も持たない自分でも、何かを成し遂げたい。 その思いが、ガルルの胸を強く打った。


「キンジさん、僕は諦めたくありません。たとえ魔法が使えなくても、自分の力で道を切り開きたいんです」


 ガルルの決意のこもった声に、キンジさんは一瞬驚いた表情を見せた。

 しかし、すぐに微笑みを浮かべた。


「やっぱ、あいつの息子なだけあるな。そう簡単には諦めねえか」


 ガルルには、両親がいなかった。

 顔も知らなければ、名前も知らない、そんな存在だ。

 ただ、キンジが親の代わりとしてガルルを育ててくれたのだ。

 いわば、父親的存在である。


 キンジは頭をかきながら、


「わりい、今の会話忘れてくれ」


 そう言って、ガルルの側から立ち去って行った。



 コンコン、と校長室の扉がノックされた。


 すると、すぐに扉が開かれ、中からはキンジがやってきた。


「おい、勝手に入るな!」


 と、校長である白髪に白髭を生やした、シルヴァ・ホワイが怒り気味の声で言う。


「わりいわりい」


 悪びれた様子はなく、キンジはソファに足を組んで座った。


「先生……」

「ん?」


 キンジは上を向き、目を手で隠して、涙ぐんで言った。


「やっぱ、ガルルに教えちゃダメっすか……あいつが魔王の子供だってこと……」


 キンジの頬からは涙が見えた。


 普段のガルルを見ていて、キンジは心が苦しくなっていたのだ。

 

 そんなキンジをシルヴァは黙って見ることしかできなかった。

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【闇属性の冒険者】 さい @Sai31

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