第21話 入部試験リベンジと部長の断末魔
ゲーム研究部部室。
雨宮とカリーナは、本日3回目の入部試験に挑んでいた。
魔法使いのレインを操作する雨宮は、遠距離から弓矢で攻撃してくるソードマスター(剣持)からドラゴンヘッド(カリーナ)を防御魔術で守る。
ドラゴンヘッドはスカイミュージック(天音)と激しい攻防を繰り広げており、やはりトッププレイヤーだけあってスカイミュージックの方が優勢だった。
ドラゴンヘッドは大剣使いの剣士なので、手数と速度は格闘家のスカイミュージックより劣る。
「攻撃が当たらなきゃこっちのもんだ☆」
大剣を軽々とかわしながら、スカイミュージックはドラゴンヘッドの顔面に、強烈な回し蹴りを直撃させた。
クリティカルヒットのエフェクトがかかり、ドラゴンヘッドの巨体が宙を舞う。
「たかがクリティカルを受けただけだっ!」
ドラゴンヘッドはすぐに体勢を直し、スカイミュージックに突進する。
それと同時に後方でレインは付与魔術を発動、ドラゴンヘッドの移動速度が先程より跳ね上がり、スカイミュージックにお返しと言わんばかりのクリティカルヒットを与える。
『移動速度を上昇させるバフか、やるおるなアマミーきゅん……』
カタカタとキーボードを叩きながら、天音はニヤリと笑った。
今の一撃で体力の3分の1も体力を削られてしまった天音は、追撃を警戒して二人から距離をとる。
それをカバーするように遠くからソードマスターの矢が飛んでくるが、レインは防御魔術で防いだ。
『MPも残りわずか……底を尽きてしまったら、自然回復を待ってる間にドラゴンヘッドさんが倒されてしまう……なら』
レインは危険を顧みずドラゴンヘッドの傍まで駆け寄り、習得している全ての付与魔術をかけた。
『レインさん! そんなに使ったら魔力が……!』
『いや、これでいい。これだけ長く続いたんだ、スカイミュージックとソードマスターのHPは恐らく俺たちと同じくらい僅かしか残っていないはず』
冷静に言いながらレインはドラゴンヘッドの大剣に触れ、攻撃力を上昇させた。
「このまま長期戦に持ち込んだら、俺たちは負ける。無謀だとしても、二人のHPとMPが自然回復する前に決着を付けしかない」
レインの言う通り、あの二人が立て直す前にすぐに行動しなければ、いつもみたく負けてしまう。
無謀だとしても、やるしかないのだ。
ドラゴンヘッドは地面を蹴り、スカイミュージックとソードマスターがいる方向へと駆ける。
遠くから数十の矢が降り注いできたが、移動速度を上昇するバフのおかげで難なく回避していく。
『はぁああああああああっ!!』
そのままドラゴンヘッドはスカイミュージックの懐に入り、雄叫びを上げながら大剣を振り下ろした。
回避行動を取ろうとしたスカイミュージックだが、自身より上回る速度のドラゴンヘッドに追いつけず、一刀両断されてしまう。
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!????」
ゲーミングチェアから落っこちて、部室内をコロコロと転がる天音。
彼女のうるさすぎる断末魔に、雨宮とカリーナは両耳を塞いだ。
まるで本当に命を落としたようなリアクション。
ちなみに剣持は聞き慣れているのかノーリアクションだった。
天音が倒されたことを気に留めず、プロゲーマーらしく画面を見て集中している。
『スカイミュージックを撃破するとはな……強くなったな二人とも。だが、決着はまだ着いていないぞ!』
宣言通り、ソードマスターは炎を纏った矢を放つ。
ドラゴンヘッドは大剣を盾代わりに炎の矢を防いだ。
防御力上昇のバフも付与されているおかげで大したダメージにならなかったが、あれを何度も受ければ、いずれ死ぬことなる。
ドラゴンヘッドは遠くに離れているソードマスターに狙いを定めて飛ぶ斬撃を放った。
しかし、涼しい顔で避けられてしまう。
やはりFPS世界ランカー、相手からの遠距離攻撃に当たる気はないらしい。
『はぁああああああああ!』
飛ぶ斬撃を放つと同時に、すでにドラゴンヘッドはソードマスターとの距離を詰めていた。
ソードマスターは向かってくるドラゴンヘッドめがけて矢を連射するが、巨体に反して矢を身軽に躱わしていく。
そして、遂にトドメを―――
『近づいてくれたな……』
剣持が不敵な笑みを浮かべ、すぐにその理由を知ることになる。
弓兵ジョブには、接近してくる敵に攻撃をする手段が一つあった。
バックステップからの小型爆弾を投げるスキル。
それを狙っていたのか、近づきすぎたドラゴンヘッドにめがけてソードマスターは爆弾を投げつけた。
ドラゴンヘッドのHPは残りわずか、命中すれば死ぬ。
『させないっ!!』
しかし、それを先読みしていたレインはドラゴンヘッドを庇い、爆散。
クルクルと回転しながら空高くまで吹っ飛び、星になった。
「孝明くんっ……ありがとう!」
キーボードとマウスから手を離さず、画面に目を向けたまま、カリーナは感謝を告げた。
亡き相棒の屍を踏み越えることになっても、なんとしても勝たなければならないのだ。
『これで、最後だぁああああ!!』
爆発で上がった煙に紛れ、ドラゴンヘッドは全力で疾走した。
攻撃の届く範囲で、大剣を振り上げる。
『はぁあああああああああ!!!』
しかし、ソードマスターも諦めていないのか、矢を射るのではなく手に握りしめて迎え打った。
両者の攻撃が交差して、遂に決着がつく。
引き分けだった。
ソードマスターの矢と、ドラゴンヘッドの大剣が、同じタイミングで互いにダメージを与えたことで、両者は同時にHPを失くしたのだ。
入部試験の合格条件は、勝利あるいは引き分け。
PVP決着画面に【DRAW】が大きく表情されるが、雨宮とカリーナは晴れない表情をしていた。
引き分けだったとはいえ、世界クラスのプロゲーマー二人と互角の戦いを繰り広げたのだ。
本来なら喜ぶべき場面なのだが、二人はそうしなかった。
単純に勝ちたいという気持ちの方が強かったのだ。
(贅沢な奴らだな……)
成長した二人を、懐かしそうに見つめる剣持。
(だが、ゲーマーなら相手が格上だろうと、引き分けより勝ちたいって思う方が普通だよな……)
剣持はゲーミングチェアから立ち上がり、部室内でまだコロコロと転がっている部長の天音を拾い上げる。
「すまんな剣持っち。ブレーキが利かなくなって、危うく宇宙の彼方まで転がるところだった」
「ゲームに負けて、こんな変な悔しがり方をするのはお前だけだ……」
「ふへへ〜、このボクを褒め倒す気か〜?」
アホ毛を嬉しそうに揺らす天音に呆れながら、剣持はお通夜のように落ち込む後輩たちに視線を向ける。
気の利いた言葉をかけられないが、とりあえず褒めて―――
「俺たち……ここまでめっちゃ頑張りました……」
「それでもやっぱり先輩たちには勝てませんでしたぁ……」
滝のようにドバドバ涙を流す二人、思ったより深刻だった。
カリーナが鼻水を垂らして、雨宮がお母さんのように彼女の鼻にハンカチを押し当てチーンしている。
「いや、何もそこまで落ち込まなくても……」
「剣持先輩、俺たち! まだゲーム研究部に入る資格がないようです!」
「そうです! 次こそは勝てるように出直して来ます!」
「いや……引き分け……」
「それでは、俺たちはこの辺で失礼します……!」
大会で敗退した選手のように、深刻な顔で退場していく二人。
止めたくても止められず、剣持は足を止めてしまう。
だが、そこでようやく部長が動いた。
「待て待てーい! ボーイアンドガール!」
すさまじい跳躍力で二人の頭上を飛び越え、一回転からの着地。
コツンと頭を扉にぶつけてしまい、泣くのを堪えながら部長”天音 詩織”は立ち塞がった。
「おらっ、てめぇら、おらっ、このボクと剣持っちを舐めてるのか? おらっ」
威嚇しているが身長が小さくて可愛いため、小動物の必死な威嚇にしか見えない。
しかし、ここから先は絶対に通さないという謎の本気度だけが二人に伝わり、空気を読んで歩を止めた。
「天音先輩……」
「アマミーきゅんとカリーナちゃんは、ゲーム研究部に入る!」
「でも引き分けじゃ……」
「あのねアマミーきゅん、自慢だけどボクと剣持っちは今までPVPで倒されたことがあまりない! 極稀スーパーウルトラレア級にない! そんなボクと剣持っちを引き分けとはいえキルしたんだぞ! 名誉に思えよスットコドッコイ!」
感動するべきか笑うべきか絶妙に分からないラインの演説をする天音。
しかし、何故かしっかりと彼女の言葉が二人の心に響いていた。
「この部活はもう二人の居場所だ。エナドリを冷蔵庫で冷やしていいし……冷房で身体を冷やして良い……でも風邪だけには気をつけて、いっぱい冷やせ……いいナ?」
「「はい!!」」
(えぇ……)
無い胸を張る天音、感動する後輩たち、困惑する剣持。
「さぁ! 総帥の胸に飛び込んでこい! マイスィート後輩どもよッ!」
「「天音先輩〜!!」」
軽すぎて抱き上げられてしまう天音、泣く後輩たち、入部届をもらいに職員室へと向かう剣持。
雨宮とカリーナのゲーム研究部生活が、今始まる。
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