幼馴染に告白したらフラれたので、気晴らしにゲームのオフ会を開いたら、長年のフレンドが実は物静かで可愛いクラス１位の銀髪美少女でした

第4話 オフ会当日とフレンドの正体

　オフ会当日、土曜日の朝。

　昨晩できるだけ早めに就寝した甲斐があって、雨宮は時計のアラームが鳴るよりも早く目覚めることができた。

　あくびをしながら、洗面所に向かい顔を洗い歯磨きをする。

　いつもなら幼馴染の東條が扉を蹴飛ばして部屋に入ってくるのだが、告白をしたあの日から彼女とはコンタクトをとっていない。

　当たり前のように一緒に学校を登校下校したり、学校で喋ったり、家で一緒にご飯を食べたりしていたのに、その当たり前が当たり前じゃなくなってしまった。

　洗面所の姿見に映った自分の情けない姿を見て、雨宮は吐き気を覚えてトイレに駆け込む。

　あの日のことを思い出すだけでトラウマになって、気持ち悪くなるのだ。

　下の階で朝食を作ってくれた杏奈が寂しそうな表情でソファに座って、朝に放送しているアニメを観ていた。

　降りてきた雨宮に気付くと、杏奈は気を遣うような笑顔を浮かべて食卓に座った。

　二人っきりの食卓は久方ぶりだ。

「ごめんな杏奈。俺たちが喧嘩したせいで、淋しい思いをさせちゃって……」

　あの日、晩ご飯のカレーを作るという約束を東條にすっぽかされたことで深くショックを受けた杏奈を慰めるのに、かなり時間がかかった。

　何故、二人が喧嘩したのか杏奈は知らない。

「ううん、いいんだよ。仲が良いほど喧嘩をしちゃうのが友達でしょ？　それがこないだ起きただけ。いつか仲直りできるとおもうよ、お兄ちゃんと千歌お姉ちゃんなら」

「あ、ああ。そうだな、そうだといいな……」

　東條は「当分」と言ったものの、このままの状態が続けば、もう二度と家に来ないかもしれない。彼女を姉のように慕っている杏奈には、とてもじゃないが打ち明けることが雨宮にはできなかった。

「お兄ちゃんは、今日なにか予定があったよね？」

「あ、うん。友達と待ち合わせをしててさ」

　相手は先輩かもしくは社会人、はたまた高齢者かもしれないので、だらしないままではいけない。

　この日のために、雨宮は入念に準備してきたのだ。

　使い慣れないワックスやスプレーで髪をセットして、専門店で購入したポロシャツとズボンを身に着け、できるだけ清潔感のある身だしなみを心掛ける。

「もしかして女の人だったりして……？」

　杏奈はグラスの水を飲みながらジトっと雨宮を見つめた。

　それが原因で喧嘩したのかもしれないと、少しだけ疑っているのだ。

「まっさか、男だよオトコ。俺が、千歌以外に女友達がいるように見えるか？」

「男友達も少ないじゃん」

　痛い所をついてくる杏奈に雨宮は苦笑いを浮かべた。

　もっと爽やかでモテそうな笑顔を練習するべきだと、その後杏奈に注意されたのは言うまでもない。

　ネットでしか交流してこなかった大親友（ドラゴンヘッド）と現実で顔合わせをする。

　誘われたときは嫌々な雨宮だったが、幼馴染の東條に完膚なきまでフラれたことがトラウマになり、その嫌な思いを紛らわすため逆に楽しみになっていた。

　友達と休日に遊ぶのは、わんぱくだった小学校依頼なのだ。

　高場街、噴水前。

　待ち合わせ場所に到着した雨宮は、携帯を開いて時間を確認する。

（まだ１０分前か……一応メールしとこう）

　土曜日の昼頃なので、噴水前は待ち合わせをしているカップルが多い。

　自分とは比べ物にならないぐらいの美男美女率の高さに、雨宮は浮いている気分になり噴水から少しだけ距離をとった。

　メールに『待ち合わせ場所に到着したぜ☆』と打って送信する。

　同級生とバッタリ会ったら恥ずかしいので、早く合流してこの場から離れたい。

　注射を待たされている子供のような深刻な表情で待つこと１分後。噴水の反対側がやけに騒がしいことに気付いた雨宮は、その方向に視線を移動させた。

「あの子って日本人？　すごく可愛いんだけどっ」

「お肌白くて素敵……」

「何であんな所で一人立っているんだ？　もしかして彼氏待ち？　いいな〜」

「あの子をナンパしてみないか、なっ？」

「却下、よく見てみろ。ナンパ慣れしているのか、一見普通そうに見えてただならぬ『お断りします』オーラが漂ってる。声をかけるだけ無駄だろ」

　芸能人でもいるのか、人だかりができている。

　男女問わず、全員が顔を真っ赤にさせて黄色い声を上げていた。

　雨宮も段々と気になってきたのか、噴水の反対側へと移動して、集団に紛れ込んだ。

　一体どこの有名人が注目を浴びているのか、背伸びして確認してみると。

「えっ！？」

　雨宮はすぐに身をかがめて、目の前で「コスプレイヤー？」と感心している外国人の背中に隠れた。

　噴水の前に立っていたのが、よく知っている同級生だったからだ。

　しかも同じクラスの、後ろの席でいつも静かに座っている、あのロシア人ハーフの美少女である。

（か、カリーナさん！？）

　バレないように、また背伸びして見てみる。

　学校の制服だけでも綺麗なのに、白い肌にマッチする白いブラウスと可愛らしいリボン、膝下まで伸びた黒いロングスカートとブーツ。

　彼氏と待ち合わせをしているのだろうか、いつも物静かだが彼氏の一人や二人ぐらい居てもおかしくない美貌なので、何も不思議な光景ではない。

（羨ましいけど、俺には関係のないことか……）

　普段よりもおめかししているカリーナに雨宮は周囲と同じように見惚れていると、携帯が鳴った。ドラゴンヘッドからの返信である。

『俺も着いたけど、レインさんは何処にいるッスか？』

　ドラゴンヘッドからの到着報告だったが、あまりにも人が多すぎる。

　カリーナに引き寄せられてできた人混みの中では、特定の人を見つけ出すのは困難と判断したのか、雨宮は予定変更のメールを送信した。

『かなり人が多いし待ち合わせ場所をさ、行く予定だった喫茶店に変更しないか？』

『合点承知の助ッス』

　すぐに承諾してもらえてホッとした雨宮は、約束の喫茶店に一人向かう。

　時々、振り返って自分と同じように喫茶店に向かっているかもしれない人を探してみるが、急に人混みが解散しだしたせいで、ますます見つけ出すのが困難になっていた。

　本当に来てるのだろうか……？

　見渡す限りのカップル、カップル、カップル、ケーキに食らいついている女子集団に、高級な服を身に着けたご婦人たち。

　気まずい、学校と同じく窓際のテーブルなので外から見られて更に気まずい。

　向かい側に男が座るのだから、周りの注目は避けられないだろう。

　ゲイカップルだと思われてしまう。

　ドラゴンヘッドは何故この店を選んだのか、と雨宮は頭を抱えた。

　だとしても後に引くことのできない状況、寝たフリをしてやり過ごすこともできない。

　彼女を待つ彼氏のようにキリッと背筋を伸ばして堂々としていることが一番だ。

「いらっしゃいませー、１名様でよろしかったでしょうか？」

　後方で店の扉が開く音が聞こえ、雨宮は肩を震わせた。

　まさか、もう来たのか？

　と思った直後に、先程の噴水前のように店内で男女問わずまたもや黄色い声が上がった。

「綺麗〜」だとか「白い〜」だとか、雨宮は耳を疑う。

　そんな偶然あるわけないか、と雨宮は妹に注意されたばかりの苦笑いを浮かべた。

『店に着きましたッス、どの席に座ってるか分かんないんで手を上げてもらってもいいスか？』

　ドラゴンヘッドからのメールがきた。

　苦楽を共にしたフレンドであり大親友、かけがえのない相棒との顔合わせの時が、遂にやってきたのだ。

　嬉しくも恥ずかしい気持ちで雨宮は体を震わせながら、ゆっくりと手を上げた。

「待たせちゃってごめんね。人混みから中々抜け出せなくて、遅れちゃった……」

　フワリと良い匂いがしたかと思いきや、向かい側の席に何気なく座ってきたのは、男の人ではなかった。

　犬でもなければ猫でもない、女の子だったのだ。

　しかも雨宮がよく知っている、透き通るような銀髪と雪のように白い肌。

　目を丸くさせて固まっていると、向こう側も同じなのか、口を開けて驚いていた。

　その仕草ですら絵になるほど可愛くて愛おしい。

「……雨宮くん！？」

「か、か、か、カリーナさん！？」

　信じられなかった、夢を見ているのかと目を擦ってみるが、何もかもが現実だった。

　ずっと一緒に遊んでいたフレンドの正体、それは自分の人生に一切関わることがないと思っていた高嶺の花。

　多くの男女生徒を虜にしてきたロシア人とのハーフ。

　高校一の美少女カリーナだったのだ———