10 王子と魔族と悪だくみ
ルルたちが休息を取っているころ、ラグーン王国のある場所で、うごめく二つの影があった。
王宮の奥深く、王子シグの寝室。
ベッドに仰向けになったこの少年は、耳のとがった魔族の少年を上に乗せていた。
「ジエル、おまえの言うことが確かならば、そのルルという勇者をかたる少年は、魔性の力をその身に託しているのだな?」
年齢に似合わない高貴な口調で、シグは荒い息づかいの魔族へと問いかけた。
ボリュームのある金髪は、こんなときですら乱れているようには見えない。
「ええ、シグ王子。そうなのでございます。ルルのその瞳で見つめられたが最後、どんな存在であろうともたちどころに、彼に心の中を掌握されてしまうのですよ」
うしろへ垂らしたロングヘアを振り乱しながら、魔族の少年ジエルはそのように答えた。
「けしからん。そのようにけがらわしい者が、わが領土に足を踏み入れているとはな。必ずやこの手で捕らえ、神の断罪を食らわせてやろうぞ」
「ああ、王子。たいへん頼もしいかぎりです。このジエル、恐悦の極みなれば。さすがは次の王となられるお方にございます」
シグは顔色ひとつ変えず、ジエルをかわいがっている。
「おまえがくれた毒のおかげで、父王はすっかりと弱ってきている。これに魔性の少年への審判が加われば、わが国の民とて、わたしを支持せずにはいられぬであろう。ふふっ、面白くなってきた。ジエル、礼を申すぞ」
「ああ、王子。このジエル、うれしゅうございます」
骨抜きにされたジエルは、王子の上に倒れこんだ。
「ふふっ、かわいいやつだ」
「ああ、王子……」
シグはジエルの頭をなで、引き寄せた。
「ラクスとゼオという者たちはどうする? オオカミ族の元王などは取るに足らんが、エルフ族といらぬこぜりあいなどは避けたいものだな」
「それについてはご心配めさらぬよう。エルフどもには、戦士ラクスは旅先で魔少年ルルにそそのかされ、恥を忍んで自害したとの情報を流す手はずになっております。ですから王子は堂々と、ルル一味の討伐がかなうというしかけにございますれば」
「ふふっ、なるほど。すべてはルルがかぶってくれるというわけか。これは面白い。そうなれば、一族の英雄の敵討ちを果たしてくれたとして、わが国のエルフ族への信頼も厚くなるというもの。ははっ、傑作だ。まったく、おまえは最高だぞ、ジエル?」
「すべては王子のためにございますれば」
ジエルはシグの胸を撫で、ほほをすり寄せた。
「シグでいい。おまえは謙虚だな、ジエル?」
「もったいないお言葉でございます、シグ……」
「ジエル……」
金銀財宝のあしらわれた寝床に、甘い吐息がしみこんでいった。
こうしてルル、そしてラクスとゼオに、着実に魔の手が忍び寄っていたのである。
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