11 王国と黒い罠

 ルル、ラクスとゼオがラグーン王国へ到着したとき、時刻はちょうど日が落ちてきたころだった。


 巨大な門の番兵に事情を告げると、少しの間に確認を取り、すんなりと中へ入ることができた。


「わが国の王子であらせられるシグさまが、勇者さまのご一行に興味を持たれ、ぜひお会いしたいと申し上げております。これから王宮までお越し願いたいとのことでございます。われわれがご案内いたしますので、どうぞご一緒ください」


 番兵はそう提案したが、ラクスとゼオは顔を見合わせた。


「ルル、奇妙じゃないか? あまりにもことが都合よく運びすぎている。何かあるのかもしれない」


「そうだぜ、ルル。絶対に油断はしないほうがいい」


 彼らはこのように提言した。


「そうかもね。でも、なんだか楽しそうじゃない? 逆に何かあったほうが面白いよ。僕は退屈なのが嫌いだしね」


 肝心のルルがのほほんとしているので、二人はあきれ返った。


「さあさあ、ルルさま、ラクスさま、ゼオさま。ご遠慮なさらずに、どうぞいらしてください」


 数人の番兵の先導に、ルルはちゃっちゃとついていく。


 しかたがないので、ラクスとゼオもそれにしたがった。


   *


 王国というだけにかなり広く、門の中の街は人でごった返していた。


 にぎわいも相当な様子で、現王の名君ぶりは想像にかたくなかった。


 三人は番兵に案内され、街の中心を突き抜け、あれよあれよという間に宮殿の中へ招待された。


 そこでは王族の身なりをした金髪の少年が、にこにこしながら彼らを待っていた。


「ようこそおいでくださいました。わたしがラグーン王国の王子シグにございます。勇者ご一行さま、さっそく歓迎の席を設けさせていただきました。どうぞこちらへ」


 ルルたちはシグからの誘いで、豪華な大広間へと案内された。


   *


「シグ王子、つかぬことをおうかがいいたしますが、この国へ入ってからいただけるお心づかい、深く感謝を申し上げるいっぽうで、どこかそぐわないところがございます」


 だしぬけにラクスがそう告げると、シグはハッとした顔をした。


「さすがは、ラクスさま……エルフ族の英雄と聞きおよんでおりますが、このシグ、恐縮のいたりでございます」


 やはり何かある、三人はそう思った。


「この国の中で、何かが起こっているのですか?」


 ゼオもフォローするようにたずねた。


「実はと申しますか、そうなのでございます。これは単なる風聞にすぎないのですが、いまわが国の中では、国内に魔の者が忍び込んだとのよしが、まことしやかにささやかれいるのです」


 シグはおそるおそるそう語った。


「魔の者ですか、もしそれが本当だとすれば、由々しき事態ですね」


 ルルは興味深げに答えた。


「唐突な申し出であり、無礼を承知ではございますが、どうかルルさまがたに、ことの真相を確かめていただきたいのです。そしてもし、魔族の侵入が実際にあったとしたのなら、どうかそれを、取り除いてはいただけないでしょうか?」


 シグは改まってそう懇願した。


「王子はお困りのご様子、お察しいたします。僕たちでよければぜひ……」


 ルルがそう言いかけたとき、急に意識が遠くなって、そのままテーブルの上にとっ伏してしまった。


 それはラクスとゼオも同様だった。


「その魔族なら、こんなに近くにいたというのに」


 シグの背後からぼうっと、悪魔ジエルが姿を現した。


「ジエル、薬が効くのがずいぶん遅かったな。ひやひやさせられたぞ」


 シグは体に腕を絡ませるジエルに語りかけた。


「ふふっ、シグ。効果が出るのこそ遅くはありますが、その代わりによく効くというしくみなのです。しばらくの間は、たとえナイフを突き刺そうが目を覚ますことなどはありません」


 ジエルはニヤニヤしながらそう答えた。


「なるほど、さすがだな。ほめてつかわすぞ」


「ああ、もったいないお言葉でございます」


 シグに頭をなでられて、ジエルはさらに身を寄せた。


「よし、こやつらをそれぞれの場所へ連行せよ」


「……」


 食卓の番をしていた十数名の衛兵たちは、何も言葉を発せず、王子の指示を遂行していく。


 彼らはジエルの魔力で人形にされているのだ。


 ルル、ラクスとゼオの三人は手足を縄で縛られ、木の棒に吊るされて、それぞれ別な方向へと連れていかれた。


「面白くなってきましたね、シグ?」


「ああ、ジエル。楽しみだな、明日の公開処刑が。逆賊ルルを衆目の場にさらし、このシグが成敗してくれる」


 シグとジエルは顔を合わせてくつくつと笑った。


「ゼオは現王に忠誠を誓う重臣たちを掌握するために使うのでしたね?」


「そうだ。死にぞこないの老いぼれどもには、ちょうどいいオモチャになるだろう。そしてラクスは、くくっ」


「われわれが特別にかわいがってあげることにいたしましょう、ふふっ」


「あれほどに美しいエルフの英雄が堕ちていく姿、早く見てみたいものだな。ふふっ、ふははっ!」


 こうして二人は、しばらく高笑いを続けていた。


 魔少年ルルの公開処刑まで、残すところあと20時間に迫っていた。

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