07 地下牢とオオカミ族の王
「ん……」
ルルとラクスが目を覚ますと、あたりは薄暗く、ごつごつとした岩壁に囲まれた場所に寝かされていた。
「ここは……」
ラクスは頭をひねった。
「地下牢みたいだね、ラクス」
彼がキョトンとしたので、ルルは目の前を指さした。
「あ……」
細い木を重ねて組んだ格子が、向こうに見える廊下を阻んでいる。
「誰か来るようだよ」
ゆらゆらと燃えるたいまつの奥から、背の高い少年が近づいてくる。
「よう、気分はどうよ? 人間の勇者さまと、エルフの戦士さま?」
「……」
その容姿は、ルルを釘づけにした。
布の半袖上着と、ズボンにブーツ。
ボディラインを浮き出させるそれらは、少年の肉体の作りを物語っていた。
華奢でもなく、かといって筋肉質というわけでもない。
僕の好みの形……
それよりも何よりも、ラクスとは対照的な褐色の肌だ。
つんとした黒髪との相性は抜群、とがった耳と鋭い目つきも最高だ。
爛々と光る赤い瞳、きれいだ……
この子を足もとにかしずかせたい、いますぐに。
そんなことを、悶々と考えていた。
「君がゼオくん? オオカミ族の王さまなんだよね?」
ルルは動こうとする舌を黙らせながらたずねた。
「ゼオさまだろ? 奴隷の分際で生意気だぞ?」
ゼオが口に出した単語に、ラクスが反応した。
「奴隷だって? いったいどういうことだ!?」
青い顔を向けてくるエルフの少年に、オオカミの王はしたり顔で返した。
「俺が捕まえたんだから、俺の奴隷だ。当たり前だろ? バカなのか?」
「ふざけるな! 僕たちは魔王を倒すために旅をしているんだ! こんなところで油を売っている暇などない! いますぐに開放しろ!」
「やっぱりバカだな、おまえ? そんなこと聞くはずねえし、そもそもどうでもいい」
こんなふうにしばらく、かみあわない会話が続いた。
ふと、ルルが口を開いた。
「ゼオさま、僕たちをどうするつもりなの?」
ゼオはニヤリと笑った。
「そうだな、俺のために死ぬまで働いてもらうか、商人にでも売るか……いずれにせよ、おまえらには使い勝手がおおいにありそうだ。まあ、とりあえずは……」
彼が合図をすると、後ろのほうからぞろぞろと、オオカミ族の群れが姿を現した。
「な、何をする気だ……」
ラクスは嗚咽をするようにひるんだ。
「こいつら、だいぶたまってるんだ。たっぷりと慰めてやってくれや」
取り巻きのオオカミ族はニヤニヤと笑っている
「じゃ、そういうことだ。俺は寝てるから、あとはよろしくな?」
片手をひょいと挙げて、ゼオは地下牢から去っていった。
それを確認すると、誰かが鍵を開けて、オオカミ族たちがぞろぞろと入ってくる。
「ラクスだっけ? エルフの偉い戦士さまなんだろ? このきれいな肌、たまんねえ」
「オオカミなんかにされるのは屈辱だろ? まあ、そこが楽しいんだけどな」
「や、やめろ、近づくな……!」
「だ~め。それに、ここには誰も助けになんか来ないぜ?」
ラクスはたちどころに、オオカミ族の遊び道具にされてしまった。
「ルルって言ったっけか。おまえもエルフとは違う魅力があるな。かわいいぜえ、さあ、俺らと遊ぼうな?」
「いいよ」
ルルはこんな状況でも、奇妙な笑みを見せている。
「びびらねえんだな、おまえ」
「だって、楽しいこと、するんでしょ?」
「まあ、な……」
「ふふっ、じゃあ、おいでよ。僕たちを、思う存分、ね?」
「あ、ああ……」
オオカミ族の誰もが気づいていなかった。
このときすでに、自分たちが魔性の少年の人形に変えられていたことを。
それはこの場からいなくなったゼオも同様だった。
まさか自分の身に、おそろしい危機が迫っているなど、夢にも思っていなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます