第10話 希望は未だ訪れず
「怖気づいてんじゃねぇぞォ!!!」
「ここで呆気なく死んでみろ! 誰が村を守る!? あのクソ狼相手に戦った勇敢な戦士達はどこ行っちまったんだ!」
「団長の言う通りですよ! 我々はゴブリン風情に優位を得て、愉悦するために戦っているのではありません。人間に仇名す魔物から
ホブゴブリンの下へと辿り着いた二人の声が、仲間達へ届けられる。
地に倒れ、死を待つばかりの目には、ほんの少しの足掻きの意思。焦りから拙くなった連携に繋がりを与え、綻びを埋めるため集団はまとまりを取り戻す。
「俺とレイモンドがこいつの相手をしてる間に、お前らは残りを殲滅しろ! 二人じゃそう長くは持たねぇぞ、気合入れてけ!」
魔物の数は確実に減っている。数の有利は既に手にしているのだから、後はボスさえなんとか出来ればこちらの勝ち。しかし、それがそう簡単な話ではないことは降りかかる濃厚な死の気配が告げている。
「よおおおおおおしっ! さっさとこいつらを倒して団長たちの援護に入りますよ!」
「当たり前だろっ、団長たちばっかに大変なこと押し付けられねぇよ!」
「怪我人は俺が連れていく! 皆、戦闘は任せたぞ!」
戦士団に活気が戻る。それぞれが役割をこなし、現状を打ち破らんと動き始めていた。
「レイモンド、本番はこっからだ。まずはこいつが配下たちと合流できない位置まで連れて行く。絶対死ぬなよ。」
「ははは、それは難しい話ですが、団長命令とあっては断れませんね」
『それに、私まで団長の目の前で死ぬわけにはいきませんし』
人間は魔物に劣っている、この世界ではそれが当たり前の事実だ。身体のスペックで劣り、魔法は放てず、数で圧倒もできはしない。しかし、今目の前にいる相手は冷静に互いの力量を測り、対処すれば勝てない敵ではない。
「いくぞっ!」
「はいっ!」
――――――――――
「おいっフレア! ここはただの倉庫だぞ? お前が食えそうなもんなんて特になんもないし、今は早く皆を助けに行かないと!」
「キュウゥ...キュッ‼」
突然前を走るダンを無視して進路を変えたフレアが向かった先は村の倉庫だった。ここには、村で蓄えられている食料や武器、使われなくなった農具など雑多に物が置かれていた。その中には魔物から取れる素材なども保管されており、必然、昨日倒したばかりのグレートウルフの素材もあった。
「グレートウルフか、すばしっこく動くせいで厄介だったってゼネスさんが言ってたな。って、そんなこと言ってる場合じゃない。おいフレア、なんでこんな所来たんだよっ!⁇」
「キュッ!」
「これは、魔石? なんで魔石が倉庫にあるんだ? こんなの何の使い道もないからいつもはすぐ捨てられるのに」
宝物かのように魔石をこちらに見せてくるフレアだが、その思惑に魔石への認識のせいでロンドは気づかない。
ロンドたちが生きるうえで、魔物は脅威である。だが、それと同時にその強靭な身体から取れる素材は非常に有用だった。特にグレートウルフのような動物型の魔物は皮から肉に至るまで余すところなく使われる。
そんな中で、魔物の心臓あたりから取れる石のようなモノ。安直に、彼らは魔物から排出される石で魔石と呼んでいたが、その物体の使い道は未だ発見されていなかった。不要なものは持っていても仕方がない。村の人間たちは魔石をゴミと同然に認識していた。
「恐らくグレートウルフの魔石なんだろうけど、ほかの魔石と違ってキラキラしてて綺麗だし誰かが置いといたのかな。フレア、これがどうしたんだ?」
「キュア!」
フレアは見ていろと言わんばかりにロンドの目の前で魔石に噛みついた。
―パリィィィン!―
「うおっ! どうなってんだ、これ!?」
ロンドの黒目に映ったのは、砕けた魔石からフレアへと向かっていくマナの流れだった。
――――――――――
「ハァハァ...これは...本当に、気が抜けませんねぇっ!」
「集中切らすんじゃねえぞ、あいつらとの分断は済んだ。後はひたすら応援が来るまで耐えるだけだ」
そう言いながらレイモンドは槍での一撃を繰り出し、ホブゴブリンの気を引く。意識がゴブリンと戦う仲間達へ向かないよう決死の攻撃を放つ。
ゴブリン集団対戦士団、ホブゴブリン対ゼネスとレイモンド。理想的な形で分断はできた。しかし、ゼネスかレイモンドのどちらかが戦えなくなった瞬間、戦局は一気に傾く。命がけの時間稼ぎを二人は行っていた。
「本当にっ、こちらは掠っただけでも致命傷だと言うのに、魔物には生半可な攻撃など効きもしないっ! 理不尽な世界ですよ!」
「無駄口叩いてる暇あったら手ぇ動かしやがれっ! 気を抜いた瞬間死ぬぞ!」
そう言って、ゼネスは狙いを定め、執拗に敵の足首へと斬りかかる。
「おいっ、そっち向くぞ! 距離取れ!」
人型の敵であるから比較的次の行動が読みやすいと、ゼネスはレイモンドに指示を飛ばす。しかし、二人だけではまともなダメージを与えるための余裕がない。焦れる二人だが、
「団長! 遅れてすまねぇ!」
戦士団の声が耳に入る。戦局は人間に傾いたようだ。
「よし、耐えるのはここまでだ。一気に行くぞ!」
ホブゴブリンとの戦いを終わらせるためゼネスは攻勢に転じた。
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新人神様の異世界創世記 〜退屈な世界には飽き飽きなので創造の力で最高の世界をつくります〜 日々の営み @hibinoitonami
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