第8話 不穏な空気と村の希望

 次の日、さっそくスキルの検証をするためにロンドは村長のマーティンと、戦士団の長であるゼネスと合流した。

 

「来たか、さっそく始めるぞ」


 師匠でもあるゼネスは剣を教えるときほどの威圧感はないが、やはり真剣な時はいささか恐ろしい雰囲気を纏っている。


「ひとまずはフレアといったか、あの精霊がどの程度の力をどれだけの時間使えるのか確かめねばならん。早速呼び出してもらえるかの」


「分かった、精霊召喚! 来いフレアッ!」


 ロンドがスキルを使うと、赤いトカゲの姿をしたフレアがロンドの頭上に現れ、そのまま頭に着地をする。定位置はここで決まりのようだ。なんとも恰好のつかない姿にゼネスの張っていた気が少し緩み、ロンドは威勢よく叫んだ自分を振り返り羞恥で顔を赤くする。


「うむ、日がたっても変わらずにスキルとやらは使えるようじゃな。さて、それではあそこに用意した的に向かってなにか力を使ってもらえるかの? ああ、数は沢山用意しておるから気にせずともよいぞ」


 気を遣ってくれたのだろう。未だ頭の上から降りる気配のないフレアの行動には触れずに話を進めるマーティンの優しさがありがたいロンドであった。


「フレア、あそこに向かって火を吐いてみてくれ」 「キュアッ!」


 向かっていく炎の息は的に触れるとともに大きく燃え上がり、しばらくして灰が残るだけとなった。


「こりゃあ...すげぇな」


「ふむ、この威力はなかなかじゃな。しかし、ゴブリンは倒せどもホブゴブリンを一方的に焼き尽くすとまではいかなそうじゃのう? さて、まだまだ知りたいことは沢山あるぞ……」


 あれから検証を続けるうちにスキルについて、いくつか分かった。火の威力は申し分なく、調整もできるがホブゴブリンを倒すほどには何度試してもならなかったこと。フレア自身が疲れてくると威力が下がったり、精度が落ちること。そして...


「お前、お腹減ってるのか?」


 フレアは自分たちと同じで確かに生きている。人間とは異なる部分も多いが、疲れたら集中が乱れるし、回復させるには栄養を取る必要がある。しかし、精霊と人間では食べるものが違った。スキルという新しい概念を知ったばかりの今、何を与えればいいのか言葉を交わせないロンドたちにはさっぱり分からなかった。


「キュウゥ...」


 悲しそうな声をあげるフレアの感情が伝わってくる。本調子でなくとも力自体は使えるが、ホブゴブリンのような圧倒的強者に出会ったとき、万全の調子が出せないようでは次こそ死ぬかもしれない。大きな課題が残ったが、ひとまずロンドたちは次の話題に移った。


「そんで、マーティン。やっぱり不味いことになってるぜ」


 昨日、狼の魔物による襲撃があったために森の中に単身向かい、結果的にスキルを得ることになったロンドだが、確かおかしなことがあったとカーラも言っていたなとゼネスの言葉で思い出した。


「あのデカい狼、グレートウルフとでも呼ぶが、あの襲撃によるこっちの被害は死者が二人、動けなくなるほどの重傷は五人、軽傷で済んだのは十三人、合わせると二十人だ。ま、この程度で済んでよかったってのが正直なところだ。が、問題はここからだ」


「うむ、あの狼の疲れ具合じゃな。最初に相手したときから随分と息が荒れていたようじゃし、なにより左足に火傷のような跡があった」


 薬草が足りないと聞いてすぐ森に入ったロンドは襲撃の詳細を知らなかったが、二人の話を聞いてあることに気づく。


「ってことは、その狼と戦って勝ったやつが近くにいる可能性が高いってことか?」


「あぁ、そういうことだろうと俺らは考えてる。そして、戦士団の奴らで村の周囲を少し探った結果、ゴブリンが集団で歩いてるところを複数回見かけた」


 倒したグレートウルフの状態、村の周囲の様子、そしてロンドが戦ったホブゴブリン。それらの情報をまとめ二人の中では最悪の事態が想定されているらしい。


「まず間違いなく、ゴブリンが集落をこの近くに形成しており、そのボスらしき魔物はホブゴブリンよりも強い個体なのじゃろう。グレートウルフの火傷を見るに炎を操る魔法も使えるとみてよいな」


 森の中で二匹のゴブリンとホブゴブリンに遭遇したのは偶然ではなかったのだと知ったロンドにゼネスが告げる。


「ロンド、この村がゴブリンどもに襲われた場合、悔しいが戦士団がいくら力を尽くそうと間違いなく全滅だ。確認はできてねぇが、ホブ共も一匹お前が倒したとはいえ、まだまだいる可能性はある。だが、お前の力さえうまく使えれば俺たちは生き残れるかもしれん」


「子供を、村を守るのが俺たち戦士団の。そして団長たる俺の役目だっていうのに情けねぇが言わせてくれ」


 未だ、13歳のロンド。戦士団に入団することすらできない若者に、老いた自分は頭を下げることしかできない。ゼネスの心には暗いもやがかかっている。何故己はこんなにも弱いのか、何故人間はこんなにも弱いのか。戦士団の一員となり40年の間で多くの仲間が死んでいった。それでも、ロンドを戦場に立たせようとしている自分をどうか恨んでくれと思いながら。


「村が生き残る。その未来のために俺たちの希望になってくれ」


「なんだよ、ゼネスさん。当たり前だろ? 俺はとっくに戦う覚悟もその先の覚悟も決めてるよ。さ、早くこれからどうするのか具体的に教えてくれ!」


 超然とした態度のロンド。その発言で呆気にとられたゼネスを見て、彼を古くから知るマーティンの顔は綻んでいた。



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 皆さんどうも、日々の営みです!

 

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