第6話 この力があれば世界が変わるかもしれない
「お兄ちゃんっ!」
さっきまでずっと泣いていたことが目に見えて分かる。妹の体当たりを受け止め、胸の中でまた泣き始める姿にロンドが心を痛めていると頭上に影が差した。
「心配したんだから!一人で森の中になんか入って、死んじゃったらどうするつもりだったのよ!」
そういっていつも少し先に生まれたことを理由に、お姉さん振った態度を取る幼馴染が怒っている。少し前まで死と隣り合わせだったからだろうか、妹には泣かれ、幼馴染には怒られるこの現状が非日常から日常に帰ってきたことを強く実感させる。
「悪かったよ、もう泣かないでくれミア。お兄ちゃんはどこにもいなくならないし、ちゃんと帰ってきたからさ」
「うん、いなくなっちゃったら嫌だからね?」
「カーラも心配かけてごめん。でも、誰かが薬草を取りに行かなかったら今以上に助からない人が出ていたんだ。もし次があったとしても俺はまた行くよ」
抱きしめられて安堵したのか、今度はしっかりと泣き止んだらしいミアに向かって微笑んでいるロンドはカーラの顔に優しさが戻らないことに気づかない。
「あのね、あんたがやったことの結果だけ見たらご立派な事でしょうよ。でもね、今回は生きて帰ってこれたからいいけど次はどうなるか分からないの。動ける大人がいなかったわけじゃないし、あたしだっていたんだからしっかり人を集めて、もっと冷静に対処できたはず。そのことをあんたは本当にわかってんの?」
「それは...まあ、うん悪かった。確かに焦って周りが見えなくなってた。カーラの言う通り一回冷静になるべきだったよ」
「はぁ~、分かったならいいわよ。けど、なんであんたはいつも冷静なくせに周りが危険になったら焦っておかしな行動をするんだか」
「あはは、ごめん。でも心配してくれてありがとな」
「当たり前でしょ、あんたに死なれたら寝覚めが悪いじゃない」
そういって、気が済んだのかいつもの明るい顔に戻ったカーラに諭されたロンドは自分と同じ年に生まれたこの少女に口で勝てる日は来ないだろうなといつもながら思うのであった。
「そういや、この後村長に話があるんだけど。どこにいるか知ってるか?」
「さあね、でも、今回の魔物は何かおかしかったって話だし村長の家で会議でもしてるんじゃないの?」
「そっか、じゃあ行ってみるかな」
いつの間にか眠ってしまったミアの華奢な身体を抱き上げる。家に入ったロンドは長く伸ばされた美しい黒髪に癖がつかないよう優しくベッドに寝かせ、今日あった魔物のこと。そして、自分に目覚めたスキルの力を報告しに村長マーティンの家に向かった。
「それは
もう日が沈みきりそうな頃、ようやく話し合いが終わり、目をこすって、疲れ気味な村長に無理を言って自分の話を聞いてもらったが、その価値は十分だとロンドは疑うことはない。
「本当だよ村長、俺は薬草を取りに行った先でホブゴブリンに会って死にかけた。そんなところをこいつに救われて今もこうして生きてるんだ」
誰もいなくなった村長の家でフレアを呼び出し、精霊召喚というスキルに目覚めたことを話すロンドは希望に満ちた目をしている。
「むうん、信じるほかないか。この力があれば世界が変わるかもしれんの。しかし、そうなるとお前さんには聞かなければならないことが他にも色々ありそうじゃ。ロンド、お主はその力に対してどれほど理解しておる?」
マーティンに今、疲労のためしょぼくれていた目は既にない。人類史を変えるかもしれない力を得たロンドの道が逸れ無いよう大人として自身が導かねばならないと気を引き締めた。
「いや、まだ分かんないことばっかだよ。薬草を採って帰ることが最優先だったし、最初に使った火柱のせいかフレアも疲れてる感じだったからさ。村長とゼネスさんに相談しながら色々試そうと思って」
「そうか、それは賢い選択じゃな。じゃが、今日はもうお主も疲れたじゃろうし、明日ゼネスも交えて検証をしてみるとするかのう。儂はひとまず思いついた疑問をまとめておくわい」
「分かった。じゃあまた明日来るよ」
激動の一日を終えて、ロンドはベッドで思考する。なぜ急にスキルなんてものが自分に使えるようになったのか、一度だけ聞こえたあの女性の声はなんだったのだろうか。そしてこの力を使いこなせれば人間の未来は明るいものになるのだろうか。
死の間際、人間に厳しいこの世界を恨み、信じてなどいない神に叫んだ。しかし、今の自分には何者かが授けてくれた力がある。大切なものを守ることのできる力が、確かにあるのだ。ならば、希望を与えてくれた者を少しは信じてみるのも悪くないかもしれない。そう思いながら、深い眠りについた。
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