第5話 異世界初のスキル
スキル付与をしてから随分とラグがあったせいでロンドくんが危うく死ぬところだったが、何とか間に合ったようだ。それにしても戦闘なんてほとんどしたことがないだろうに彼は強くないか?
この世界を隅々まで見れる俺は、人間が現状どれだけ劣勢に立たされているかよく分かるが、ロンド少年と同じくらいの子どもがゴブリンに襲われていたときはもっとあっけなく殺られていた。ほとんどなんの抵抗も出来ずにだ。それもそのはずでロンド少年と同じく剣の稽古をしている子供はこの世界では多くいるが、実践では冷静さがなくなって普段と同じようになど動けないのだ。
さらに一人でゴブリン二匹を倒すなんてもってのほかと言っていいことだ。正義感のありそうな少年をフィーリングで選んだつもりだったが、もしかしたら彼は俺が何もしなくても大物になったのかもしれない。
しかし、しかしだ。ピンチに陥ってもうどうしようもならないときに不思議な力に覚醒する。これのなんと素晴らしいことか!あぁ、俺が普通に生活していた時にもこんなファンタジーな出来事があったならばどれだけ人生が楽しかっただろうか。
まぁ、俺はロンド少年と違ってなにかに必死になったことなんて大してなかったし神様が見ていてくれるはずもなかったか...。ただ、俺に神がほほ笑むことはなかったが今は俺が誰かの背中を押すきっかけとなれるのだ。こういうのも悪くない。
いや......なんならこっち側がいい!めっちゃ楽しい!なんだこの感覚は?!確かに俺の人生はクソも楽しくない淡泊なものだったが、この自分の世界で自分の目にかけたキャラクターたちが自分の力によって人生を切り開いていく様を見る。今まで感じえなかった胸の高鳴りが最高潮になっている。
俺は何でこんな訳の分からない空間で、一人神様みたいなことをやっているのか分からなかったが、この高揚感を味わえるのであればそんなことどうでもいいと思えた。
「よしっ、俺の世界の住人たちよ! これからも絶対に面白い世界をつくってやるからな!」
そう宣言して、今の自分にはほかに何ができるのか、どうもしっかりとした感情のありそうなウィンドウさんに聞いてみることにするのであった。空想でしかありえなかった様々なことを思い浮かべながら。
――――――――
「お前が精霊なのか?」
ロンドはふわふわと宙を浮かびながら向かってくるトカゲに話しかけるとそもそも会話が通じないことに気づく。
「そりゃそうか、どうみたって人間の言葉なんて話せそうもないしな」
あの強大なホブゴブリンを一方的に倒した存在とは思えないほどに可愛らしい見た目をしているが実際に目の前で物言わぬ姿になったソレをみると現実を受け入れざるをえない。そんなことを考えていると、精霊はロンドの頭の上に乗ってその四肢をだらしなく伸ばした。
その時、ロンドと精霊の間に確かに回路のようなモノが繋がった。驚いたが、精霊の感情がロンドに流れ込んでくる。どうやら、結構な力を使ったらしく疲れているようだ。
『よくわかんないけど、よろしくな、俺はロンド。お前の名前は...ええっと赤いトカゲだから赤トカゲでどうだ?』
『キュ?!』
コミュニケーションを取れると踏んで名前を付けようとしたロンドであったが、精霊には不評のようだった。もっといい名前を考えろと頭をゲシゲシと足で踏まれながら、そういえば、こいつの体に触れても熱くないなとロンドはふと思う。
『なんだよ、結構いい名前だと思ったのに、じゃあ炎を纏っているわけだしフレアなんてどうだ?』
『キュイ!』
今度はお気に召したのか喜びの声をあげ、右の前足をあげるフレアにロンドも笑顔になる。
そして、【精霊召喚】という新しい力を手に入れたロンドは頭の上から離れる様子のないフレアをそのままに、わずかな重みを感じながら当初の目的を果たすため薬草を採りに向かった。
「お~い!ゼネスさ~ん!」
あれから、魔物に出会うことなく無事に帰還したロンドは門番のゼネスに大きな声で自身の生還を伝えた。
「あっロンド! お前、どれだけ村の皆が心配したと思ってる! いくら薬草が足りなくなったからっていきなり飛び出しやがって、ったく動ける奴らを集めてお前を探しに行こうとしてたとこなんだぞ」
そういいながら体に怪我がないか念入りに確認し、ひとしきり怒られた後、薬草を無事に持って帰ってきたことを褒められた。ゼネスは村で一番危険な門番という仕事を20年も続けている、確かな実力と優しさも併せ持つこの男をロンドは小さなころから尊敬していた。
「悪かったって! とにかく俺はさっさと薬草をマール婆さんのとこ持っていくから!」
尊敬はしているが、説教を始めると長くなることを知っているロンドは事前にフレアの召喚を解除し、ホブゴブリンと戦ったことは後で話そうと決めていた。今は負傷者にいち早く傷薬を持っていくためにも村で唯一の薬師である老婆のもとに急がねばならないのだ。
「婆さん! 薬草採ってきたぞ!」
「おや、ちゃんと生きて帰ってきたね小僧。馬鹿みたいにガキが一人で飛び出したんだ死体が増えるだけかと思ったがよくやったじゃないか」
この褒めてるんだか貶されてるんだか分からない発言をする老婆はこの村唯一の薬師で、ロンドが初めて会ったころから見た目が変わっていない。怖くて年齢は聞いたことがないが、仮に100歳を超えていると言われてもこの婆さんならあり得ると思っている。
そして、ようやく家についたロンドを待ち受けていたのは扉の前で目を真っ赤にしながらぷんすかと怒っている、去年の秋に5歳になったばかりの妹と自分と同い年の幼馴染の少女だった。
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というわけで、祝一万字!です。これからもこの作品を頑張って作り上げていくので応援よろしくお願いします!
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