第4話 そんなことって、ありかよ
「ゲギャギャッ!」 「ゲゲギギッ!」
覚悟を決めたはいいが頭は冷静でいなくてはならない。ロンドはそう思いながら二匹のゴブリンに挟まれないよう慎重に距離を測っていた。しかし、そんなことは杞憂であったかのように一匹のゴブリンが木のこん棒を振りかぶりながら突っ込んできた。もう一匹はこちらが子どもであるとみて油断しているのか動く気配はない。
村の大人に聞いた通りゴブリンはあまり頭がよくないらしい。
「よしっ、一匹ずつ来てくれるならやりやすくていい!」
ロンドはいつもの訓練と同じように落ち着いた心でゴブリンのこん棒をかわし、構えた青銅の剣を引きゴブリンの胸めがけて突き出した。
「グギャアアッ!」
剣は狂いなくゴブリンの胸に吸い込まれ、背中から剣先が見える。
「よしっ!まずは一匹目!」
初の魔物との戦いに勝利したロンドは喜びを隠せないが、まだ一匹ゴブリンは残っている。そちらに目を向けると驚いた顔をしたまま少し固まっていたが、仲間を殺されたことで油断がなくなったのかしっかりとこん棒を構えたゴブリンがゆっくりとこちらに向かってきている。
距離が縮まり両者の間合いに入ったが、ロンドは単純な力勝負になれば子どもの自分には不利だと考え、ゴブリンの攻撃を躱してから先ほどと同じように急所に攻撃をいれるつもりでいた。硬直が続く。
しかし、先に耐えられなくなったゴブリンが右手に持ったこん棒を振り上げ、振り下ろす。その動作をしっかりと目で追いバックステップをしたロンドは即座に距離を詰め胸に剣を刺そうとするが力んでいたのかゴブリンの左腕に向かった剣はゴブリンを仕留めることに失敗する。だが、ゴブリンが痛みに怯え後ろへ下がったことで一度距離ができる。
「ふう、焦るな。もうすでに一匹は倒したんだ冷静にこいつを殺すことだけ考えろ。」
左腕を押さえているゴブリンに勝機を見出し、今度はこちらから攻撃をするため間合いを詰める。こん棒を剣に合わせてくるゴブリンだが怪我のせいか体勢が崩れたところをロンドは見逃さず、今度はしっかりと左胸に剣を突き刺す。
「ギィアア!」「よっしゃあっ!」
初めての戦闘が一人でゴブリン二匹というハードな経験を経て成長したロンドだったが、薬草を取ることが目的だと思い出しすぐにまた森の中を移動しようとしたその時。
「はっ、ハハハハハ、ほんとこの世界はクソだわ」
視界の先に先ほどのゴブリンよりも一回りも二回りもデカいゴブリンが立っていた。
ホブゴブリンと呼ばれるソレは、大人程の体格にそれを遥かに上回るパワーを持った人間からすると理不尽な怪物なのだ。ロンドが村の大人から聞いた話によれば、昔村の戦士たちが戦った時には20人ほどで対峙し半分が帰ってこなかったらしい。そんな怪物を前にして先ほどまでゴブリンに勝って高まっていた気分はすっかりと萎え、逆立ちしても人間が一人で勝てる相手ではない魔物に対し、諦めや村に残してきた妹と、淡い恋心を抱いていた少女にもう会えない悲哀を感じていた。
「グアァァァァァ!」
咆哮とともにこちらに向かってくるホブゴブリン、逃げられる気配などありそうもない。
体が竦み、尻もちをついたロンドが最後に考えていたことは両親が魔物に殺され妹と二人になった自分が悲劇の主人公でもなんでもないと気づいたときのことだった。この世界で人間というのは魔物が寄り付きにくい場所にこっそりと住み着き、狭い空間に何とか畑をつくる。襲撃から村を守るため魔物に立ち向かう戦士や生活に必要な物資を取るため森に出かける者たちも常に命がけで過ごし、最大限の備えをしていてもなにかの不運があればすぐさま命を落とす。
魔物のように高い身体能力も、ましてや魔法も使えない人間はこの世界では狩られる側の存在なのだ。
もうすでにホブゴブリンのこん棒は振り上げられ、あとは数瞬のあいだに自分は肉塊へと成り果てる。そうロンドは思っていたがこの死に際で沸々と怒りが湧いてくる。それは何の力も持たない自分に対してだろうか、それとも。
「クソがっ!神様なんてもんが本当にいるんなら恨むぜ!」
「努力したって理不尽な強さの奴らには勝てない俺たち人間が、必死こいて足掻いてる姿は見ていて楽しいかよ!」
そういってロンドはホブゴブリンの攻撃を避けるため、腰が抜けて使えなくなった足の代わりに必死に震える腕で、何度も打ち鳴らされる心臓の音を感じながら距離を取ろうとするが努力虚しくこん棒が振り下ろされる。
≪スキル【精霊召喚】が付与されます、死にたくなかったら精霊召喚と叫びなさい≫
聞きなれない声がロンドの耳に届いた。高圧的だがどこか逆らえないような神聖さを纏った声に驚くが、迷っている暇はない。
「ッ!せ、精霊召喚!」
―ゴオオォォ!!!―
火柱が立つ。視界へ新たに現れたそれは、ゆらゆらと燃える炎を纏った赤いトカゲのような生き物。ホブゴブリンを焼き尽くさんと出現したそれは人外の力を持っていた。
「こ、こいつが精霊?」
火柱の勢いは弱まることなくホブゴブリンを焼き続け、その災禍の中で痛みに耐えられないとばかりに叫んでいた怪物はその勢いを少しずつ落としていった。ロンドは何が起きたか全く掴めない状況に困惑していたがまだ生きているという実感だけは湧いていた。落ち着いてきた手の震えを感じながら。
「よく分かんないけど、これは俺がやったってことなのか?さっき聞こえた言葉はなんだったんだ」
そう呟きながら、ロンドは目の前で焼け死んだホブゴブリンの死体とこちらにゆっくりと向かってくる赤いトカゲを交互に見つめていた。
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皆さんどうも、日々の営みです!
というわけで、ようやくスキルが顕現しました~ここからロンドの住む世界の人間たちがどうなっていくのか、お楽しみに!そして、主人公のくせに出番のなかった神様は次話で登場します~
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