慢性的な避暑地 ④
フードコートで暴行事件があった。それは政府関係者が何者かによる集団的な組織によって暴行された、という内容の事件だった。自分はそれを、後日マスメディアが報道したニュースによって知った。 コールド・オブ・ナーが関わっているのだろうか、とふと思った。それ以上は特に何も思わなかった。事件の原因としては、政府関係者の人間がフードコートの『従業員専用』と書かれた看板の扉の奥、螺旋階段の一部に盗聴器を仕掛けていた為であると捜査関係者は明らかにした。階段の踊り場が戻り場であったのは自分だけじゃなかったらしい。幾人もの人間の〝戻り場〟と、その螺旋階段の踊り場は化していたのだ。
自分はその事件を伝えているマスメディアの様子を栄養吸収剤の混ざった補水液を飲みながらずっと見ていた。とても興味のそそられない情報は、無駄な養分で進行形で太っている子豚の行進の様だった。進行形で進んでいる憎悪の肥大化を見て、経過が進むにつれ、自分はそのニュースを見ることをやめた。それは補水液の残量が底を尽き全てを飲みきった時だった。
***
私がotibaと離れてから一ヶ月以上が経ち、身体から欠落が哲学とでもいうかのように抜け落ちたotibaという色彩は未だに私の心を離れることはなかった。
私の幼稚な乳房をあの人が舐めている様子というのは、未だに、斜陽が鬱屈をカーテンの隙間から焼き殺すように、私の心の中の安置所に残っている。otibaがどのような一ヶ月を過ごし、どのような性体験を得たのか分かろうともしたくない。けれど各々が過ごした一ヶ月というのは、等しい期間であると言えるものであると信じたいし、そうじゃなければ心の何処かに封じ込めている不満の気持ちが今にも、目の前に存在するカフェのテーブルの上に飛び出してしまいそうだった。
窓際に席に座って何かを待ち続けることにも慣れた。沢山悩んだ。誰かになれればという気持ちにも慣れた、俯くしかない人生にも慣れた――汚した、下着を履き替えたあの日を私はもう乗り越えた。
けれどotibaという色彩を身体は求めていた。色彩という言葉でごまかしているものの実態が本当が精液であることは分かっていたし、ならばその色彩の色は白色だと言える。
otibaの色彩を求めていた。欠落を覚えた身体が求めていた。
――自分の家は
その名の通り〝最底辺〟で〝最重要〟だったし、その上で放置されている場所であることも確かだった。
勿論そこにも色々なお店が存在していて、放置区ではそのお店という機能が与えられている建物の方が何故か立派な建物だったし、その中でも一番立派な建物というのが風俗店であった。どれだけ物質的に豊かな都市部に住もうとも心が貧しく、ただ感情の焙煎だけが人生であると捉えている人間が多いのにも関わらず、放置区は物質的にも貧しかったし、けれど心は僅かに都市部に住む人間よりかは豊かであった。僅差で、と言ったところだけど。何も無いからこそ〝ここ〟には何でもあると住んでいても思う。母親の存在を抜きにしたら。
自分はカフェオレを飲みきり、ぼーっと少しだけ意識を外に向けて情景に感情を溶かしたあと、お店を出てその放置区の中で一番立派な風俗店に向かった。
自分の家の近くに来るのもひさしぶりだった。otibaと共に過ごしていた都市部とは離れたところに金愚最重要最底辺放置区は存在している。フードコートのある都心部から放置区の最寄り駅までは十駅以上あって三十分以上はかかるし、仮に放置区の最寄り駅に着いたとしてもそこから三十分歩いた辺境の場所に金愚最重要最底辺放置区は存在するから、そこに住み着いている人間以外は近づこうとはしなかった。
駅から自分の家の方向――放置区の方向に歩いて行くと、草原の中に突如にして大きい建物が、目の前に見えてきた。その建物はまさしく風俗店だった。
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