第五章
慢性的な避暑地
蓮花がいるべき場所に存在しないという、事実を突きつけられ、それは自分の頭の中を優しく、時折激しく渦渦巻いている。(自分の元にいるべきだと、断言出来る気持ちはないけど)。
部屋のいつもの場所から欠損のように姿が消失してしまっていると知った一日のことは自分の頭の中に残響音の様に残り続けていた。そのことで頭が一杯になり、いつも自分の首元を掴んで絞めてくる目の前の日常や現実が、皮肉なことに妙に感じられなくなっていった。
生々しさが自分の人生から消え失せていた。そんな中で、自分はまた夢を見たんだ。それが本物の睡眠であるという事は、身体が包括的なまるで羊水の上に浸っている感覚が教えてくれたし、肉体的な制約から逃れたその感覚というのは、自分が現実の世界で生きているその感覚よりもありありとしていた。
――自分は輪廻の元に久しぶりに行って自分がこれまで(この数週間、数ヶ月以内の)出来事を隅から隅までくまなく精査するように話した。輪廻の反応と言えば特にないわけではなかったが、自分が求めているような反応では無かった。なんて言って貰えればいいのかも分からずに言った言葉だったのだけれど。コールド・オブ・ナーのボスの男と邂逅した事に対しては反応を示し、邂逅の一部始終も証言を話すかのように覚えている限りの〝事実〟を〝言葉〟に起き変えて話した。
『そうなんだ、それは大変だったね。これからも頼むよ。コールド・オブ・ナーがotibaと手を組むというのは表向きの部分だろうから、裏で渦巻いているものがなんであるかをしっかりと知れたらいいんだけどね。コールド・オブ・ナーの組織そのものの意図が分からない。もしかしてコールド・オブ・ナーのボスのその男は、組織とは別に何か個人的な目的を抱えていたりしてね?』
そう言った輪廻の言葉に対して、自分がそこから何を汲み取ればいいのか分からなかったし正直なところ、あまり身体の内部にすっと染み込むような言葉ではなかったから――自分はただ〝そうですね〟という言葉を事務的に返しただけだ。
帰り際にの自分に、輪廻はこんな言葉をかけてきた。
「勝負をしよう。コールド・オブ・ナーがどこまで世界を動かす人間に対して善意を持っているのか分からないわけだから、世界を動かす人間がどのような悪意に晒されるか分からないということでもある。otiba、君の出番なんじゃないかな? 世界を動かす人間の深層意識の中に入り込んで、また対話を試みる時が来たってことだよ。まぁ、コールド・オブ・ナーがムーンライトに似た、人間の深層意識の中に入れる技術を持っているだなんて思わないけどさ」
「確かにそうですね」
自分は確かにそうだな、と確かに思った。自分は頷きながら輪廻の表情を捉えると、そのままそこを立ち去った。
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