心中お察ししますっていうか、もうそいつは死んでるんだよ ②

 大勢の人間の行進を垣間見た。それは現実から逸脱した次元の違う所で行われていた物事のように感じられた。人々は〝どこかしら〟に向かっているように見えたし、それがどこかは分からないけれど深夜帯の歪な雰囲気はとても肌寒く感じられた。

 自分は家を出ると、カフェに向かった。深夜の時間帯を迎えている街は虚脱感に似た感情の羅列で溢れ返っていて、肌寒く感じられる肌を引き締めた。


 カフェに行くと、一番端っこの席を陣取ってからカフェオレを買った。湯気が自分の肌を温めた。それからというもの、自分は外をずっと眺めていた。


 間を埋めるように一口だけ口に運び、そうして外を眺める――その一連の動作を酷く繰り返したし、酷似する動作に自分でも肉体の感覚からの離脱を覚え始めそうになったから良きところで一連の動作をやめた。人間を眺める、それはカフェの店員だった。まばらに来る人々と、女性店員のやり取りをずっと眺めていた。そうするととても気持ちが落ち着いたし、俗世の匂いを少しばかり拭いきる事が出来た。飲み飽きてコーヒーを五分の一ほど残して、自分はカフェを後にした。


 ――雑居ビルに自分は戻った。


 自分は記憶フロッピーディスクの売人という仕事と共に〝輪廻〟からの依頼を受ける〝スパイ〟とも呼べるような仕事をしていたし、それはとても楽しかった。その内の一つが〝世界を動かす人間〟の見守りであった。自分自身や、蓮花や彼(世界を動かす人間)を含まない〝その他〟の人間達が作り出す世界に、我々は(そんなに主語を大きくしてしまっていいものかと思いながら)、そんな世界に〝違和感や息苦しさ〟を感じていたから、〝この世界〟からこぼれ落ちない為の――自殺をすることが無い様に見守るのが、自分の役目だから。


 ――この、もう使われていない雑居ビルでいつも対話を試みる。もっと明瞭に言えば〝この場〟から離れた〝ムーンライトの内部に映される世界を動かす人間自身の潜在意識の中で〟ということだけど。自分は、彼が休憩をしに来る時間帯を狙っていつも雑居ビルに来ている。それが自分の日常であり、自分が常としてる役目でもあった。


 今にも朽ち果てそうな階段を一人の人間が登ってくる音が聞こえた。その足音が彼のものだという事に気がつくのにはそんなに時間はかからなかった。ワイシャツを身に纏い、〝自分が世界を動かす人間である〟という事を知らない彼がやってきた。筋肉質な身体はいつも通りの彼の身体だった。自分はすぐさまムーンライトを用意する。彼がいつも通りに屋上の椅子に座る。ムーンライトを開く、ムーンライトが展開すると、青く暴発的な明かりが自分達を飲み込んで街全体をも飲み込んだ。瞬間、我々は別の世界へと行き、この世界を離れる。

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