第二章
もう、いいんだ
自分は、どこかで眠ってしまった。
そしてそれが、〝眠ることが出来ない世界〟での〝本物の睡眠〟であるから、本物の睡眠――〝昏睡〟であるということは〝記憶フロッピーディスクを嗜んでいるという、事実そのもの〟でもあったから、それがどこで睡眠に誘われたかで処遇が決まってしまう様にも感じられた。
政府は記憶フロッピーディスクの売買を禁じているし、もし記憶フロッピーディスクを根本から禁止している法律に反抗する者を本気で根絶しようとすれば、有無を言わさず自分が逮捕されることが一番だろう。
自分が記憶フロッピーディスクを売らなければ、自分以外にそれを売る人間はいない。そういう意味では(政府の人間だって記憶フロッピーディスクの売買に関わっている人間が存在する事を自分は知っているから)、自分は〝様々な人〟に狙われているといっても過言では無いのかも知れない。さぁ、どうだか。
記憶フロッピーディスクを嗜んでいるとバレるのも時間の問題だと思った。
自分が目を覚ました時には――端っこの席で帽子を被って俯いていた事が功を奏したのか、バレることはなかった。それに、人々は目を瞑って主観から客観への離脱を試みていたし(そんな姿がよく見受けられたし)、混雑を少しだけ削ったような人混みの中に〝他人〟にまで意識を向ける余裕のある人間がこの場にいるとは思えなかったから、自分は空間の、〝そこ〟を形成する下地の断片的な一辺に歩調を合わせ、空間の〝それ〟達の一部と化した。
――昏睡の中で、夢を見たんだ。
太陽は何故か透明で温かく、
退屈な午後は自分に妙にやわらかく、
当たり前のように鳥や虫が鳴き、花が咲く――女の鼻歌が耳をからかう。
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