激情
大槻アコ
激情
君との最初の記憶は、幼稚園のお絵描きの時間。黒色しか使ったことがない私に、君は金色をくれた。いつも我が強い子たちが取り合いをしていた、一本しかない金色のクレヨン。 君だって使いたがっていたのに。
親の顔を知らない私は、暗くて薄汚れた世界にいた。その世界しか知らなかった。何もかも、手を伸ばしても届かなかったから諦めていた。それなのに、君から手を差し伸べてくれた。あの日、なぜ君が私を見て驚き、そして嬉しそうに笑ったのか分からない。私には君しかいないのだ。その瞬間から、無かったはずの私の感情がじりじりと焦げ始めた。
それから君は私の手を引いていろんな所に連れまわした。私は君についていくので必死で、君しか見えなかった。そうしていくうちに、私の中の足りない何かが埋まっていった。 私の感情が加速度をつけて焦げていく。
君は好奇心旺盛で純粋で眩しい。いろんな人間とぶつかり合い、分かり合う。それを繰り返して眩しさが増す。私にとって君は特別に眩しい。君は静かで暗い夜を朝だと錯覚させるくらいに輝く一等星みたいだ。でも君のその眩しさは私が生み出したのではない。それは私ができないことだ。許せなかった。ついに感情のすべてが灼け焦げた音が耳の奥に響いた。 それは何が何でも君が欲しい、そしてめちゃくちゃにしたいと痛感した瞬間でもあった。 高校二年の冬の話である。
君を手に入れるためには君が私のことを、私と同じくらい欲しがってもらうしかないのだと直感した。一生かかっても構わない。他のすべてを投げ出し、自分の人生すら捨てて君の人生に殉じる。これは他の奴らとは違って、私にしかできないと自負している。
私のこの感情はもう灼け焦げていて、君の持つ感情はまだ綺麗なままだ。だから私は今、 これを君に見せるつもりはない。私は待ち続ける。君のことを、君の一番近くで。空に輝く一等星が手元に堕ちてくるときまで。
そう思う私のなんと意地汚いことか。
(了)
激情 大槻アコ @otukiako
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