第10話 なんとなーくー♪
「お前の出るエギジャが終わったら話がある。聞いて欲しい」
あれから数日がたち、ダンに呼び止められる。
「はい」
素直に返事。
ここで何か詮索されるのは厄介この上ないからな。
「…」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
「ふうッ!ふんぬ!」
俺が最近ハマっているもの。
それは何を隠そうKINTOREである。
最近はようやく腕も太くなってきた。
あとは身長だけで俺はモテ男になれる。
そんな冗談はおいておいて、俺が筋トレをするのには山よりも深い理由がある。
俺はもう闘気を使えない。
なら最低限のフィジカルだけでは、領主と言う仕事は全うできないだろう。
最大限のフィジカルとフィットネスによって、闘気で補えない分の身体能力を補わなくては、来たるべき戦では活躍できない。
来たるべき戦。
隣国ソゼウとの戦争だ。
俺の兵士としての知恵による予想だが、間違いなく近い将来に戦争は起こる。
これには幾つかの根拠がある。
まず決定的な部分でいうと、ソゼウ王国に住まうのは人族ではない。
魔族だ。
ソゼウ王国国王は建国の祖、
だが、現在ソゼウ王国内に王様はいない。
カギエルは死に、後継の閻魔王はソゼウ王国を越え、さらにメンドラート海峡を越えた先にあるヴェノマニア大陸にすでに領地を持っていた。
よって国王は死んだカギエルのままで、本当の国王が誰も居なくなった代わりに国王の政治を助ける役割の首相が選挙で選ばれるようになった。
恐らく前世でもここまでおかしな実態を持った国はなかっただろう。
今のところ魔族と人族は協力関係にあり、人族の場所で魔族が暮らしていることもあれは、魔族が支配する大陸であるヴェノマニアに人族が住んでいることもある。
だがソゼウ王国内では人族は暮らしていない。
完全他種族排斥によって成り立っているのだ。
他種族の身分は全て奴隷。
それがソゼウ王国だ。
そんなソゼウ王国内の最近の実態はあまり良いものとは言えない。
その極端な国風により、どの国もこの王国と同盟関係にないのだ。
昔は人族と魔族を繋ぐ重要な拠点だったらしいのだが、今はもう完全にその影はない、『寂れた王国』
この国の現在の首相はベニテス・S・グラファイト。独裁政策を強いている。
この二つが意味することとは、ベニテスが国民の不満を一身に受けていることだ。
さらにこのブルガンディ地方は、元々ソゼウ王国が占領していた。
なんでも1000年前に起こった魔族と人族の大戦争の際に魔族側が占領したままになっていたらしい。
それは裏を返せばソゼウ王国自体も人族、しいてはオルタン共和国領になるのだが…。
ま、人間そんなのなんだって屁理屈を垂れる。
それは戦争の当事者である俺が一番わかっている。
溜まった国民の不満を戦争で他国の領地に侵略することで愛国心、ひいては自分の支持率増加につなげるのは世界が変わっても同じだろう。
日本も同じだし、なんなら俺が死んだ時も世界中でそんな理由がほったんの戦争は沢山あった。
最後にもう一つ、十五年前この二国間で小競り合いが発生している。
コレについては箝口令が敷かれているせいか俺も内容は知らない。
が、開戦の紐はゆるくなったのは間違いない。
だから俺は必ず戦争が起こると踏んでいるのだ。
もっともそれが何年後なのかはわからないのだが。
「ア〜イク〜♪」
そんなことを考えていたら部屋がノックされたので、俺は急いで服を着てドアを開ける。
そこにはウフフモードのエリナがいた。
「なんですか?母さま?」
「ちょ〜っとお腹触ってみてほしいんだ〜けど〜♪」
言われたのでお腹を触る。
「なんと〜子供が出来ました〜!アイクの弟か妹で〜す!」
エリナはじゃーんって効果音が聞こえるぐらいのはずんだ声で言う。
あ、へえ。子供。弟、妹。へえ。
「あれ?アイク?」
え、えと、
反応の仕方が分からんのだが。
よ、喜べばいいのか?
良し、喜んでおこう!
「わあーよかったですねお母様」
ぼーよみ。
あかん。これはいかん。
俺は何か
こんなこと経験してないからどうやって対処すればいいのかがわからない。
ど、どうしよう…
「あ、え、えと、弟か妹が産まれると、僕が母様と父様にかまってもらえる時間がへ、減っちゃうなって…」
一瞬、時が止まる。
「ア、アイク!」
「ぐえ」
抱きしめられた。
い、い
「痛い痛い痛い痛い!」
「ごめんなさいアイク。今までかまってあげられてなかった分よ」
「痛い痛い痛い痛い!」
もがいても脱出できない。あかん、これは…
死ぬ!
「あなたがあまりにも大人びていたからてっきり…」
「ぐおおおおおおおおお」
「大丈夫よ。大丈夫アイク」
「ぐおおおおおおおおお」
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
夜更け。
円卓を囲む五人の影。場所はティルス領主の館の会議室だ。
「ねえ、やっぱりそれには反対よ?行かせちゃダメだわ!」
席の一番左に陣取ったエリナは大声を張り上げる。
「いや、俺にもうその力はない。行かせるべきだと思う。もうアイクの頭は幼児の域にない」
エリナの隣でどこかそわそわした態度のダンは目線を右往左往させながらそうつぶやく。
「ええ、若様には最高級の師を付かせるべきかと」
「アイク様ならば必ずやり遂げられましょう」
「いいえ!奥様のおっしゃられることも一理あるのではないですか?若様はあまりにも若すぎます!」
使用人一同はエドガーとルルがダン側につきナーナがエリナ側についた。
いつものことである。
「ダメだ。やっぱりアイクは最高の教育を受けるべきだ。州都のアゾの街には質のいい教師がいるし、何より同年代のライバルがいる。切磋琢磨できる環境があることが最も大事だろう」
「で、でも同年代といえどアイクよりは3歳ぐらい年上よ!やっぱり辞めるべき…」
「何をお話しているのですか?」
「「ええっ?」」
白熱する議論の最中に現れたのはほかでもない張本人、アイザックである。
きょとん。そんな効果音が似合いそうな佇まいのアイザックはまだ起ききっていない頭を乗せた首を傾げ、周りを見渡し、大方自分のことを話していたのだろうと考える。
「あーなるほど、うぃっす。じゃあ、寝ますね」
「えーとこれはだな…ええ!?」
なんか重い話しをしたいたことはわかったが、何を話しているかはわからないので一旦考えないことにしたアイクはもう寝ることにした。
ずいぶんと豪胆になったように感じるが、本人はただ眠いだけである。
アイザック自身も周りも気づいていないが、アイザックは絶望的なほど朝に弱いのだ。
会議室の大人たちはあっけにとられた。
「え、えと…」
「まあ、大丈夫そう…?」
「まあ、若ですし大丈夫かもしれないですね」
「じゃあいいや。決定で」
アイザックは何となくでブルガンディ州都留学が決定した。
因みに本人は二度寝でこの問答をすっかり忘れてしまっていた。
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