第2話 おさそい

「おはよー」


と言いながら教室に入ると、幼なじみの野沢瑠奈がキラキラした目でこっちを見てきた。


うわっ…これは嫌な予感がするぞ…新学期早々、厄介事に巻き込まれる気しかしない。前、瑠奈が目を輝かせてきたのは高一のときで、何故か瑠奈と、もう一人の幼なじみである吹雪実莉と一緒に英語を喋っちゃいけないゲームを一日中やらされたものだ。英語の授業がある日にそれはないわー……


「おはよう、颯姫」


「おはよー、颯姫!」


それぞれおはようと言ってくれる実莉と瑠奈に手を振りつつ、あたしは自分の席に荷物を置いた。去年と変わらず、あたしは出席番号一番。毎度恒例の一番前の席だから考えなくていいという点ではいい席だ。


なんて考えながらのんびりお茶を飲んでいると、あたしがお茶を飲み終わるのを見計らって、瑠奈と実莉がこっちへやってきた。そして、瑠奈がキラキラした目のまま言った。


「ねぇ、颯姫、実莉!私と一緒にアイドルになろう!!」


………えっ……!?


「「アイドル!?」」


それなりに人の多い教室に、あたしと実莉の声が響いた。


今日は始業式。学校に来て、いつものように瑠奈と実莉と話そうとしたら、瑠奈のこの爆弾発言である。


「そう、アイドル!私たちでユニット組んで、ハイドラに出ようよ!」


……ハイドラねぇ。

いや、ハイドラが悪いわけじゃない。ただ、あたしはアイドルなんて柄じゃないからなぁ。フリフリ衣装とか可愛い恋愛ソングとかは似合わないよ。


「とりあえず、私たちが出るかどうかは置いておいて、何人で出ようと思ってるの?」


と実莉が問うと、瑠奈は


「出来れば9人集めたいんだよね〜。去年女子部門で優勝したWorld Flyers!は今年もまた出るだろうし、そう考えるととりあえず量は欲しいっていうか」


うーわ…なんか生々しい……アイドルの裏側を見てしまった気分だわ……


いや、それはどうでもよくて。


「ねぇ、瑠奈。なんであたしたちを誘ったのさ?」


そこが疑問なのだ。瑠奈はなんだかんだいって交友関係が広く、どんな人とでもすぐに仲良くなってしまう人間なのだ。可愛い子なんて知り合いにいくらでもいるだろうから、可愛い実莉はともかく、わざわざあたしを誘う理由がわからない。


「えー、そんなの、二人とやりたいからに決まってるじゃん!」


満面の笑みで言ってのける瑠奈。そんな瑠奈の姿を見て、実莉と二人でぷっと吹き出す。


「ちょっとー、なんで笑うのー!?」


頬を膨らませながら文句を言ってくる瑠奈の頭を撫でながらあたしは言った。


「あたしも実莉もさ、瑠奈のそういうまっすぐな所、ほんと好きなんだよ」


好きという単語が聞こえると、


「ならいい!」


と機嫌を戻す瑠奈はやっぱり単純だな。とか言ったら怒られるか。黙っとこ。


「で、で、どう!?やろう!!やってくれるでしょ!」


瑠奈が再度キラキラした目をこちらに向ける。すると、実莉がふふっと笑って、


「いいよ。瑠奈となら絶対楽しいと思うから」


と言った。甘やかしちゃダメだよ、実莉〜………

ほら、瑠奈がめちゃくちゃキラキラした目でこっちを見てくるじゃん……


「ねね、お願い〜!それに颯姫なら絶対かっこいいアイドルになるよ、女の子にモテモテだよ!?チョコ山ほど貰えるよ!?颯姫の憧れの学園の王子様的存在になれるよ!?」


それで釣れると思ってんのか、瑠奈よ……


でもまあ、幼なじみのわがままをきいてあげますか。


「仕方ないなー、やってあげるよ!」


べ、別にモテたいとかじゃないからね!?勘違いしないでよ!?

て、誰に言い訳してんだ……


まあ、


「やったー!ありがとう、颯姫!」


と喜ぶ瑠奈を見てたらなんかもうどうでもいいかな、なんて思う春の朝なのでした。

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