第3話 おもいで
なんだろう、この気持ち……
目の前の光景に、私は言葉を失った。二人を見ているとなんだか気持ちがもやもやして、ざわざわして、苦しくなって……これって、まさか!
私はそう思って、息を吸い込んで言った。
「何茶番やってるの二人とも!」
呆れという感情、よね……
なんて、この私の考えも茶番かしら。
なんというか、この二人が先生や友達に「おばかーズ」「残念組」っていう不名誉な愛称を付けられるのもわかる気がするわね…こんなやり取りばっかりしてるもの。
ほんと、黙っていたら可愛いのに、喋ると途端に素が出ているというか…まあ、素の二人ももちろん可愛いと思うし、大好きだけど、ね。
「ちえー、実莉に怒られたー!」
と拗ねる瑠奈の頭を撫でながら、私は言う。
「でも、九人ならあと六人居るわよ。それに、作詞、作曲、ダンスに衣装…それに関わる予算のことも考えなきゃ」
私の言葉にハッとした瑠奈。そして、大きな声で言う。
「作詞は私やるよ!あとは無理だけど……あと、ねぇ、皆!皆も一緒にやらない!?」
なるほど確かに、瑠奈は中学の時からケータイ小説を書いていたりする。だから、歌詞作りはちょうどいいわね。
そして、最後の言葉はクラスメイトのみんなに向かって言ったものかしら。そもそも私たち、今年は受験生だもの。やりたいなんて人、いるのかしら……
なんて思っていたら、千夏ちゃんが「ねーねー、るなー!」と言った。千夏ちゃんもやりたいのかな……?
同じことを考えたらしく、目を輝かせた瑠奈が千夏ちゃんの所へ行き、「なになに!」と言っている。
「あのさ、あたしは無理だけど、あたしの従姉妹ならやってくれるかもよ。従姉妹のあたしが言うのもなんだけど、めっちゃ可愛い子で昔は読モとかしてたし、ファッションのセンスとかもいいし」
へぇ、元読モ…なかなかすごい人だわ。
「えー!すごーい!ねね、なんて名前なの!?お話したい!」
と瑠奈が食いつくと、
「今年入学してくる、橘花蓮だよ。柑橘のきつでたちばな、花に蓮でかれん。あれだったらあたしから今日連絡しとくよ、明日の放課後でいい?」
と千夏ちゃん。瑠奈はその言葉に何度も頷きながら「ありがとう!楽しみ!」と言っていた。
全く、調子がいいんだから。
「で、ねえねえ!実莉もやろうよ!お願い!」
千夏ちゃんとの話を終えた瑠奈が、私の手を握りながら言う。
大好きな友達の言うことだもの、聞いてあげたいのは山々。だけど、私は県外の公立の大学が第一志望で、正直そんな事をやっていては勉強ができない気がする。
「実莉が公立行きたいのは知ってる……けど、高校生活、あと1年しかないんだよ!?そこからは離れちゃうんだよ!?思い出作りたいじゃん!私は、3人で思い出作りたいの!」
瑠奈の言うこともわかる。けど、これからの将来と、今の楽しさを天秤にかけることが、今の私には難しかった。
「ちょっと考えてもいいかしら……」
私の言葉に、瑠奈は「もちろん」と言った。
その後一日中、思い出を作りたいという瑠奈の言葉は、私の頭から離れなかった。
翌日。晴れた空に満開の桜という、入学式にはもってこいの好天の中、入学式が行われた。
とはいっても、私たちは何もすることがないんだけどね…去年、私は生徒会長だったから挨拶をしたけれど、今年はもう次の生徒会長さんになっているから挨拶はないし。入学式後はショートホームルームだけだから、なかなか暇なのよね…
というか校長先生、相変わらず話が長いわね…ほら、隣に座ってる瑠奈があくびを抑えているわよ…ああ、またあくびして……
瑠奈が三十八回目のあくびをしたあと、やっと入学式が終わった。
「さて、瑠奈。あたしたちはここで待ってていいんだよね?」
そう、あの後千夏ちゃんは連絡をとってくれた。そして、私たちの教室に来てもらうことになったのだ。
「わかるかしら…それに、入学したばかりで三年生の教室に行くなんて、なかなか怖いわよね…」
大丈夫かしら。
そう思った直後、教室のドアが控えめにノックされた。
「!」
瑠奈が走ってドアを開けると、そこにいたのは。
とても可愛い少女だった。
肩に届くくらいの長さのツインテール、長いまつげにパッチリとした目。シューズのラインの色が黄色ってことは。
「あなたが、橘花蓮ちゃん?」
と瑠奈が聞くと、その少女は緊張した顔で、
「はい」
とだけ言った。
可愛いな、なんて思っていたら、瑠奈がいきなり花蓮ちゃんの手を握り、叫んだ。
「花蓮ちゃん、私たちと一緒に、アイドルやろう!」
笑顔の瑠奈と固まる花蓮ちゃん。その二人を見て、私は密かにため息をついたのでした。
あーあ。
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