5
車での帰り道。お弁当箱は食べずにそのまま積み込まれてしまった。まだ保冷剤は冷たかったし「なんか急に、この海すごいくさい」と彼女は大体の片づけが終わったころに泣きそうになりながらそう言いだして弁当は帰路を共にすることになった。
反対に来る時にはいなかったものも加わった。帰りの車にはパンパンのゴミ袋が一つ積まれていた。
「私ゴミ拾いをする」
彼女はおじさんが去ってから真面目な顔をしてこう言いだした。私としては今のうちに服を着替えて欲しかったのだが。
「おじさんの言葉が効いた?」
「違う。こころの問題。悪いことしてないと思ってたけどおじさんの言葉にすぐに答えられなかった」
私は整理するために頭の中で他のことに置き換えてみた。例えばおじさんの怒号が「お前らパン食べただろ!」だったら確かにすぐに「ええ」とすぐ答える。だけど「ゴミを捨てたのか?」という問いにはすぐに答えれなかった。彼女はそこに問題を見ている。
「悪いことしてないかもしれないけど、すぐに答えられないなら心の中にひっかかりがある」
うんうん私は頷いた。
「ゴミを拾って帰ればぜったい心のひっかかりはとれる」
「なるほど」
彼女はすぐにカチカチ火ばさみを鳴らした。私は彼女の衣類を入れるために取り出したゴミ袋を彼女に渡した。
彼女は私がもう一本火ばさみを取り出すと自分の火ばさみを私に向けて差し出した。私も差し出してハイタッチしてから二人は黙々ゴミを拾った。
波打ち際には私達がまき散らしたゴミがまばらに散らばっていた。写真を彩ったゴミ達に感謝をしながらゴミ袋に収まって頂く。
「寒くない?」
「うん!ちょっと暑いくらい」
それだけ言うとゴミ拾いに私より慣れた彼女は足取り軽やかに次々袋に収めていった。
こういう時は彼女はしゃべらず黙々動く。彼女はいつだって私を笑わせようとしてしまうから、こんな禊の時間は静かにする。自分の心に素直に従う彼女を私はどうしても尊重してしまう。
彼女は起きている間、ずっと私を楽しませようとしてくれる。話している時はずっと笑って、その必要のないときの彼女はいつだって凛々しくある。もちろん起きていない時の彼女も私は好きだ。
部屋着みたいな楽な服に着替えてすっかり安心してしまい、助手席のシートでこっち見たまま寝息を立てている。私はハンドルをいっそうしっかり握って帰りの静かなドライブを楽しんだ。
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