第151話 不死鳥と老龍:⑥
オレは精錬したミスリルの塊をざっくりと成形していった。
大きなラグビーボール状に成形したミスリルを仮の胴体として、頭部をちょいと伸ばして、手足を伸ばしてみた。
全体のバランスを見ながら、グレゴールに訊いた。
『グレゴールが住んでいるのはどんな場所なんだ?』
『我は断崖絶壁に開いた地層の割れ目の奥に住んでおるのじゃ。程よく湿気があって気温も温暖で魔脈もあるのじゃ。もう長い間住んでおるが、我を狙う人族や魔物は侵入してこないのじゃ』
『その割れ目の奥まで、この大きさの立像は運び入れることはできそうか?』
『うーむ、ワシの頭の大きさと比べてどうじゃな?。少し小さめのほうが楽に運び込めるのじゃが』
『そうか、グレゴールの頭より少し小さめか、なるほどね』
オレは四分の三程度に小さくして成形してみた。それをグレゴールの頭の横に並べてみてサイズ的にイケそうなので、そのまま細かく成形していった。
御顔はやはり美味しいものを食べている時のにこやかな笑顔にして、腕はちょっとだけ前に出して手のひらを上にしてみた。
もう一度グレゴールの頭の横に並べてみたが、いい感じにサイズダウンできたようだ。
グレゴールに表情や腕や手のポーズがこれでいいか訊いてみたが、問題無いというので、決定版として神威を込めながら表面をホコリレベルに細かくした鉱石ガラを使って、
金の塊を台座のベースに成形してミスリル立像と接着させ、鉱石ガラを土魔法でガチガチに固めた台座と接着させた。
グレゴールの頭の横に並べてみたが、台座を含めてもサイズ的には大丈夫だと思う。
ジーッと見ているアンドリューに訊いてみた。
『アンドリュー、この大きさで大丈夫だと思うんだけど、どうかな?』
『よいと思うのであーる。サリーエス様の表情もいいのであーるよ』
『そうか、じゃあこれで決めるか』
オレはバレーボール大の金の塊にテニスボール大の銀を押し込んで、高速回転させて均一に混ざるようにした。
ピカピカに輝く金銀の塊を薄い板状に伸ばして、胴体に巻き付けてトーガ風に滑らかに流れるヒダヒダにして、頭部にはカツラ状にしてかぶせて、ヘアスタイルを整えた。
正面から時計回りにぐるっと見て回って全体を確認してからグレゴールに訊いた。
『これで完成なんだけど、どうかな?、気に入らないところがあれば修正するよ』
グレゴールはサリーエス様のミスリル立像をジーッと見ていたが、やがてオレを見て言った。
『何も修正するところは無いのじゃ。素晴らしいモノを造ってくれたことに、深く感謝するのじゃ』
『そうか、気に入ってくれたなら、オレも嬉しいよ』
『アンドリュー、お待ちかねのアノ時間だぞ』
『そうであーる。お供えの時間なのであーる』
オレは半透明の大きな結界テーブルをミスリル立像の前に造った。
そこに四国の皿鉢料理を真似して、大きな絵皿の上にマグロ・ハマチ・カンパチ・ヒラメ・イカ・タコ・甘エビ・ホタテ・ウニ・鉄火巻・太巻き・いなり寿司・エビの天ぷら・メンチカツ・鳥の唐揚げ・春巻・揚げ餃子・煮しめ・豚の角煮・生ハムメロン・梨・柿・りんご・イチゴ・おはぎ・串カツ・オールドタイプのドーナツ…を山盛りにして、豚汁の大盛りと大ジョッキの生ビールに大吟醸酒を添えて出した。
アンドリューとグレゴールの前にも大きな結界テーブルを出して同じ品目を出したが、グレゴールは口が大きいので、サリーエス様やアンドリュー用のものよりは五倍くらい大きなサイズで出した。
アンドリューは狩ってきた熊とオークをお供えすると言うので、それが乗るサイズのテーブルを別に出してやった。
オレはみんなに料理を出しているだけでお腹いっぱいになったので、天玉そばとミニ牛丼と豚汁の並にしておいた。
オレたちが並んでサリーエス様のミスリル立像を見つめていると、ミスリル立像は白くて柔らかい光に包まれた。
〚アラン、またいいモノを造ったね〛
〚グレゴール、良かったな〛
『ありがたいことなのじゃ、アランには感謝してもしきれないのじゃ』
〚さて、美味しいものばかり並んでいるね。さっそくみんなでいただこうじゃないか〛
サリーエス様がそう言うと、テーブルに乗せた食べ物もアンドリューが狩ってきた熊とオークも白い光に包まれた。
オレが神威で造ったご馳走は消えたが、アンドリューが狩ってきた熊とオークはそのまま結界テーブルに残っていた。
オレはそれを見て、お下がりでオレたちに食べろって意味で残っているのかなと思って、アンドリューに訊いてみた。
『なぁアンドリュー、その熊とオークはどうするんだ、そのまま食べるのか?』
『そうであーる、いつもお供えしたあとに
『ふ〜ん、そうなんだぁ。火で
『そのまま生で食べているのであーる』
『ワシらは人族とは違って火を使って料理を作ったりはしないのじゃ。生で内臓や肉を食べると魔物の魔力がそのまま身体に入って美味いのじゃ』
『へー、そういうものなんだ』
オレは前世ではたまに行く焼き鳥や居酒屋でハツやレバー・砂肝とかモツ煮込みを食べていたのを思い出した。
医食同源とかって考え方もあったなぁ…。
そういえばレバー(肝臓)には鉄分とかミネラル分が多く含まれていて、食べるといいって聞いて、中華料理屋ではレバニラ炒めをよく食べてたなぁ。
レバニラ炒めか…、神威で作るのもいいけど、目の前に狩り立てホヤホヤのフレッシュな熊とオークがあるから、リアルに何かしら作ってみようかな。
オレはサリーエス様・アンドリュー・グレゴールに追加でチャーハンやホイコーロー・エビチリ・カニ玉・肉団子・煮込みハンバーグ・メンチカツを出してから、アンドリューに訊いてみた。
『なぁアンドリュー、この熊とオークを使った料理を作ってみたいんだけど、いいかな?』
『おっ!、それはいいであーるな。頼むであーる。そのマウンテンギガベアーとオークキングの皮や素材はアランに差し上げるであーるから、肉と内臓を料理して欲しいのであーる』
『うまくいくかわからないけれど、やってみるよ』
オレは【マウンテンギガベアー:解体手順】と念じて神威で神眼を使ってみた。
血抜きから皮剥ぎ・肉の削ぎ落とし・精肉から内臓の区分けまで詳しい手順がわかったので、それに従って結界マジックハンドと結界ナイフを使ってマウンテンギガベアーを解体した。
心臓と肺のあいだから紫色のテニスボール大の石が出てきた。
おー、これが魔石か。
帝都で魔石を使った魔導具をいくつか見たが、こんなには大きくなかったな。
オレはその魔石に
あらかた解体できたので、土魔法で大きなカマドと石板を作って、火魔法でジワジワと石板を温めていった。
たしか溶岩を成形して板状にして、それでステーキを焼くと、遠赤外線でいい感じに焼けたはずだ。
ステーキ用の肉はたっぷりあるので、まずは肝臓を薄くスライスして腹にたっぷりついていた脂身で炒めて神威で造った山盛りのニラとモヤシと合わせてさらに炒めてから、赤い缶に入った中華調味料と粒コショウに塩を振りかけて味見をしたら、まぁまぁ食べれるものになったので、五等分してサリーエス様・アンドリュー・オレは一つ分、グレゴールには二つ分にして結界テーブルに置いた。
『とりあえず肝臓と野菜を炒めてみました。どうぞ召し上がれ』
白い光に包まれたレバニラ炒め…なんかシュールだな。
アンドリューとグレゴールもレバニラ炒めを食べて、まぁまぁかな…という顔をしている。
生レバーの刺し身が美味いのはわかっているけれど、ヤバい病気になるのはイヤなんだよ…。
火魔法でジワジワと温めていた石板がステーキを焼けるくらいに熱くなってきたので、それからはレバニラ炒めをチョイチョイつまみながら、熊肉のステーキを焼いた。
アンドリューとグレゴールは生でイケる口だから軽く表面の色が変わる程度で塩コショウとステーキ用のスパイスミックスを振りかけて、デミグラスソースをかけてテーブルに置いた。
サリーエス様用とオレ用はミディアムにした。
肉を焼いて食べる習慣の無いアンドリューとグレゴールが面白がっておかわりするので、焼き続けたが、結界内が煙で曇ってきたので、天井部分に穴を開けて風魔法で空気を入れ替えた。
マウンテンギガベアーの心臓はオレの頭くらい…バレーボール大だったが、四等分したら、本当に味見程度で終わってしまったが、歯ごたえ充分で美味かった。
他の内臓はざっくり切って脂身で炒めてから焼肉のタレをかけて分けて食べた。
魔力の強い魔物の肉や内臓を食べると魔力が身体に入るというのは確かで、オレの身体の中にある魔力溜まりがホカホカしてきた。
オークキングも神眼で解体手順を調べてから、解体してステーキと肉野菜炒めとモツ煮込みにしてみんなで分けて食べた。
オークキングの魔石は黒みがかった赤い色だった。マウンテンギガベアーよりは少し小さかった。
ただ肉はかなり上等の豚肉みたいで美味かったから、また食べたいなぁ…。
残った皮と骨は荷馬車に積んで持ち帰ることにした、売ってもいいし
実際に料理してみて、神威で調味料を造れるのは良かったなと思うと同時に、この世界でも同じような調味料を探してみたいと思ったよ。
見つからなかったら、この世界にあるものを組み合わせて再現できればいいな。
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