第150話 不死鳥と老龍:⑤
柔らかい光に包まれた鉄立像を見つめていると、サリーエス様の声が聴こえてきた。
〚アンドリュー、アラン。元気で暮らしているようだね。お前たちのことはいつも見ているよ〛
〚アラン、あまりアンドリューを責めないでやってくれ。アンドリューは、私が加護を与えたグレゴールの為にと思ってアランのところに連れてきたのだ。アンドリューはいいヤツなんだ、それはわかっているだろう?〛
『サリーエス様のお慈悲により神威を使いこなせるようになり、心より感謝申し上げます。おかげさまで、神威を身体に纏っても大丈夫なようになりました。ありがとうございます』
『アンドリューがいいヤツなのはわかっていますが、やはり
『つまり、いくら大切な用事があるといえども、いきなり飛来されては対応に困るのです』
『それと、
〚うん、そうだね。アンドリューの住む世界とアランの住む世界とは違うから、それは配慮しないといけないね。それとアランは誰の奴隷でもないから、アンドリューはそれも配慮しなくてはいけないよ〛
『サリーエス様のお言葉を胸に刻んで反省いたしますであーる』
『アランにはすまないことをしたであーるが、グレゴールにサリーエス様の御姿を写した立像を造ってやって欲しいのであーるが、ダメであーるか?』
『ダメとは言わないけれど、いきなり攻撃されて暴言を吐かれたままだからねぇ』
〚アラン、グレゴールもそろそろ力が尽きておとなしくなってきているから、少し話しをしてみてはどうかな。グレゴールもいきなり誰かを攻撃するヤツではないのだ。もしそのようなモノであれば、私が処分しているからね。わかるよね〛
『わかりました。話しをしてみます』
〚アランは優しいから、いつでも造り出せるように必要な素材の精錬は今も続けているね。グレゴールにも優しくしてやってくれないかな〛
『それはグレゴール次第ですが、前向きに善処します』
〚ハハハハハハ、まるでどこかの国の政治家のような言い方だね。まぁよろしく頼むよ〛
鉄立像から光が消えた。
オレは鉄立像をポーチにしまうと、アンドリューと目を見合わせて、グレゴールのそばに歩いて行った。
『どうだい、オレの張った結界はぶち破れそうかい?』
オレが問いかけると、息を荒くしたグレゴールは言った。
『無理じゃ。もうワシの魔力も神威も体力も尽きてしまったのじゃ。ワシの負けじゃ』
『高貴な存在である龍王様が、
『そのような言い方をされると恥ずかしくなるのじゃが、オヌシを
オレは素直に謝罪したグレゴールを見てため息をついた。
アンドリューをチラッと見ると、なんとかしてやってくれと言わんばかりの目で見てくる。
『聴かせて欲しいんだけど、どうしてこの場所に近づいてきたオレをいきなり攻撃してきたんだ?』
『それは…夢を…見たのじゃ』
『夢?』
『オヌシがこの場所に来るのを待つ間にアンドリューと話しをしていたのじゃ』
『どんな話しをしていたんだ?』
『まぁとりとめのない話ばかりじゃが、ワシが鉱石と一緒に
『ワシの母親や一緒に生まれた
『ワシはオヌシを待つ間に眠り込んで、それを夢に見たのじゃ。だからオヌシが空を飛んでこの場所に向かって来たのを、ワシを殺しに来たと間違えて氷の槍を放ったのじゃが…、オヌシの力は
『だからワシやワシの母親たちを殺した人族を憎む気持ちが、オヌシを
『アンドリューもそうなのか?、人族や魔物に襲われているのか?』
『そうであーるな。毎日では無いであーるが、我が血肉を喰らうと不老不死になると思い込んでいる者は後を絶たないのであーる』
『そうか…、馬鹿はどこにでもいるもんだな。不老不死なんてそんなにいいもんでもないと思うけどな…』
『だけど、サリーエス様の加護を
『そうじゃ。我が母や一緒に生まれた
『人族の時間で言えば、二千年以上前の話しじゃよ。ワシは自分で撃退できるから心配ないのじゃ』
オレは深いため息をついて、グレゴールを捕らえている結界を解除した。
二千年以上前の出来事を今でも夢に見るとはね…、哀しい話だな。
オレは、人族の一人としてアンドリューとグレゴールに謝罪しようかなと思ったが、もう誰も襲いに来ないのならそれも何かしら意味があるのかもしれないけれど、これからもそういう連中や魔物どもは無くならないだろうから、それよりもグレゴールの望むモノを造ることのほうがいいだろうと思った。
その前にやってみたいこともあるんだよね。
『サリーエス様の御姿を写した立像が欲しいんだよな。造るよ』
『おぉ!、頼むのじゃ。運んできた鉱石と
『あぁ、ありがたくいただいておくよ、その前にやりたいことがあるから、そのまま動かないでちょっと待ってなよ』
オレは黒コゲになったグレゴールの尻尾に近づいて、魔法大辞典に載っていた【ヒール】の魔法陣を複写した結界板を出して神威を込めた。
結界板から緑色の光が出て、尻尾全体を包んだ。
黒コゲになった部分は少しずつ治っていったが、なんかイマイチだな。
オレは【ヒール】の結界板を消して【ハイヒール】の結界板を出して神威を込めた。
【ヒール】より明るく輝く緑色の光に包まれた尻尾は肉や皮膚が盛り上がって傷口がふさがりはじめた。そのままで待っていると、神威を込めても効果が出なくなった。
オレは【ハイヒール】の結界板を消して、【パーフェクトヒール】の結界板を出して神威を込めた。
もう神威を込めても、効果が出なくなったので、結界板を消して尻尾を見ると、傷口も消えて
それを見ていたアンドリューとグレゴールはとても驚いていた。
『そなたは回復魔法…いや再生魔法も使えるのであーるか』
『いや、初めてやったんだけど、できちゃったね』
『凄いことじゃ!。尻尾だけではなく、身体全体のダルさや疲れが消えたのじゃ。オヌシにはかなわんのも不思議では無いのじゃ』
『効果があって良かったよ』
『オレの名前はアラン・コーバンというんだ』
『今からは、そなたとかオヌシじゃなくて、アランと呼んでくれ』
『『わかったのじゃ(あーる)』』
『これからサリーエス様の御姿を写した立像を造るから、もう少し待っててくれよ』
オレは精錬が終わって風魔法で浮かせた状態のミスリル・金・銀の塊に向かって歩いた。
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