第140話 集団面接:③

 オレが帝都を離れて暮らすと答えたことで、控えの間の雰囲気は変わった。


 創造神サリーエス様の加護を授かったオレは、王族にとっては厄介な存在でしかないのだろう。


 厄介だからといって殺すことはできない。


 それは聖サリーエス神教国に続いて神罰を下される国となることであり、自ら首を絞める行為だからだ。


 帝王も帝王の座を狙う王子たちや王女たちも、オレがすみやかに帝都から出ていくことを願っているようだ。


 オレが帝都を出てコーバン侯爵領に行けば、不死鳥フェニックスが再び来襲するにしても、帝都ではなくコーバン侯爵領に来襲するだろう。


 オレが神獣を呼ぶことができないと言っても、それをそのまま信じるお人好しは王族にはいない。


 王族たちにとっては創造神サリーエス様の加護は得体のしれない制御不可能な巨大な力だから、近づかないのが得策と判断したのだろう。


 ふいに帝王アレングラードが訊いてきた。


「創造神様の名を人々が口に出すことが『禁忌』では無いと布告を出すことで、余は何を得られるのであろうか?」


 う〜ん、痛いところを突いてきたなぁ。


 何を得るか…、無難なところでお茶を濁そうかな。


「創造神サリーエス様からの祝福ではないでしょうか…、日夜ガーシェ大帝国臣民の生活の安定と安全に心を砕かれている帝王陛下の御心が休まるのではないかと思いますが」


「創造神…サリーエス様の…祝福か…。余はそれを必要とすると思うか」


「創造神サリーエス様の祝福は御名前を口に出して言う者に等しく与えられるものです。それを広める布告を出される帝王陛下には、なおさらではないかと思います」


 創造神の祝福か…、それで骸骨たちにまとわりつかれる悪夢を二度と見なくなるならよいがな。


 アレングラードは一人になって今日の謁見の場での出来事を静かに思い返したかった。


 もうこの場は終わりにしよう。


「アラン・コーバンよ、他の者も大義であった。これで散会としよう」


 アレングラードがそう言うと、オレたちと王族たちは立ち上がって、帝王に向かって立礼で頭を下げた。


 帝王は立ち上がって控えの間から出ていった。


 王族たちもそれに続いたが、第三王子のアバンロは去り際にオレに向かって言った。


【い・つ・か・ま・た・あ・お・う】


 オレは頭を下げたままギョッとした。


 日本語だ…、第三王子が日本語をしゃべった。


 ヤロウは転生者か。


 アバンロはオレが黙って頭を下げたままなのに不満そうだったが、控えの間から出ていった。


 どこかで転生者に会うこともあるだろうと思っていたが、王子様に転生している者がいるとはね。


 めんどくさそうだから近づくのはやめておこう。


 とにかく王城をサッサと出てお屋敷うちに帰りたいよ。


 オレたちは王族の控えの間から国賓待遇の控えの間に戻り。オードリーとヴィヴィアンと一緒に馬車に乗って帰ろうとしたが、馬車のそばには帝都中央教会の聖職者たちがオレに挨拶をしたいと待ち構えていた。


 マローン大司教はニコニコ顔だし、聖騎士のアヤーボ・ノクテーや他の聖職者たちはひざまずいてオレを拝み始めるしでちょっと困ったけれど、悪気があってやっていることでもないから、皆様にサリーエス様の祝福がありますようにと言ってひとりひとりと握手をしたら、感激のあまり泣き出す者が続出してさらに困ったでゴザル。


 ジェームズがあまり王城内で騒ぎを起こすのはよろしくないと言ってその場をおさめたが、またつきまとわれそうな予感がする、ア〜〜ヤダヤダ。


 なんとか聖職者たちを振り切って屋敷に帰り、遅めの昼食を食べてから部屋に戻った。


 もちろんヘレンとマリアの「「お着替えのお手伝い〜〜」」攻撃を柔らか結界で阻止して、部屋のドアと窓にガッチリ結界を張ってから、一人でしっかり全身に清浄クリーンをかけて、結界マジックハンドを使って着替えたよ。


 オレは今日の謁見についてサリーエス様に質問したいことがあるのでそれを誰にも邪魔されないように、オレの周囲にカチカチ結界を張って風魔法の遮音をかけた。


 オレは遮音がシッカリ発動しているのを確かめてから、テーブルにサリーエス様の鉄立像を出して、両手を胸の前で組んで頭を下げてサリーエス様に呼びかけた。




 


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