第139話 集団面接:②
帝王アレングラードは混乱していた。
「どうしてこうなった?」
昨日物見の塔から見た光景に圧倒されて
『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』
『アランが望むなら玉座を渡してもよい』
『創造神の名を広めることに手を貸すことで、アランに恩を売る』
『強く当たってあとは流れで』
控えの間から出て謁見の間の玉座に座るまでは、それでいいと思っていた。
しかし、玉座に座りアラン・コーバンを見たときに、その思いは変わった。
歴代の帝王が座ってきた玉座が与えてくれる絶対的強者・権力者であるという安心感にアレングラードは酔った。
玉座から見るアラン・コーバンは、まだ幼い子どもではないか…。
威力のある魔法を使いこなし、
アレングラードは
創造神の加護など取るに足らぬ。目にもの見せてくれる。
玉座に座ったアレングラードは自らが地上最高・最強の実力者であると過信して『王の威厳・威圧』をアランにぶつけた。
謁見の間にいる者たちを巻き込んでもかまわない、力ずくでねじ伏せてくれるわ。
しかし、アランは平然と受け止めていた。
臨席している貴族たちや王族たちでさえ圧倒されて息も絶え絶えなのに。
あまつさえアランからは『王の威厳・威圧』をはるかに上回る威圧がアレングラードに向けられた。
あれは、悪手だったのか。
挙げ句の果てにアラン・コーバンの願いを叶えてやれば我が手駒として使えると思いつき、それはスカされてしまった。
やり場のない怒りにまかせて声を荒げてアラン・コーバンを呼びつけるように指示したが、ワシは何かおかしい。
創造神の加護を持つアヤツに狂わされたか…。
骸骨たちに取り囲まれ身体が生き腐れしていく中で告げられた使命…。
創造神の名を口に出すことが『禁忌』では無いと広めていくことがそうなのか…。
控えの間の豪華なソファに座り込んだまま、アレングラードは思いをめぐらせていた。
ーーーーーーーーーー
オレたちは控えの間に入室してから、王族たちの前に
だが、誰も黙ったまま時間だけが過ぎていく。
オレは早く帰りたいなぁと思いながら神眼で帝王が何を考えているか読み取ってみたが、かなり混乱している。
昨日オレが鍛錬場で使った広域殲滅魔法のことや
あー、だからガーシェ大帝国の玉座を望むか?、と訊いてきたのか。
いらんけど。
どうやら謁見の間の玉座に座った途端に、オレを意のままに操れると思ったらしい。
確かに金銀で装飾されて宝石もふんだんに使われている豪華な椅子だったけれど、何かしら気分を高める効果でも付与されているのかな。
オレは前世で働いていた自動車修理工場でよく聴いた話を思い出した。
『◯◯さんは普段は丁寧な物腰で穏やかな人なんだけど、ハンドルを握ると人格が変わるんだよね〜。黄色信号はスピード出して通過するし、ウインカー出さずに右左折するし、ちょこちょこアチコチぶつけるんだよねぇ』
帝王も玉座に座ると人格が変わるのか、それとも帝王として居並ぶ者たちを
よくわかんが、誰か何か言ってくれないかなぁ。だんだん膝が痛くなってきたんだけど。
ーーーーーーーーーー
宰相オイマール・ヤンガー公爵はアラン・コーバンに続いてゾロゾロと控えの間に入ってきた面々を見てギョッとした。
確かに『神恵の儀』前の子どもを一人だけで王族たちの前に呼び出すのは酷かなと思っていはいたが、父親のジェームズ・コーバン子爵はわかるが、ドナルド・コーバン侯爵にオリバ・ヘンニョマー侯爵、あとはリンド・ヘブバ男爵…そうか母方の祖父か…がついてきたか。
アラン・コーバンに繋がる者たちが並んで跪いているを見ている帝王陛下は黙ったままだ。
オイマールは平静をよそおいながら、帝王の反応が無いのを
何かしら落ち度があって叱責するわけでもないのに、高位の貴族たち、しかも軍務副大臣・商務大臣・帝都騎士団副団長をいつまでも跪かせて置くわけにはいかない。
オイマールは軽く咳払いをして帝王に言った。
「帝王陛下、お召しによりアラン・コーバンが
自分の犯した悪手について思いをめぐらせていた帝王アレングラードは、ハッとして前を見た。
どれくらい放置していたのかわからぬが、この面々を跪かせたままではマズイな。
「うむ、大義である。誰かこの者たちに椅子を持て」
それを聴いた従者たちはアランたちが座る椅子を用意した。
「許す。それに座れ」
オレたちは並んで椅子に座った。
うーん、コレはホントに集団面接だな。
「お前たち、創造神の加護を授かった者に訊きたいことがあれば訊いてみよ。オイマール、どうだ?」
アレングラードのムチャブリにオイマールはギョッとしたが、昨日物見の塔から見たことについて訊いてみることにした。
「アラン・コーバンよ、昨日帝都郊外の鍛錬場にて魔法を使ったか?」
「はい」
「あれはそなたの全力の威力を込めた魔法だったのか?」
「いいえ、まだ練習中です」
練習中であのような威力があるのか…。
「
「手なずけられたか、また来襲してくるのかは、創造神サリーエス様の加護を受けている神獣の考えていることですから、わかりません」
これにはアレングラードもギョッとした。
「重ねてお答えします。神獣のやることですから、必ず来るとも来ないとも言えません」
「しかし
オイマールが訊くと、王族たちもオレを厳しい目で見た。
「神獣を呼ぶ…、そのような手立ては知りません」
あれ?、なんかイヤな予感がするぞ。あのアホゥドリがまたギョェェェェェェェーとかデカい声で鳴きながら飛んできたら、めんどくさいことになりそうだなぁ。
「帝都を離れてコーバン侯爵領で暮らすとの報告があったが、それはまことなのか?」
第二王子のアローンゾが訊いた。
「はい、おそらく十年程度はコーバン侯爵領で暮らすことになっております」
それを聴いたアローンゾは満足そうに頷いた。アランを我が手駒にできれば帝王の座は我がモノになるだろうが、そうでなければ他の王子や王女から離れた場所に行ってくれたほうがマシだ。
同席している王子たちや王女たちも同じように頷いている。
オレはそれを見て、早くコーバン侯爵領に行っておもうぞんぶん魔法をぶっ放したいと思った。
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