第138話 集団面接:①

「帝王陛下がアランをお呼びとは?」父親ジェームズが侍従長に訊いた。


「仔細は分かりませぬが、取次をした侍従によれば、帝王陛下はかなりご不興のご様子だったようです」


 それを聴いて、さらに顔が青ざめた家族を見てオレは思った。


 『念話』で打ち合わせた布告をお願いするとか、クラークとヴィヴィアンの婚約者やジェームズの陞爵しょうしゃくについてはすっ飛ばしちゃったから、怒っちゃったんだろうなぁ。


 オレはちょっと調子に乗っていた自分のことを反省した。


 創造神サリーエス様の御名前を人々が口にしてお呼びすることを広めることに夢中になって、相手が誰でも気にせずに頼み事をしてきたが、それに対して対価を求められるのは当たり前のことで、帝王が腹黒であくどいのはしかたないとしても、対価としてオレを意のままにしようと企むのはガーシェ大帝国の帝王として当然のことだったのに、それをハメてしまったのはマズかった。


 まだ地上に戻ってきて数日なのにあせりすぎたかな。


 サリーエス様のご加護と神威によって、通常の人族よりもはるかに長い人生を送ることが確定しているオレは、もっとゆるやかにサリーエス様の御名前を広めていくことを考えていかなくてはイケないな…。


 オレがそんなことを考えている間にジェームズやドナルドおじいちゃんたちは帝王陛下の呼び出しにオレを一人で行かせるわけには行かないと言い出して、同席することをなかば強引に決めてしまった。


 オレに好意的な侍従長も表向きは渋々ながら、内心ホッとしてそれを認めた。


 ということで、帝王陛下の呼び出しにはオレ・ジェームズ・ドナルド・コーバン候爵祖父・オリバ・ヘンニョマー侯爵曽祖父・リンド・ヘブバ男爵祖父の五人で行くことになった。


 リンドおじいちゃんは尻込みしていたが、オレが「リンドおじい様が一緒にいてくれると安心できるのです」と言ってウルウルした眼で言うと、深いため息をついて了承してくれた。


 悪いなとは思ったけれど、オレの血族であるということをしっかりアピールしておかないと、何かしら下手な手出しをされるかもしれないから、しかたないよね。


 オレたちは帝王の待つ王族の控えの間に向かった。





 ーーーーーーーーーー






 宰相オイマール・ヤンガー公爵は戸惑とまどっていた。


 帝王陛下はかなりお怒りのご様子だが、何がお気に召さなかったのか?。


 帝王陛下は謁見の間に入り玉座に座るやいなや『王の威厳・威圧』を全力でアラン・コーバンにぶつけた。


 まだ『神恵の儀』前の幼子おさなごに…。


 『王の威厳・威圧』を全力でぶつけられたら、大人でも気を失うかもしれぬのにアラン・コーバンは平然としていた。そしてオイマールが今まで経験したことのないほどの大きな力での威圧が謁見の間にいる者たちを圧倒した。


 あれが…、あの大いなる力が創造神の神威か…。


 創造神の加護を授かった者が現れたとの報告を受けて、書庫で文献を調べたときに記されていた神威…、あれほどの力をまだ幼い子どもが扱えるものなのか…。


 オイマールはおびえていた。


 アラン・コーバンがその気になれば、この帝都はもちろんガーシェ大帝国自体を壊滅させることは容易たやすいだろう。


 オイマールは、昨日物見の塔から見た巨大な土の塊や火の雨に大きな火の鳥を操る魔法を使いこなし、来襲した不死鳥フェニックスをアラン・コーバンが手なずけて何事もなく不死鳥フェニックスが帰っていった光景を思い出した。


 創造神の加護を受けている神獣:不死鳥フェニックスを手なずけているのならば、アラン・コーバンへの対応を誤り害することになれば、その報復に不死鳥フェニックスが帝都を壊滅させるかもしれない。


 それを避けるためには、ワシが帝王陛下とアラン・コーバンの間を取り持つしかないか…。


 オイマールは軽く咳払いをして言った。


「帝王陛下、お尋ねしたきことがございますが、よろしいでしようか?」


 帝王アレングラードはジロリと宰相オイマールを睨みつけて頷いた。


「申してみよ」


「はっ、謁見の間を退出されてからご不興のご様子ですが、いかがなされましたか?」


「うっ…、うむ」


 帝王アレングラードは言葉に詰まった。


 アラン・コーバンが『念話』で伝えてきたことは他の者は知らぬ。だからアヤツが打ち合わせとは違うことをやったと言っても、何のことやらわからぬだろう。


 謁見の間では、アラン・コーバンが爵位や報奨金を固辞し帝王の座も望まず粛々しゅくしゅくと創造神の名を人々が口に出して呼ぶように広めていくということだった。


 ワシに対して布告を出してくれとか、兄姉の婚約者の選定や父親の陞爵に配慮してくれと願ってくれば、それをかなえてやる代償にワシが意のままに使える手駒にしてやろうと思ったのに…、アヤツはそれを


 創造神の名を広めるのをアヤツと縁のある貴族たちが手助けする。そこまではいいが、それに帝王の座を奪取しようと目論んでいる弟のサマダンが手を貸すというのは、ヤツの派閥が力を増すキッカケを与えることになり、黙認できることでは無い。


 ワシが全力でぶつけた『王の威厳・威圧』をアヤツは平然と受け止め、それ以上の圧力で威圧してきた。


 それにワシは耐えきれなかった…。


 ガーシェ大帝国の帝王であるこのワシが耐えきれなかったなどと認めたくはないが、しかしそれは間違いのない事実だった。


 それにあの眼…、間近で見せられた神の瞳に見据えられたら、その場にひれ伏すしかないが帝王であるという矜持でそれは踏みとどまった。


 ガーシェ大帝国の最高権力者である帝王が赤子の前にひれ伏そうとするとは…、屈辱でしかないが他にできることはない。


 アレングラードは、アラン・コーバンを我がモノにできなかった怒りと屈辱とで、今まで築いてきたプライドがズタズタに引き裂かれて、やり場のない苛立ちを抑えきれなかった。


 しかし、昨日物見の塔から見た巨大な土の塊を浮かばせる魔法や溶岩が雨のように降り注ぐ魔法・大きな火の鳥を造り出して意のままに操れる魔法、来襲した不死鳥フェニックス退しりぞけ手なずけた力。


 それを見て、したたか酔った頭で思いついた『身を捨ててみる』という考えと創造神の名を広めることに手を貸すことで恩を売るというからめ手…。


 ワシはどこで間違えたのか、なぜこのように怒りの感情をあらわにするのか。


 帝王がオイマールの問いかけに答えず考え込んでいるのを見て、第一王子のアレックスは宰相に訊いた。


「オイマール、お前はアラン・コーバンをどう見た?」


 オイマールは答えに詰まった。


 どう見た?…と訊かれても、漠然としていて何をどう答えればいいのか。


 思ったままを言ってみるか。


「創造神の加護を受けている者は、たとえ『神恵の儀』前の幼子といえどもあなどれないと思われます。昨日物見の塔から見ましたが、神獣 不死鳥フェニックスを手なずけており、広域殲滅魔法をも使いこなすようです」


「神託によりアラン・コーバンを我がモノにしようとする者には神罰が下るそうだが、それだけの力があるということか?」


 第二王子のアローンゾが訊いた。


「そう思われます」


 オイマールは答えた。


「アラン・コーバンには手出し無用ということか…」

 

 第一王子アレックスはつぶやくように言った、あわよくば手駒にして帝王の座を手に入れようと画策していたが、それは叶わぬようだ。


 王族の控えの間にいる者たちが黙り込んでいるなかを侍従長に先導されてアラン・コーバンたちが入室してきた。


 豪華なソファにズラリと並んだ王族たちを見てオレは思った。


 コレはどこかで見た光景だな。あー、入社試験の最後にやる幹部社員たちとの集団面接だな。


 王族たちからの集団圧迫面接か…、こんなのとっとと切り上げて早くお屋敷うちに帰りたいよ。


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