第118話 不死鳥来襲:②

 不死鳥フェニックスのアンドリューがお詫びの素材を取りに行っている間、ヒマなので騎馬で爆走してきた集団のお相手をすることにした。


 鍛錬場をグルっと取り囲んだ土壁から魔力を抜こうと思ったが、オレの身体を包み込む結界を解除したままなのに気づいて、ツナギ結界の内側に神威反射を付与して、外側には物理攻撃無効・魔法反射・神威吸収を付与した。


 アンドリューを閉じ込めた結界に付与した神威吸収と反射を逆にしたから、この鍛錬場に漂っている神威の残滓をうまく吸収できるだろう。


 しばらくそのまま待って、神威の残滓が薄まったのを確認し、念の為に風魔法で鍛錬場の中に強い風を吹かせて空気を入れ替えた。たぶん気分が悪くなる者はいないだろうと思ったので、土壁から魔力を抜いた。


 その途端に騎士や兵士たちに魔法使いたちが鍛錬場になだれ込んできた。


 ジェームズとオレが目を丸くして見ていると、一団の中から一人の騎士が歩み寄ってきた。


 コーバン侯爵家護衛騎士団第一隊長、ローラン・バランガがジェームズに向かって敬礼するとオレにも頭を下げて言った。


「ジェームズ様、アラン様、これはどうしてこのようなことになっているのでしょうか?」


「おう、ローラン。大義であるな。このようなこととは?」


「はっ、我々がジェームズ様のお屋敷を警護している最中にメイドの方から、アラン様がお部屋にもお屋敷のどこにもいらっしゃらないとの報告があり、周辺を捜索したところ、ジェームズ様もいらっしゃらないことが判明いたしました。まさかとは思いましたが、帝都の通用門を警護する者を問いただしたところ、お子様を連れて帝都を出たということが判明いたしました」


「おそらくアラン様と共にどこかへ行かれたのだろうと思案している最中に、魔法使いたちからこの鍛錬場の方角で大きな魔力が使われているとの報告があり、我ら一同馬を飛ばしてきた途中で空に浮かぶ土の塊を目撃してこの鍛錬場で何事かが起きていると思い詰めかけたのですが…、先ほど火の鳥が上空を旋回している最中に別の火の鳥が突撃してきて、しばらくは静かになっていましたが、また火の鳥が飛び立ったのは…、どういうことなのでしようか?」


「それは…、アランから説明させよう」


 あー、父上ずるーい。丸投げかよぉ…。まぁしかたないな。


 オレは風魔法で身体を浮かせて、騎士さんたちと同じ目線に立った。一同に深く頭を下げてから言った。


「みなさま、ジェームズ・コーバン子爵が次男、アラン・コーバンでございます。ご承知の方もいらっしゃるとは思いますが、わたくしは創造神サリーエス様が降臨された際にこの身体を依代よりしろとして使われた為に、長らく眠りについておりましたが、一昨日に無事目覚めることができました。眠っている最中に創造神サリーエス様の大いなるお力:神威カムイの影響でいままで使えなかった魔法が使えるようになったのか、使えていた魔法の威力が増しているかを試すために、父に頼んでこの鍛錬場に連れ来てもらいました」


「みなさまが目撃された空に浮かぶ土の塊は、結界魔法でこの鍛錬場の土を包みこんで浮かせたものです」


 オレは騎士たちの目の前で土の塊を直径五十㌢くらいの球状に包んで、五㍍くらい浮かせて見せた。


「このような感じで結界魔法の使い方を練習していました」


「火の鳥は火魔法を使って飛ばしています」


 オレはまだ上空を旋回している火の鳥を片翼一㍍くらいに小さくして、オレの足元にゆっくり降下させた。まるで生きている鳥のように羽ばたいている火の鳥を騎士たちは驚きを隠せない様子で見ているし、魔法使いたちは間近で見たくてジリジリと近づいてくる。


「このような魔法は屋敷や帝都の中では危険ですので試すことができません。ですからこの鍛錬場に来る必要があったのです。みなさまにはご心配とご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします」


 オレは再び深く頭を下げた。


「最初からみなさまと一緒に来ていれば要らぬご心配をおかけすることもなかったのでしょうが、あまり大ごとになるのもはばかられるかなと思い、父と二人だけでそっと来てそっと帰るつもりでした。考えが足りずご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします」


 オレはまたまた頭を深く下げた。


「それで、飛び立った火の鳥は…」とローランが訊いてきた。


 チッ、それは忘れてくれよぉ…。


 無理かぁ…、無理だよね。


「アレは不死鳥フェニックスです。私が火魔法で造った火の鳥に誘われてやってきたお調子者です。ちょっと頼み事をしたので、しばらくしたら帰ってきますが、間違っても攻撃しないでください。その場合生命の保証はできません」


 一同はザワついた。


 魔法使いが訊いてきた。


「フェニックスは創造神様の眷属ですが、アラン様はそのフェニックスに頼み事ができるのですか?」


「そのご質問に答える前に一言申し上げたいことがあります。創造神様の御名前はサリーエス様です。この場では詳しい説明は省略いたしますが、創造神様ではなく、創造神サリーエス様あるいはサリーエス様とお呼びいただきたいと思います。長らくサリーエス様の御名前を呼ぶことは『禁忌』であると言われていましたが、それは間違いです。そのことをご承知おきいただきたいと思います」


 魔法使いたちはもちろん、騎士たちもザワついた。


「フェニックスに頼み事ができるのは事実です。それは後ほどわかります」


「魔法使いの方たちに朗報ですが、魔法の詠唱をとなえるときにサリーエス様の御名前を口にすると、威力のある大きな魔法が使えるようになるかもしれませんよ。もちろんサリーエス様の御名前をとなえただけで、すべてうまくいくわけではありません。練習を積み重ねる必要があります。ですがサリーエス様の御名前は『禁忌』ではありませんので、これから遠慮無く口に出して詠唱をしていただくとよろしいかと思います」


 オレは周辺の気配を探った。


 アンドリューの気配はしないが、いつの間に飛んできたのか白い二羽の大きな鳥が鍛錬場に造った土の柱で羽根を休めている。身体の小さい鳥は大きな鳥の羽根をつくろっているが、頭に一筋の赤い羽根がついた大きな鳥はオレをジーッと見ている。その目には知性の光がある。心なしかニヤニヤ笑っているようにも見える。


 オレはそっと鑑定魔法を使って、その鳥の情報を読み取ろうとしたが…ハジかれた!。


 白い大きな鳥はさらにニヤニヤし始めたように思える。


『お前も神獣なのか?』と『念話』で問いかけたが、スッと視線を上げて飛んでいってしまった。


 何だったんだ、アイツら…。


 白い大きな鳥が飛び立ったのを見送っていると、アンドリューがギュェェェーーと鳴きながら帰ってきた。


 うるせぇな、バカ鳥。


 鍛錬場に降り立ったアンドリューはドサドサドサとその場に鉱石の山を作った。


 お前…、モノには限度というものがあるだろうが…。


 アンドリューはドヤ顔で言った。


『これだけあれば充分であーるよな。さぁさぁ創造神様の立像を造るのであーる』


『お前〜〜!。いくらなんでもこんなにいらないよぉ。まじアホゥドリだなぁ…。まぁいいや。約束したからな。造るよ。ちょっと素材を選り分けないといけないから、そこで待ってて』


 オレはジェームズと騎士たちに向かって言った。


「ちょっとフェニックスと約束したことがあるので、もうしばらくここにいます。それが終わればみなさまと帝都に帰りますので、お待ちください」


 オレはアンドリューとオレをスッポリ包み込む半透明のドーム型結界を造った。外側は物理攻撃無効・魔法反射・神威吸収を付与して、内側には神威反射を付与した。


 アンドリューが持ってきた鉱石を選り分けていくと金鉱石・銀鉱石・プラチナ・ミスリル・アダマンタイト…んっ?、アダマンタイト…。


 お前、なんてものを持ってくるんだよ。こんなの使い道が…ジェームズとクラークに剣を造ろうか…。


 他にはダイヤモンドやトパーズ・ルビー・サファイア…、うーん、使えない…。


 とりあえず神威が染み込みやすいミスリルをベースに銀でローブを造って、頭髪は金だな。不純物を飛ばして純度を上げればスターリングシルバーなんかピカピカ光って綺麗だしな。たしか純度の高い金に少し銀を混ぜるとさらに良くなるらしいし、まぁいろいろ試してみるか。


 オレは鑑定をフルに使って鉱石をひたすら選り分け始めた。


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