第116話 天地返し
オレは三㌔先の土の柱まで風魔法で飛んだ。流線型の結界で身体を包むと空気抵抗が少なくなって楽に移動できた。
柱から魔力を抜いて土に戻すと、縦横高さ五㍍の土の塊を造って、その上に乗った。
オレを中心にしてドーム型の結界を広げていった。ゆっくり伸ばしていってジェームズの座っている場所を通り越してもまだ伸びる。これは半径五㌔のドーム型結界が作れるかなと思いさらに伸ばしてみると、だいたいそれくらい伸びた。
やはり魔力の影響範囲は五百ということか。
さてこれからが本番だ。
オレはドーム型結界を球状結界に変えていった。ジワジワと土の下を結界で囲い込んで、どこまでいけるかな。
直径五㌔の球状結界はできた。
さてこれからが面白くなるよ。
オレはその球状結界をゆっくり浮かせてみた。
ジェームズを乗せたままだから、怖がらせないようにね。
十㌢…二十㌢…三十㌢…、さらに上に…。
地上から五㍍で一度止めた。
魔力は余裕で残ってる。
さらに上に…。
一㌔…二㌔…三㌔…。
これ以上は無理だなというところで、球状結界は地上からその全体が浮き上がった感覚がある。
オレはジェームズが座っている場所に戻って様子を見たら、頭を抱えてグッタリしてる。
『お父様、どうされましたか?』
ジェームズは頭を上げて興奮気味に言った。
『アラン!、なんてことを…、お前は…オレの息子…だよな…。人間だよな…』
『そうですよ』オレは静かに言った。
『お父様、私はサリーエス様がお使いになる大いなるお力:神威を使えるようになりましたが、コレはまだその神威を使っていません。魔力だけを使いました。私はサリーエス様が私の身体に降臨される前と比べると百倍の魔力を使えるようになりました』
『百…百倍…?』ジェームズはまた頭を抱えた。
『お前はリチャードよりも強力な魔法を使えるようになったのか…』
『それはこれから確かめます』
『まだやるのか…』
ジェームズはもう帰りたそうな顔をしたが、まだ小手調べをしただけだよ。
オレは神威反射の結界でジェームズを包んだまま直径五㍍の球状結界を造って、それを浮かせて移動した。
空に浮かんだ半径五㌔の球状結界の周りをグルっと回ってみた。
上は透明、下は半球状の土の塊が浮かんでいる光景は…、有名なアニメ映画の空を飛ぶ島のようだった。
結界を解除するときには『バ◯ス』と言ってみようかな。
ジェームズはもう何も言わずに空を飛ぶ土の塊を見ていた。
ふと思いついて、神威で結界の粒をどこまで飛ばせるのか試してみた。
はるかかなたの山脈は余裕で、帝都の方向に伸ばすと騎馬の集団が爆走で近づいてきている。
ヤベッ、見つかっちゃったかな。
騎馬の集団がやってくるまでに、チャッチャとやりますかね。
オレは球状結界の上の部分だけ解除して、半球状結界にしてさらに上に浮かせた。
つまり上空五㌔に結界で包まれた半球状の土の塊が浮かんでいるわけだ。
結界を解除して下に落としたら…、下にいるモノは…みんな死ぬな。
【魔物の氾濫:スタンピード】がおきたときに魔物たちは【数の暴力】で人を
オレは鍛錬場をぐるりと囲むように高さ十㍍厚さ十㍍の土の壁を造ってみた。
この土壁で騎馬の集団を食い止める時間稼ぎができるだろう。
オレは空に浮かせた土の塊に神威で造った結界の粒を
ほとんどは岩や石だが、何か反応が違うものがある。
オレはそれに結界の粒をくっつけて、それを目印に結界マジックハンドで掘り出してみた。
それは錆びた槍の先・折れた剣の破片・硬貨・壊れた鎧だった。
神威の結界粒なら地下に埋まった金属を見つけることができるのがわかった。
ヘブバ男爵領の復興に一歩近づけたかな。
オレは用済みの土の塊を静かに下に下ろした。
それから山に向かって『
高度五㌔の上空からドロドロに溶けた溶岩を雨のように降らせるやつだ。
ジェームズの結界に重ねてカチカチの物理攻撃無効・魔法反射を付与した結界に、地面に落ちて跳ね返ってきた溶岩がバチバチ当たる。
しまった、もう少し遠くに降らせればよかった。
マグマレインが落ちた場所は黒い煙が上がって大地が真っ赤に熱されている。
まだ神威を使っていないのにこの威力か…。
神威でマグマレインを使うのは本当にどうしようもない強敵が現れるまで禁止だな。
オレは真っ赤になった土を掘り返して、下の土と混ぜて温度を下げた。風魔法で黒い煙も山脈方向に飛ばした。
強めの旋風にしたら、暴風になっちゃった…、騎馬で走っている人たち…、大丈夫かなぁ…。
上下の土を入れ替える:天地返しをした土地はいい農地にできそうだな。コレもヘブバ男爵領を復興させるために農地を開墾するのに使えそうだな。
鍛錬場のすぐそばまで騎馬集団が来ているのでもう一発だけと思い、神威で火魔法を使い翼長五百㍍の『火の鳥』を造った。
いやぁ〜、迫力あるねぇ。
羽ばたかせたり、口を開け締めしたりして動きを確認した後で、上空に向かって垂直に飛ばしてみた。火の粉をまき散らしながら上昇していく火の鳥は綺麗だ。
神威をガッチリ込めたから、空気抵抗で形が崩れたりしないのはイイね。
おおよそ上空五千㍍まで上昇したが、まだ余裕で上がれそう。見ているオレのクビが痛くなってきたのでそのまま水平飛行で山脈方向に飛ばしながら、翼長をどんどん伸ばしていって片翼千㍍まで伸ばしてみた。
優雅に旋回飛行する『火の鳥』にジェームズとオレは言葉も無く見とれていた。
ーーーーーーーーーー
この世界のアチラコチラで頭を上げて空をうかがうモノたちがいた。
創造神サリーエス様のお力が地上で使われている…。
あるモノはまた眠りにつき、あるモノは毛づくろいの続きをし、あるモノは物思いにふけり、あるモノたちは住み慣れた森から北に飛び立った。
ある者はそばにいる神狼に話しかけた。
『サリーエス様から加護を授かった子どもが神威で遊んでいるな』
『会いに行くのか?』
『いや、サリーエス様からはそのうち俺たちのことを探しに来るだろうから、楽しみにしておけと言われたからな。このまま何もしないよ』
『俺たちを探しに来るか…』
『その子どもは毛のあるモノが好きなんだそうだ。お前を見つけたら…どうなることかな。ハハハハハハハ』
『むむぅ〜〜、俺の身体を気安くさわれるとは思ってはいないだろうなぁ…』
『さあな。そんなことを言ってお前は身体を撫でられるのが好きじゃないか、今もシッポをブルンブルン振っているし、楽しみなんだろう』
『うるさい!、もう行くぞ!』
ーーーーーーーーーー
そしてあるモノは、神威が使われた場所に音速の壁を越えて飛来した。
鍛錬場の上にオレが神威と火魔法で造った『火の鳥』ではなくて、ホンマモンの『火の鳥』が飛んできた。
おー、やっぱりオレが造ったバッタモンよりカッコいいなぁ〜。
オレがホンマモンの火の鳥に見とれていると、そいつはオレに向かって突撃してきた。
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