第115話 魔力…増えちゃった

 リンドじいさんがホルンに抱えられて食堂から連れ出されてから、オレは席に戻り食事を続けた。


 オードリーは食事の手を止めて何か考え事をしている。


 やがてオレをジーッと見つめて言った。


「アラン、本当にヘブバ領に行くの?、その時は私も一緒に行っていいかしら」


「いいですけど…」


「実はね、お母様が亡くなられてからヘブバ領には帰っていないの。さっきお父様が言っていたように、ジェームズやドナルドお様に援助を求めるばかりのお父様の顔を見るのがイヤになっていたからなのよ」


「お父様がキライになったというか…、そんな父親を持つ私がキライになったというか…、うまく言えないけれど、ヘブバのことは考えたくなかったのよ」


「でもアランがヘブバの領民たちのために何か行動を起こすことが大事だと言ったのにハッとしたの。私が誰よりも先にそれをやるべきだったのにね…。私はダメな娘ね…」


「お母様はダメじゃないですよ。ただ少し…、ほんの少し勇気がでなかっただけです。そんなものはこれからいくらでも取り返しがつきます。それに私とお母様は立場が違います。子爵家夫人としてこの家を取り仕切り、母親として四人の子どもを産み育ててこられた。お母様は素晴らしい方です。私はお母様の子どもに産まれて幸せですよ」


 オレがそう言うと、オードリーはハラハラと涙をこぼした。


「アランは…、私にはもったいない息子ね…。サリーエス様が加護を授けられたのもよくわかるわ」


 オードリーは涙目でオレを見るとニッコリ笑った。


「お母様、私もお母様の子どもに産まれて幸せですよ」クラークが言うと、ヴィヴィアンも続けて言った。


「お母様!、私もよ!!」


「あらあら、みんなして私のことを褒めても何も出ないわよ」


「オードリー、私もキミと出会えてからずうっと幸せなんだよ。わかっているだろう?」


 ジェームズとオードリーはジーッと見つめあった。


 なんとなくここで始めそうな二人の雰囲気にオレは咳払いをした。


「ウホホォン!、お父様、お母様。私はそろそろ部屋に戻ります。おやすみなさい」


 オレは今日も疲れたなぁとベッドに倒れ込んで思った。もう風呂はいいから眠りたい。


 ドアに結界を張ってヘレンとマリアが「「お背中流します!」」と言って部屋に突撃してくるのを防いでからクリーンを全身にかけて寝た。


 翌朝も朝食前に目が覚めたので庭に出ると、クラークとジェームズが打ち合い稽古をしているが、心なしかジェームズがゲッソリしているし腰もなんとなくふらついている。


 ハァッハァーン、これはフランソワに弟か妹ができるのかな。


 ご夫婦仲のよろしいことで、何よりですなぁ…。


 オレはジェームズとアイコンタクトを取ると、静かに部屋に戻った。


 クラークの服を何着かもらった時に確保しておいた厚手の生地の上着とズボンに着替え、長めのローブも出してきて外に出る時に着ることにした。


 食堂に行くと、ツヤツヤとした顔のオードリーがニッコリ笑ってオレを出迎えてくれた。リンドじいさんは…まだ寝てるんだろう。昨日ははっちゃけたからな。明日は王城での謁見があるから気が済むまで寝かせておいてやればいいさ。


「アラン、今日は何をする予定なの?」


「明日は大事な謁見の日なので、静かに部屋で過ごします」


「あらそうなの。わかったわ…」


 オードリーの意味深な笑顔に、ちょっと不安になったが知らん顔をして朝食を食べ始めた。やがてジェームズとクラークが汗を拭きながら食堂にやってきた。


 ジェームズはオレをチラッと見るとクラークに言った。


「クラークはもう騎士見習いになっても大丈夫なくらいに剣さばきが上手くなったな」


「本当ですかお父様。それは嬉しいです」


「アラン、私もアランに負けないように頑張るからな」


 兄貴、アンタのその笑顔がオレにはまぶしいよ…。そのまま素直に育ってくれよな。


 オレはクラークの言葉に静かに頷くと食事を終えて部屋に戻った。


 ローブを手にジェームズを待っていると、外出できる用意をしたジェームズが静かに部屋に入ってきた。軽鎧にショートソードを腰に巻いた剣帯につけている。オレは廊下側のドアに結界を張ると夕方まで解除できないように魔力と念を込めた。


 静かに窓を開けて、結界で造ったバイクのタンデムシートの前部にまたがった。


 ジェームズは後部に跨りツナギ結界で包まれたオレの両肩をしっかり掴んだ。


 オレたち二人を流線型の結界で包み込むと、風魔法で静かに空中に浮かんだ。


 異常が無いのを確認してから、窓から飛び出して空高くに舞い上がった。


 肩を掴むジェームズの手に力が入るが、ツナギ結界で包まれたオレは痛くない。


 そのまま帝都から出る門の近くの物陰に下りると帝都の外に出る通用門に歩いていった。


 帝都騎士団副団長のジェームズを見て通用門を守る衛兵たちは敬礼したが、ジェームズは軽く手を上げると貴族専用出口から帝都の外に出た。


 オレとジェームズは帝都の城壁から見えない場所から再び結界で造ったバイクのタンデムシートに跨って空高く舞い上がった。


 オレは我慢できなくなって、大声で笑い出した。


「ハハハハハハハ!、お父様!!、上手くいきましたね!!!」


「あぁ、上手くいったな」


「さて、鍛錬場はどこにあるんですか?」


「あっちだな」ジェームズは左手でかすかに見える山脈を指さした。


「あの山を目指して行けば見えてくる」


 山脈に向かってまっすぐ飛ぶと荒れ果てた荒野が見えてきた。簡単に囲まれたへいが鍛錬場の入口らしい。


 右側のへいには【燃える二重の輪の中に羽根の生えたドラゴンが剣と盾を持っている】帝都騎士団の紋章、左側のへいには【燃える二重の輪の中に羽根の生えたドラゴンが剣と杖を持っている】帝都魔法師団の紋章が描かれている。


 オレは地上に下りる前に結界の粒をばら撒いて、誰もいないか確かめた。


 無人なのを確認してから、地上に下りた。


 流線型の結界とタンデムシートを解除すると、ジェームズを神威反射を外側に付与した結界で包みこんだ。半透明の柔らか結界でソファを出してジェームズに言った。


「どうぞそちらのソファにお座りください」


「ハハハハハハ、これはアランの魔法を観るにはいいね」


 そうでしょお〜、それは創造神サリーエス様にも褒めていただいたシネコンのVIPシートをイメージしたフカフカのソファなんだからね。


「お父様は安全な結界で包んでいますから、ノンビリ私の魔法をご覧ください」


「ああ、ジックリ観させてもらうよ」


 オレは手始めに目標物になる標的を魔力だけを使って土魔法で造ることにした。創造神サリーエス様が降臨される前は魔力高五十で、魔法の影響範囲は最大で五十㍍だったが、それが少しでも伸びていればいいな。


 オレはだいたいの目安で十㍍の位置に土の柱を立てた。その五倍の位置に少し高めの土の柱、さらにその先に土の柱を立てようと思ったら簡単にできた。


 オヨヨ、これはかなり遠くまでイケそうだな。


 オレは五十㍍の倍、さらにその倍と倍々ゲームで土の柱を少しずつ高くして立てていった。


 おおよそ千六百㍍の距離でも楽勝に立てられる。


 ここまできたらさらに倍だぁ〜と思って立ててみると、立っちゃったよ。


 立った立った柱が立った…。


 おおよそ三㌔先に太くて高い柱がそびえ立っていらっしゃいますよ…。


 さらに倍…となると山の上になるけど、やるだけやってみるか…。


 ざっくり六㌔先に土の柱を立てようとしたが立たなかった。少しずつ前に視点を移して立てようと思ったら、一㌔くらい前をイメージしたら…立った。


 魔力高五十が約百倍になったの…?。魔力高五百…?。


 オレは人間辞めちゃったのか…?。


 確かにサリーエス様からは、精神体に神威が馴染なじんで寿命が伸びたとは言われたが、これだけ多くの魔力が扱えるとはね。


 身体を包んでいる結界を解除して、神威と土魔法で五㌔先の柱の横にもう一本立ててみたら、スムーズに立つ。さらにその先に…と思った瞬間に約六㌔先に土の柱がポンと立った。


 イメージしただけなのに立っちゃったよ。


 神威の影響範囲はどれだけなのよ。これは予想以上に強力な魔法が使えそうだな。


 チラッとジェームズの顔を見たら、口を開けてフリーズしてる。


 うん、その気持よくわかるよ。


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