第113話 没落寸前の男爵家を救え:③

 キリッとした顔になったリンドじいさんだが、困ったなぁとつぶやいた。


 どうしたのかなと思って訊いてみた。


「リンドおじいさま、どうかなされましたか?、謁見の場には行かないことにされるのですか?」


「いやそうではないのだが…、謁見の場に臨席するための礼服が…無いのだ…、貧乏男爵ゆえにな…」ちょっとションボリした顔でリンドじいさんは言った。


 あー、礼服か。たしかにそれは必要だなぁ。


 あらためてリンドじいさんの着ている服を見ると、貴族らしい上等なモノだがアチラコチラにほころびを修繕した形跡があるし古びてもいる。先代か先々代のヘブバ男爵が着ていた服かな?。


 礼服を新調する余裕なんてないのだろう…。コレは困ったな。


「お父様、よろしければわたくしの礼服をお召しになられてはいかがでしょうか?」


「んっ、ジェームズは礼服を着なくてよいのか?」


「わたくしは礼服を着なくても、帝都騎士団副団長の正装で行けばいいので大丈夫ですよ」


「そうか…、頼めるかな」


「はい、では後ほど着ていただいて、お身体に合うか見てみましょう」


「そうね、お父様のほうが痩せているから、少し直さないといけないけれど、新しく用意するよりは手早く準備できるわね」


 心なしかジェームズとオードリーはリンドじいさんに優しくなったようだ。良かった良かった。


「リンドおじいさまはホテルに滞在されているのですか?、この屋敷にお泊りになってはいかがですか?」


 オレはジェームズとオードリーを見ながら言った。


「そうだね、謁見の日まで当家に滞在なさってはいかがですか?」そうすれば滞在費も少しは浮くからな…ジェームズは心の中で軽くニヤつきながら言った。


「そうね…、お父様、そうなさってはいかがですか?」オードリーも言うと、リンドじいさんは嬉しそうにウンウン頷いた。


 ジェームズはホルンを呼んで客室を用意させメイドに案内させた。


 オードリーはホテルを解約して部屋に置いてある荷物を屋敷に運ぶように使用人を手配すると、礼服を用意するために部屋を出ていった。


 オレは内心でニヤリとした。


 リンドじいさん、謁見にビビってもオレは逃がさないからね。なんならからね。


 オレはジェームズに『念話』で訊いた。


『お父様はヘブバ男爵領には行かれたことはあるのですか?』


 ジェームズはオレが『念話』で問いかけたことに不思議そうな顔をしたが、他人に聴かれたくないのだなと気がついて『念話』で答えた。


『オードリーと婚約したときに一度だけ行ったが、荒地を開墾した農地と鉱脈の枯れた低い山と河があるだけだったな』


『何かしら金儲けの元になるようなモノはありませんでしたか?』


『無い!』


 即答かよ、まぁいいや。


『その鉄鉱石が採れていたという山には行かれましたか?』


『いや、遠くから見ただけだ』


『その時、山からゴブリンとかコボルトが下りてくるという話しは聴きましたか?』


『う〜〜ん、覚えていないなぁ…。たぶん聴かなかったのではないかな』


 ふーん、そうか。ゴブリンやコボルトがいつ頃から山から下りてくるようになったのか、リンドじいさんに訊いてみないとダメだな。


 オレは話題を変えてジェームズに訊いた。


『お父様にご相談したいのですが、帝都の郊外に魔法を使っても大丈夫な場所はありませんか?』


『帝都の郊外…、騎士団と魔法師団が使っている鍛錬場があるぞ。帝都から馬車で二時間くらい離れているから、魔法を使っても大丈夫だな。行きたいのか?』


『はい、サリーエス様から魔法の訓練をしていただきましたが、地上ではどれほどのことができるのか試したいのです。できれば二日後の謁見の前に』


『そんなに急ぐのか?』


『はい、どうしても謁見の前に試したいのです』


『うーん、…わかった。理由は言えないのか?』


『それは…、いずれキチンとお教えしますが、まずは魔法の試しをさせてください』


『そうか…、では明日の朝食後に鍛錬場に行こう』


『ありがとうございます。お願いします』


 オレはどんな魔法をぶっ放してやろうかとニヤニヤしていた、そこへオードリーがあわててやってきた。


「アラン、アレ造って!」


 んー?、アレってナニよ?。


「お母様、アレとは…?」


「紋章よ!、紋章。ヘブバ家の紋章を造って!!」


「オードリー、どうしたんだ、いきなり紋章を造れなんて…」


「アナタの礼服はお父様が着れるように調整できるんだけど、紋章がコーバン子爵家のものだから、ヘブバ男爵家の紋章を付けないと変でしょ」


 あー、なるほどね。


「どれくらいの大きさのものを造ればいいのですか?」


「そうね、とりあえず客室に行ってちょうだい」


 ハイハイ、わかりました。


 オレとジェームズが客室に行くと、そこではリンドじいさんがメイドたちに囲まれてジェームズの礼服を着たままでサイズ調整のピンを打たれている最中だった。ニヤニヤしながらその礼服を見ると、胸にコーバン子爵家の紋章が付いている。だいたい十㌢四方でいいのね…。


 とりあえず鉄クズを溶かして造るか。


「捨てずに取っておいて良かったぁ。はい、コレをしっかり見て造ってね」


 オードリーの穏やかではない発言にギョッとしたリンドじいさんだが、オードリーが持ってきた嫁入り前に使っていたヘブバ男爵家の身分証を見て懐かしそうな顔をした。


 オレはその身分証を受け取って紋章をジックリ見た。


 前世で見たことのあるような西洋甲冑の兜が横を向いていて、兜の前に両刃の剣が立っている。初代ヘブバ男爵が戦場で武功を上げたのを表しているのかな?。


 リンドじいさんが着てきた古びた服とも見比べて間違いないのを確認してから、倉庫に鉄クズを集めに行った。


 ジェームズとオードリーもついてきた。


 ん?っ、なんだ?。


「どうされたのですか?」と訊くと「アランが魔法を使うところが見たいの」とオードリーが言って、ジェームズも頷いている。


 ご夫婦揃って子どもの魔法見学ですか…、仲がよろしくて何よりでございますねぇ。ついでにもう一人子ども作っちゃえばいいのに。

 

 オレは外側に神威反射を付与した結界で二人を包み込み、神威反射を内側に付与したドーム型結界でオレたち三人を囲った。これでオレが神威を使っても誰にも影響は出ない。


 オレは右手の結界を解除して神威を使った火魔法で鉄クズをドロドロに溶かして鉄のかたまりにして不純物やカスを飛ばした。


 そのドロドロの塊を十㌢角の薄い鉄の板にして、オードリーの身分証を見ながらヘブバ男爵家の紋章に形造っていった。


 実際には型抜きする感じだが、間に合せだから鉄の板をベースにレリーフ的に紋章を浮かび上がらせて、表面をキレイに磨いて光を反射するようにしたから、ちょっと派手になっちゃったかなぁ。


 裏側には布に固定した時にズレないように中心と上下左右にピンを付けておいた。


 何度も身分証と鉄の板を見比べて、同じものができたのを確認してから、余計なバリ取りをして、風魔法でゆっくり冷やした。


 残りの鉄の塊を土魔法で掘った深さ五㍍くらいの穴に落として埋め戻した。


 ふと思いついて、結界の粒を地下に伸ばして鉄の塊を探ってみた。


 結界の粒で地下に埋めた鉄の塊を見つけられれば、あのアイデアがうまくいくかもしれない…。


 鉄の塊を結界の粒を使って見つけるのは簡単だった。


 よし!、まずはここからだな。あとは明日鍛錬場でやるか。


 風魔法で冷やしている紋章を右手で触るとほんのり温かい程度まで冷えたので、右手の結界を張り、両親とオレたちを包んでいる結界を一度に解除して、オードリーに言った。


「どうかな?、うまくできたと思うんだけど…、まだちょっと温かいよ」


 オードリーはオレが風魔法で浮かせながら冷やしている紋章を見て言った。


「アラン、アナタ…、いつの間にそんなに上手に風魔法が使えるようになったの!。私にもその秘訣を教えてくれるわよねぇ」


 なんだよ、ヴィヴィアンと同じことを言ってるよ。似た 母娘おやこだねぇ。


 「謁見が終わって落ち着いたら…」


「絶対よ!、約束だからね!!」


 ヘイヘイ、奥様の仰せのとおりにいたしますですよ。


 まぁサリーエス様の特訓はかなり厳しかったからなぁ。


 どんな顔をして特訓をこなすのかお楽しみだな。


 


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