第50話 茶番劇の顛末:①

 アーネストがロザリーの後ろに戻り、会場が静まりかえった。


 さてさて、いよいよオレの出番がきたか。オレはある秘策の為に舌を丸めて、喉の奥にできるだけ押し込んだ。そのまま待機していると、リチャードが言った。


「それでは、これよりアラン・コーバンが授かった加護と魔法の真偽を明らかにする」


「アラン・コーバン、前に出なさい」


 お披露目会場に集まった人びとの視線がオレに集まると共に左腕に付けている鑑定阻害の腕輪にグイグイ魔力を吸われた。

 

 あー、こりゃあよってたかってオレを鑑定してやろうってことかよ。まぁ好きにすればいいさ。


 オレはトテトテと歩いて、先ほどアーネストが立ち止まった場所まで行った。オレの後ろにはジェームスが続いた。


 オレは作法通り直立不動の姿勢から左足を半歩後ろに引き、右手を左胸に当てて頭を下げた。ジェームスも同様に頭を下げた。


 「アラン・コーバン、頭を上げよ」アーネストの時と同じくオチョーキン公爵が声をかけた。


 オレとジェームスがそのままの姿勢でいると、オチョーキン公爵はヘンニョマー侯爵に目線を送った。


「ジェームス・コーバン子爵、アラン・コーバン、頭を上げなさい」


 おっ、さすがリチャード。ちゃんと二人の侯爵に台詞を用意しておいたなw。


 頭を上げて「ジィェーエー・ミィュシィュ・キョオー… (ジェームズ・コー…)」と名乗り始めた俺の耳にザワザワとささやきあう声が聞こえてきた。


「言葉が…」

「名前も言えないなんて…」

「もうすぐ四歳なのでしょう…」

「ボクならもっとちゃんとできる…」

「ダメだなアレは…」


 大人たちや子どもたちが聞えよがしに声を大きくする中で、オレは秘策の効果を感じながら言葉をつないだ。


「じーにゃぁん・アーリィャァン・でぃぇ・しぃゅ・うぅ (次男アランです)」


 我慢できなくなったのかひときわ大きな声で笑いながらオレをからかうヤツがいる。


「でぃぇしゅだって〜ハハハハハハ。そんなのでマトモに魔法を使えるのかよ〜ハハハハハハ」


 あー、残念ながらそれにはオレも同意するよ。


 まったくオレの滑舌かつぜつが良くなる日はいつ来るんだよ。


 だけどな、どこのドイツか知らないが、公爵家と二つの侯爵家の当主が立ち会っているこの場で、発言の許可を取らないで勝手に発言したのは不敬な行為だから、かなり深刻な問題になりそうだぞ。


 秘策が効いてきて涙目になったオレは静かにうつむいていた。前世でテレビで見た涙目になるのが上手い芸人が言っていた涙目になるコツ…舌を丸めて喉の奥に突っ込む…はこの世界でも使えるぜ。


 やがてオチョーキン公爵が大きな咳払いをすると、会場内は静かになった。


 リチャードは大声でオレをからかったヤツが誰かわかっているようで、額に青い筋がクッキリ浮き出てきた。


 リチャードよ、頼むからここで広域殲滅魔法は使わないでチョンマゲ。


 リチャードは白いローブの集団に向かい言った。


「マローン大司教、鑑定のご用意を」


 静かに中央に進み出た胸に金の流星マークを付けた大司教はかぶっていたフードを下ろして言った。


「帝都中央教会よりまいりましたマローンでございます。教皇猊下きょうこうげいかより大司教位を戴いております」


「本日はジェームス・コーバン子爵次男のアラン・コーバンに『創造神様の加護』と魔法が授けられているかの真偽を明らかにするために鑑定の水晶球を持参し、私が鑑定をおこなわさせていただきます」

 

 マローン大司教が手を振ると、銀の流星マークを胸に付けた三人の司祭が白い布をかぶせたワゴンを押しながら進み出た。


 そのうちの一人は二年前にオレを鑑定したヤツで、オレをチラリと見たが素知らぬ顔で準備を進めた。


 コーバン侯爵家家令のハルンが、そのワゴンの前に踏み台を置いた。


 オレがその踏み台に乗ると、白い布が取り去られ、そこには二年前に見たものよりも大きくて透明度の高い水晶球があった。


「コレは、本来ならば王族のみに使用されるものですが、『創造神様の加護』の真偽を明らかにするために特別に使用いたします」


「では、アラン・コーバン、この水晶球に手を置きなさい」  


 オレは水晶球に手を置いた。


 リチャードから魔力を込めるなよと注意されていたが、先程から鑑定阻害の腕輪にガンガン魔力を吸われているので、かなりダルいし頭も痛くなりそう…魔力切れの症状が出そうなんだがなぁ。


 オレは水晶球に手を置きながらマローン大司教を見た。


 大司教は鋭い目つきでオレをしげしげと見ながら、創造神様への祈りの言葉を口にした。


「創造神様の忠実なる下僕しもべマローンが、創造神様のお慈悲とおぼしをアラン・コーバンにお与えたまらんことをい願いたてまつる」


 オレはそれを聴きながら、二年前に聴いたのとはちょっと違うなと思いつつも、創造神様がノリで水晶球をピカピカに光らせないか心配になったので、心の中で『創造神様、シャレにならないので、ご自重ください!』と願ってみた。


 無事に水晶球の光はにぶかすかでオレはホッとしたが、大司教は鑑定結果を見て、興奮気味に言った。


「確かに『創造神様の加護』と結界魔法を授かっておる!。……しかし……魔力高はわずかに五十……、これでは……」


「せめて聖魔法を授かっておれば……」


 んーー?、創造神様の加護と聖魔法なら、お前ら教会のいいようにこき使えたのにってか。


 残念だったねぇ大司教おじいちゃん


 もっともオレは結界魔法の〚転写〛で魔法大辞典に載っていた聖魔法の魔法陣をかなりストックしてるんだけどね。


 ヒール・ハイヒール・エリアヒール・エリアハイヒール・エクストラヒール・パーフェクトヒール・キュア・アンチカース・アンチポイズン・・・と手当たり次第に〚転写〛して記憶してあるけど、まだ魔力を流しても発動しないんだよなぁ。


 魔力が足りないのか、他の何かが足りないのかわからないのが悩みの種だな。




 


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