第51話 茶番劇の顛末:②

 マローン大司教はブツブツブツブツと独り言を続けた。


 「百年前に確認された加護を持つ者に続きこの者に与えられたか、その前には二百年前の【かの人物】がそうではないかと言われてはいるが…、聖魔法は無理でも光魔法でも良かったのに……」


 マローン大司教はチラリとヴィヴィアンを見た。


 その視線に気づいたリチャードの額にさらに青い筋が出たが、静かに大司教に言った。


「マローン大司教、鑑定結果を発表してください。大司教の名のもとに確定したものとして」


 マローン大司教は独り言を止めて言った「ジェームス・コーバン子爵の次男アラン・コーバンには『創造神様の加護』と『結界魔法』が授けられています。魔力高は五十。結界魔法が充分に使いこなせるかどうかの最低量である。これが大司教としての公式見解です」


「なるほど、そうであるか。ご苦労であった」オチョーキン公爵はマローン大司教に言った。


 リチャードはマローン大司教たちを入り口付近に下がらせた。


 さてと、踏み台の上に立っているオレは魔力切れの症状が出そうなのを我慢していたが、身体がフラフラするのは止められなかった。


 リチャードは静かにオレのそばに来て、左腕と背中の真ん中に手を置いた。


「アラン、大司教により、お前が加護と魔法を授かっているのが確定した。良かったな」そう言いながらリチャードはオレの身体に魔力を流してきた。


 血のつながった実の叔父だし、『念話』でリチャードの魔力パターンは知っていたので、リチャードの魔力はオレの身体にスムーズに受け入れることができた。 


 ゆっくりと流し込んでくれる魔力のおかげでオレは魔力切れの症状が無くなってきた。


『あーー、ホントにツラかったから助かる。どいつもこいつも好き放題に鑑定魔法を使いやがるから、腕輪にグイグイ魔力を吸われてマイッタよ』と思わずタメ口でリチャードに『念話』で告げると、『そんなものブチ切ってやれ、私が許す』と言ってきた。


 もうタップリ魔力をチャージしてもらったので、これでれるなとニヤリとしたオレはリチャードに軽く頷いた。


 大司教の裁定が下りたあとは、鑑定魔法をかけてくる者が減ったが、相変わらず鑑定を使ってくるしつこいヤツがまだいるから、ツナギ結界をまとって〚反射・切断〛をフルパワーで念じた。


 ギャッ!、という声を出して頭を抱え込んだ少女がいるが、オレは素知らぬ顔でいた。


 ふと顔を上げると、正面にいる要注意人物=サリバン・オチョーキンがニコニコ顔でオレを見ている。


 ヤダヤダ、アイツ気持ち悪〜い。


 魔力がチャージされて身体がフラフラするのは止められるが、ダメな子モードを継続するためにワザと身体を揺らしながら、さらに舌を喉の奥に突っ込んだ。やり過ぎてゲロンパしないように気をつけないとな。


 いくら創造神様の加護を授かっている者とはいえ、口から虹を出すのはダメだろうからな。


 リチャードはオレの様子を確認して、会場中央に戻りオチョーキン公爵に向かい言った。


「ではアラン・コーバンが授かった結界魔法をここで発動してもらいます」リチャードはオレを見て言った。


「アラン・コーバン、結界を張ってみろ」


 とたんにオレに鑑定魔法をかけてくる者が数人いる。オレは涙目でワザとプルプル両腕を震わせて持ち上げると同時にツナギ結界の〚反射・切断〛に魔力をガッツリ込めた。


 ウッ!とかグヌッ!とか言って頭を抱え込んだヤツがそこかしこにいるよ。


 大司教おじいちゃんアンタもかよ。


 あたりを見渡してからリチャードが言った。


「アラン、いったん結界を張るのはやめろ」


 オレは両腕を下げた。


「この場にいる者全てに言っておく。私を含めて魔法やスキルは創造神様のおぼしにより授かったものだ。その創造神様より加護を授かった者に害をなさんとする者は、創造神様に害をなさんとする者に等しい」


「すなわち、神罰を恐れぬ愚か者ということだ」リチャードはマローン大司教をにらみつけて言い放った。


 あー、リチャードはかなり頭にきてるな。オレやヴィヴィアンをあわよくば教会に取り込んでやろうという思惑おもわくが見え見えだったからなぁ。大司教おじいちゃんは虎の尾を踏んじゃったか…。


 リチャードは静かに魔力を放出し始めた。黒い魔力が会場内を埋め尽くす勢いで放出されると、胸を押さえたり膝をつく子どもたちがいる。


「あらためて皆の者に告げる」 


「創造神様への敬意やおそれを忘れてはならん。創造神様は我ら一人一人を大いなるご意思で見守られているのだ。マローン大司教、そうであるよな?」


 まだ頭が痛そうな大司教は威厳を取り繕って大きく頷いた。


「リチャード・コーバン子爵様のお言葉通り、創造神様は大いなるお慈悲の御心で我らを見守ってくださっている」


 アレ…?、大司教おじいちゃん、かなりリチャードにビビッてるのか?。まぁ会場内を埋め尽くしたリチャードの魔力に勝てる気はしないがな。


 オレが鑑定魔法を力まかせにブチ切ってやったのも創造神様に害をなすってやつに真実味を与えたかな。


 さりげなくあたりを見渡してみると、リチャードの魔力に対抗出来ているのはロザリーとジェームスくらいかな…、サリバン・オチョーキンも面白そうな顔をしてるか…クソがよぉ。


 額に汗を浮かべながらオチョーキン公爵は言った「リチャードよ、皆の者もあらためて創造神様への敬意を胸に刻んだであろう。もうよいな…」


 オチョーキン公爵の脳裏には、ある光景が浮かんでいた。それはみずからが総大将として進軍したローダイ王国で見たものだ。


 空を飛び広域殲滅魔法を放つリチャードの姿、とどろくく雷鳴の音に地形を変えていく戦場。


 ローダイ王国の王城上空で破裂するいくつもの巨大な火球。


 オチョーキン公爵は思わず耳をふさぎ目を固く閉じたかったが、会場内から視線が集まる今はダメだ。奥歯を固く噛みしめながら公爵は思った。


『確かに創造神様の神罰は恐ろしい。それは夢夢忘れてはならぬが、目の前にいるリチャードはその神罰をこの世にもたらせるヤツだ。この場にいる者の中にあの戦場を知っている者はわずか…、『創造神様の加護』を授かっているアランが成長すれば、どれほどの者になるかはかり知れん』


『教会なんぞにいいようにされるわけにはいかん。やはりリチャードから耳打ちされた筋書きどおりにアランを保護せねばならんな』


 オチョーキン公爵は思った、もう屋敷おうちに帰りたい……。




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