第48話 見る者は見られる者なり

 家族が待機している部屋に戻ったジェームスとオレは、ホゥーッと息を吐いてソファに座り込んだ。


 もうチカレタからおウチ帰りた〜〜い…グッスン。


 目ざとくオレが襟に付けているアクセサリーに気がついたヴィヴィアンは言った。


「アラン、綺麗なアクセサリーね。お祖父様(コーバン侯爵)にいただいたの?」


 あー、コレ…付けとけって言われたんだよなぁ…。オレが黙ってアクセサリーを見ていると、ヴィヴィアンが「ちょっと私に見せてよ」と言いながら手を差し出してきたが、ジェームスが強い口調で言った。


「ヴィヴィアン、それには触らないでくれ。詳しい話は屋敷に戻ってからするからな」


 ヴィヴィアンはジェームスの口調にビックリした顔をしていたが、黙ってうなづいた。


 オードリーもオレを見ていたが、ジェームスと目を見合わすと軽く頷いた。


 ドアが静かにノックされ、ジェームスがそれに答えると、リチャードが部屋に入ってきた。


「そろそろ時間のようだ。アラン、アレは付けているな?。お前のことを見に予想以上に人が集まってきている。不測の事態が起きないとも限らん、お前たちも気をつけるようにな」リチャードはオレたち家族にそう言うと部屋を出ていった。


 アレ…鑑定阻害の腕輪か…、左腕に他人からは見えないように付けているけど、逆に何も鑑定できずに、オレの加護や能力を誤魔化していると疑われるんじゃないか。


 まぁその時はリチャードになんとかしてもらおう。


 やがてコーバン侯爵家家令のハルンがオレたちを呼びに来たので、みんなで廊下を歩いてお披露目の場所に歩いていった。そこは広くてガラーンとした場所で、パーティーや舞踏会にでも使っているのかな。


 リチャードが言ったように、かなり見物人が密集していて、ガヤガヤザワザワしていたが、オレたちを見て、水が引いたようにシーンといっさいの音がしなくなった。


 正面奥に豪華なソファが三脚並べられ、それぞれに年配の男性が座っていて、その後ろに中年から壮年の男性が複数立っていてオレをジーッと見ている。


 正面のソファに座る男性は、燃える丸い輪の中に羽根の生えたトカゲが剣を踏みつけている紋章が胸に付いた高級な礼服を着ていて、その横にはそれぞれコーバン侯爵とヘンニョマー侯爵が別れて座っている。


 二人の侯爵も先程会ったときとは違うそれぞれの紋章が胸に付いた礼服に着替えている。


 コーバン侯爵の後ろには嫡男のアーノルドが、ヘンニョマー侯爵の後ろには嫡男のオーギュストが立っている。


 左右に別れて前列には上等そうなドレスを着たご婦人方がズラリと座り、やはりオレをジーッと見ている。その後ろには子どもたちが並んでいるが……何人いるんだよ。


 従兄弟いとこがゴロゴロいそうと思ったのは間違いではなかったな。


 オレはさりげなく集まっている人びとを見渡してみたが、ホントにいろんな髪色の人が集まったものだ。金・銀・赤が多いが、青・みどり・茶も婦人方にも子どもたちにもチラホラいる。髪色の濃さが微妙なグラデーションになっているのは面白いな。


 黒はロザリーと正面のソファに座る男性の後ろにもう一人いるか…。


 白はいない…な。


 大人たちは静かにオレをジーッと見ているが、子どもたちは指を差したり袖を引いてゴニョゴニョ耳元でささやきあったりしている。


 何人かはアーノルドやリチャードに似ているし、オリバやオーギュストに似ている子どもたちもいるな。


 オレはロザリーの後ろに立つ緊張した顔つきのアーネストを見て笑いそうになったが、くちびるを噛みしめて我慢した。


 それを見て、ちょっとザワついたが、オレが緊張していると思ったのだろう。


 正直なところ、カラフルな髪色の集団には驚いているが、そーっと魔力を目に集めて子どもたちの魔力を見てみたが、パッとしないなぁ……。


 まぁリチャードを基準に子どもの魔力を見ても、たいしたことないと思うのはしかたないが、妙なヤツが一人いる。


 そもそもこの世界に生きている人は魔法が使えても使えなくても誰しも魔力を持っている。魔力が無い人はいない…と魔法大辞典に書いてあったが、目の前にいるんですけどねぇ。


 ソイツは正面の豪華なソファの後ろに立ち黒い髪色でオレをニヤニヤしながらジーッと見ているが…まったく魔力を感じない。


 ソイツが立っている場所だけポッカリと穴が空いているようだ。


 オレはハッとして思い出した。


 リチャードが言ってた要注意人物…アイツか。


 たしか帝王の実弟であるサリダン・オチョーキン公爵の次男でサリバンだったよな。たしかにヤバそうな匂いがプンプンするぜ。


 ということは正面の豪華なソファに座っているのが、サリダン・オチョーキン公爵か。胸に付けている紋章は帝王家ゆかりの者だということか。


 大きなトカゲだと思ったけど、アレはもしかしてドラゴンなのかな、ずいぶんしょぼいけど。


 オレがボーッとしているダメな子モードでいかなくちゃと思い出して、目から魔力を抜き、身体の中をめぐらせている魔力を押さえ始めたら、サリバンは面白そうな顔をしてさらにニヤニヤし始めた。


 あのヤロウ、楽しんでやがるな…クソッ。


 静かだった室内がザワザワし始めた頃に、リチャードが白いローブを身にまとった人物を引き連れて入ってきた。


 先程部屋に来たときには着ていなかったが、リチャードは鮮やかな真紅のローブを着ている。


 その胸には二重の燃える輪と羽根の生えたトカゲ…ドラゴンが剣と杖を持っている紋章が付いている。


 たぶん帝都魔法師団副団長の正装用ローブなんだろうな。


 後ろに続く人は白いローブだが、その胸には金色の五芒星とその下に二等辺三角形…いやアレは流星だ。


 胸に付けてるマークは流星!。


 ヴィヴィアンの『神恵の儀』で見た司教も同じローブを着て続いて入ってきているから、あの人たちは教会から来たのか。


 オレは流星のマークを見ながら、創造神様は光の国から僕らのためにやって来たのかなと思っていた。


 この茶番劇が終わったら、おたずねしちゃおうかな。


 



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