第46話 明日はお披露目…嬉しいなぁ…トホホ

 薄暗い霧の中に少女がたたずんでいる。地平線に沈まんとする夕陽に照らされた少女の顔は見えないが、さびしげな小さな背中をそっと抱きしめてやりたくなった。


 少女に声をかけようとして、オレは口を開いた………。




 誰かがユラユラと身体を揺らす。


 オレはもう一度口を開こうとして、ハッと目が覚めた。


 夢か……。


 昨夜ジェームスから聞かされたロザリーについての話の終わりに聴いた美しくも哀しい少女の面影をオレも見てみたいと思ったからこんな夢を見たのかな…。


「アラン様、もうお目覚めになるお時間ですよ」ベッドのそばに立っているメイドのマリアが言った。


 昨夜はかなりヘビーな話を聞いたから目覚めが遅くなっちゃった。


 オレはベッドから下りると着替えてフランソワのそばに行った。


 相変わらず可愛い我が妹は、もうOPPAI飲んでネンネしてる。昨日魔力を込めておいたスライム型の柔らか結界はまだベッドの中にあったが、フランソワのよだれまみれでバッチィので、新しく作り直して枕元に置いた。結構長持ちするもんだ。


 どれくらい長持ちするかもっと大きな結界を張って実験するか。


 本来の結界魔法の使い方である自分や味方を守る盾として使うなら、半日や一日は維持できるようにしておきたいから、庭に設置して調べてみよう。


 朝食前の鍛錬を始めていたジェームス・クラーク・アーネストは、オレが庭に出てくると手を振って言った。


「「「アラン、早く早く!、結界頼む!!」」」


 ヘイヘイ、今日も下僕げぼくは喜んでツナギ結界でみなさまのお身体をお守りしますよっと。


 オレはサクッと三人の身体にツナギ結界をまとわせると、庭の隅に行き半透明で直径五メートルくらいのドーム型の結界を張った。


 明日の朝まで維持できますようにと念じながら強めに魔力を込めておいた。


 あとは明日の朝のお楽しみだが、ジェームスに言って庭を巡回している使用人に気をつけておいてもらうことにしよう。


 もし今日中に消えたなら、ざっくりでいいからいつ頃消えたかを知っておきたいな。


 オレが結界をペチペチ叩いて硬さを確かめていると、ジェームスが汗をきながら近づいてきた。


「アラン、そんなところに結界を張ってどうするんだ?」


 オレは『念話』で伝えた。


『結界を盾として使うには、長い時間硬いままで維持できないとダメだと思ったので、魔力を込めて作ってみたの』


「そうか…、そうだな。試しになんでもやってみるといい」


『使用人たちが庭を見回るときに、消えていないかわかるように半透明にしたから、気をつけておいて欲しいんだけど…』


「ああ、わかった。家令に言っておこう」


 『お願いします』


 鍛錬を終えたクラークとアーネストもドーム結界をゴンゴン叩いて硬さを調べているから『木剣で壊せるか試してみたら?』と『念話』で伝えたら、ヨーシ!と張り切って切りつけたが、傷一つつかないw。


 フヌーと息を荒くしているが、キミたちマダマダ修行が足りんなぁ…。


 メイドのヘレンが朝食の準備ができたと、オレたちを呼びに来たので、食堂に行って朝食を済ませた。


 ジェームスの話が頭に残っていたオレはロザリーについて複雑な心境だった。そんな雰囲気を感じとったのかロザリーもオレをチラチラ見ていたが、今日は帝都でやることが多いので、何も言わずにアーネストを連れて屋敷を出ていった。


 夕方になり屋敷に戻ってきたロザリーとアーネストはご機嫌だった。


 コーバン侯爵領の特産品として開発した " いいもの " の売り込みは、なかなか好調だったようで、ドナルド・コーバン侯爵から商業ギルドに紹介状を書いてもらい、ギルドマスターと面会できて特許出願も受け付けてもらったそうだ。


 コーバン侯爵と姻戚いんせき関係にあるマルゴン商会の会頭とも面談できて好感触をつかんできたらしい。


 アーネストもそつなく立ち回ることができたようで、ホッとした顔をしている。


 「オードリー、ヴィヴィアンと一緒に私たちのお部屋に来てちょうだい」


 ロザリーはそう言うと、アーネストと一緒に客室に行った。


 しばらくして、オードリーとヴィヴィアンが客室に行くと、キャーキャーと楽しそうな歓声が聴こえたがやがて静かになった。


 やがて神妙な顔つきで客室を出てきたオードリーとヴィヴィアンは、屋敷に戻ってきたジェームスと何やら相談をしていたようだ。


 夕食の時間になり食卓につくと、ロザリーとアーネストが帝都観光の話をにぎやかにし始めたので、まだ屋敷の外に出たことがないオレは興味しんしんで聴いていたが、ふとヴィヴィアンの左腕を見ると、見慣れないブレスレットをはめている。


 んー、帝都観光のお土産でもらったのかなぁと思い、きいてみた。


「ヴィー、しょぉりぃぇ・いいにぇ〜・おびゃしゃみやぁ・にぃー・もぉりゃぁ・てぃぁ・にょぉ? (ヴィー、それいいねぇ〜叔母様に貰ったの)」


 ヴィヴィアンはしばらく黙っていたが、やがて口を開くと言った。


「そうよ、ロザリー叔母様から頂いたの。クラリスお祖母様が身につけていらっしゃったものよ」


 ヴィヴィアンはブレスレットをなでながら、少しだけ悲しそうに言った。


「クラリスお祖母様…お会いしたかったわ…」


 「フランソワにもブローチを頂いたのよ。あの子が大きくなったら渡すの」オードリーがわざと明るく大きな声で言うと「アランにも何かあげられるものがあれば良かったのだけれど、女性用の装身具ばかり残されているから…」ロザリーはすまなそうに言った。


「だーじょーぶ・でいぇしゅ」


 オレはニッコリ笑ってヴィヴィアンを言った。


「きぃりぃぇ・でいぇしゅにぇ、ヴィー・りょーきゃぁ・てぃぁ・にぇ (綺麗ですねぇ、ヴィー良かったね)」


「うん、綺麗だね。大切にするわ」


 ロザリーが帝都に来た目的の一つに、亡くなった母親の霊廟れいびょうをアーネストと共に訪れることがあった。修道院で亡くなったクラリスの遺体はアンデッドにならないように灰になるまでしっかり焼かれ、その遺灰と髪の毛と共に身につけていた数々の装身具がコーバン侯爵家に送られてきていたのだ。


 生家のヘンニョマー侯爵家の紋章が入っているものは返却したが、そのかわりに弔慰ちょうい金がヘンニョマー侯爵家から渡された。お貴族様同士で貸し借りは避けるためだろう。


 その弔慰金の一部は喜捨きしゃとして修道院に送られ、残りはジェームスとロザリーに渡された。髪の毛の一部も二人に渡されている。


 残された装身具はオードリーやロザリーに形見分けとして渡されたが、今回ヴィヴィアンとフランソワにも形見分けとしてブレスレットとブローチが渡されたということだ。


 女性たちの歓声が聴こえてからやがて静かになったのは諸々の事情を聴いたからだろう。


 ジェームスも気分を変えるように明るい声で言った。


「ヴィヴィアン、それはお母様が大切にされていたものだ。良かったな。姉上、シャルロッテに渡すものは残しているんでしょうね?」


「ええ、あの子にはネックレスを渡してあるわ。それに…あと三・四人女の子が増えても大丈夫よ。ジェームス、頑張ってね」


 ロザリーがジェームスをからかい気味に言うと、オードリーはちょっと頰を赤くして言った。


「お様、子どもたちの前ですよ!」


「えっ!、また妹が産まれるんですか?」クラークが素っ頓狂な声を上げると、アーネストもつられて「お母様、私にも妹が…?」と言ったので、オードリーとロザリーは二人揃って答えた。


「「まだよ!」」


 それを聴いて早合点したのに気づいたクラークとアーネストはケラケラ大声で笑いだした。


 しばらくなごやかな雰囲気でいたが、ジェームスがオレに向かって言った。


「明日はいよいよお前のお披露目だな。今夜は早く寝ておけよ」


 あーーー、それなぁ…。ヤダヤダ、取りやめにならないかなぁ…トホホ…。

 





 

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