第43話 夜のお散歩

 ロザリーの話が終わり、オードリーが入浴剤を試したくてウズウズしているので、その場はお開きとなった。


 オレはトテトテ歩いて部屋に戻りフランソワのベッドをのぞき込んだ。


『フランソワ〜、ご機嫌はいかがかなぁー?』と恒例になっている『念話』での話しかけを試してみたが、クリクリのオメメを見開いてオレを見るだけで、それ以外の反応が無い。


 さすがに二人続けて赤ん坊の頃から自我があったり、魔法が使える子どもが産まれるわけは無いよなぁ…と思いながら、フランソワの好きなフワフワ結界で魔物図鑑で調べたスライムやオークの模型を作って浮かべてみた。


 フランソワはキャッキャ言いながら、フワフワ結界のスライムを両手でつかんで口に入れようと頑張っている。


 可愛いなぁ…、と思いながら見ていたらメイドのヘレンが部屋に入ってきて言った。


「アラン様、お風呂に入る時間ですよ」


「お・きゃぁしゃま・はぁ?」


「奥様はもうお出になられました」


「わぁ・きゃぁ・たぁ (わかった)」


 オレはフランソワがしゃぶっているフワフワ結界のスライムに魔力を込めて、しばらくは形をたもっているようにしてから、ヘレンと共に部屋を出た。


 風呂場には誰もいなかった。クラークとジェームスも風呂から出たのだろう。アーネストは客室の風呂を使ったんだろうな。


 オレは最近やるようになったメイドの閉め出しをするために、脱衣場に結界を張った。


 まだ赤ん坊の頃からオレのシモの世話をしてくれているメイドたちはオレと一緒に風呂に入って身体の隅々すみずみを洗いたがるが、オレはそれが嫌でたまらなかった。やはり前世の母親エロブタに植えつけられたトラウマは転生してから家族やメイドたちに愛されていると思っていても、なかなか治らないものだなぁ。


 ヘレンはオレが張った結界に気づくと残念そうにため息をついて言った。


「アラン様、またお一人でお風呂に入られるのですか?」


 オレは黙ってうなずくと結界を半透明のモノに変えて、静かに服を脱いで風呂場に入った。


「ここにおりますから、いつでもお呼びくださいね」


「わぁー・きゃぁー・たぁーー」と言って、オレは風呂場のドアを閉めた。


 浴槽は大きくて高さもあるので、結界で身体を浮かせてお湯にかることはできても、浮力で身体が安定しなくて危ないから、床に結界で小さな水槽すいそうを作ってから、逆Uの字のパイプも作り、片方の端を浴槽に入れて反対側を結界の水槽に入れてから、パイプの中の空気が吸い出されるようにイメージして魔力を流した。つまりサイフォン効果でお湯を移すわけだ。


 最初にやったときはクラークが一緒だったけれど、空中からお湯が出て箱状にまっていくのを見て目を丸くしていた。半透明の結界で作り直して、原理を説明しながらやったら「アラン!、どうしてそんなことを知っているんだ?」と喰いついてきたから『創造神様の加護があるから…』と目線を合わせないようにしてすっとぼけてみた。


「創造神様の加護かぁ…」と言うと、クラークは何も言わなくなった。


 すまんな兄貴、転生しただの前世の記憶だのなんて言えないよぉ…。


 それからは困ったときの創造神様の加護頼みは、便利ではあるが乱発すると神罰を喰らいそうなので控えている。


 あっマズイ!、魔力の増やし方を教えたときに、創造神様の加護って言っちゃったな……、でもどこかで笑っている声が聴こえた気がしたから、結果オーライだったのかな。


 オレは水槽にかってから身体を洗い、もう一度逆Uの字パイプを作って、空中に固定してシャワーのように頭からお湯をタップリ浴びてから、結界水槽を解除して、生活魔法の〚そよ風〛で身体を乾かしてから着替えて風呂場の外に出た。


 そこにはヘレンではなく、ジェームスが待っていた。


「アラン、最近は一人で風呂に入れるようになったんだな。メイドたちが身体を洗えなくて残念がっていたぞ」ニヤリと笑って言うとジェームスはオレに手を差し伸べてきた。


「少し庭を散歩しないか」


 ジェームスはオレを抱き上げるとユックリと歩いて庭に出た。


 ジェームスはオレの身体の感触を確かめると言った。


「アラン、結界を張っているのか?」


 オレは『念話』で伝えた。


『はい、結界魔法の練習です』


 ホントは黒いモヤさんことロザリーがまだ怖いんだけどね。


 しばらく夜の庭を散歩していたが、屋敷から離れた東屋あずまやに来ると、オレをベンチに下ろして言った。


「少しアランに知っておいて欲しいことがあるのだが、クラークやヴィヴィアンにはまだ早いかも知れないから、ここで『念話』で話そう」


 ジェームスはかなしい女の子の話を『念話』でかたり始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る