第41話 " いいもの " の秘密:①
オードリーとロザリーが食堂に入ってきたので、やっとお待ちかねの夕食の時間になった。
お腹ペコペコのクラークとアーネストはマナーもそこそこにガツガツバクバクと食べ始めた。もちろんオレも負けずにモギュモギュした。
大人たちとヴィヴィアンはそれを
「あなたたち、そんなにお腹が空いていたの?」オードリーが
「ハハハ、そうだったね。まだ兄上たちと私も子供の頃にはあんなふうにバクバクと競争しているみたいに食べていたなぁ…」ジェームスは懐かしいものを見るように微笑みながら言った。
「あなたたち三人が食卓の食べ物を次から次へとお腹に収めていくのを、私もカレンもこんなふうに呆れて見ていたわね、フフフフフ。まだお元気だったお母様たちもね…」ロザリーがそう言うと、ジェームスはちょっと暗い顔になった。
「クラリスお母様にこの光景を見せたかったな…」
「そうね…、クラリスお母様に見せたかったわね」
理由は分からないがなんだか暗い顔をしているジェームスにきいてみた。
「キューリャァ・リィーシュ・しゃまぁ・てぁ・ぼぉーきゅにょぉ・おーーびゃぁ・しゃみゃ?(クラリス様って僕のお祖母様?)」
「そうだよ。まだ私が子供の頃に亡くなられたのだ。私と姉上の実の母上だよ」とジェームスは答えた。
「しょぉー・にゃんでぃぇしゅかぁ…、キィヤアリェンン・しゃまぁ・はぁ?(そうなんですか…、カレン様は?)」ときいてみたら、ロザリーが教えてくれた。
ドナルド・コーバン侯爵の第三夫人シンディが産んだのが、コーバン侯爵家の末娘のカレンで、魔法は使えないが計算と事務のスキルを『神恵の儀』で授かり、シンディの生家のマルゴン商会の
「カレンもたまに手紙をくれるけど、元気そうね」
「そうですね。帝都にはあまり来ないのでしばらく顔を見ていませんが、そのうち子どもを連れて来るような手紙は来てましたね。いずれは長男のビリーと長女のミリーを帝立学園に入学させるつもりだと書いてありました」
「あら、じゃあアーネストとは学園にいる時期が重なるのかしら。クラークはあと二年で入学するのよね」
「はい、そのために毎日座学で学んでいますし、剣の鍛錬も続けています」クラークが答えると、アーネストが言った。
「クラークはジェームス様と同じように、騎士団に入りたいのかな?」
「うん、そのつもりだけれど、まだまだ鍛錬しないとダメだし、火魔法もこれから頑張らないとね」
「クラークは偉いなぁ…、私は学園に入っても、いずれはコーバン侯爵領に戻って領内で仕事をしたいから、土魔法を今よりももっと使いこなして、耕作地を広げたり魔物を寄せつけないようなしっかりした塀や堀をたくさん作れるようになりたいんだ」アーネストがそう言うとロザリーが言った。
「明日ドナルドお祖父様にお会いしたときには、そのことをキチンと自分の口からお話して、コーバン侯爵領でお仕事がもらえるようにお願いするのよ」
「はい、わかっています」アーネストは少し厳しい顔をして言った。
う〜〜ん?、コーバン侯爵領はロザリーが領主代行として治めているから、その嫡男のアーノルドが男爵位を継いで領主代行になればいいんじゃないの?。
ダメなのかな…。
あまり貴族家内部でのこみいった事情はわからないから、なんとなく疑問はそのままにしておくのがいいと思うことにした。
さっきからソワソワしているオードリーがロザリーに言った。
「お・
「フフフ、そうだったわね。アーネスト、オードリーにお土産を渡してあげて」
「はい、ここにございます」
アーネストはそばにいたメイドに包みを渡した。
オードリーはそーっとその包みを開けると、取り出してしげしげと見たり、匂いを嗅いだりしている。
「姉上、これはなんですか?」
ジェームスが問いかけるとロザリーが得意げに言った。
「これはねぇ " とてもいいもの " なのよ」
ロザリーが説明してくれた話しでは、これは海に生えている特別な海草と塩を魔法で加工したもので、一般的な海塩を使うよりもまろやかな味わいということだ。そして加工過程を調整したものは、お風呂に入れて入浴剤として使っても良し、髪を洗ったあとのコンディショナーとしてお湯に溶かして使っても良しというもので、オードリーが気になっていたロザリーの髪や肌がツヤツヤしている理由はこれを使っているかららしい。
ロザリーはこの加工品をコーバン侯爵領の特産品として、その製法を商業ギルドに登録し、権利を確保してから帝都で売り出したいのだが、その前にコーバン侯爵の伝手を頼りに高位の貴族や力のある商人たちに進呈して、その効果を確かめてもらいたいということだ。
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