第39話 領主代行はムズいお仕事
ベッドに座って、おばちゃんトークをボーッと聴いていたが、どうやらロザリーが言ういいものとは海に面したコーバン侯爵領で開発した特別な海草と塩を加工して生産したものらしい。
オードリーはそれが何なのか知りたくてグイグイ喰いついているが、ロザリーは日頃は我慢しているコーバン侯爵領でのアレコレを聴いてほしいらしくて、一方的にまくし立てていた。
「それはあとでちゃんと教えてあげるし、お土産に持ってきたからね。だけどホント領主代行なんてなるもんじゃないのよ、だってね……」
コーバン侯爵領の領主はドナルド・コーバン侯爵だが、実際には帝都での軍務副大臣としての公務と侯爵家当主としての責務があるので、娘のロザリーに男爵位を与えて代行させている。
コーバン侯爵領を
安全とはズバリ魔物を討伐すること。領地内にある山には山の魔物、森には森の魔物、海には海の魔物がいるし、どこからか盗賊も流れ込んでくる。
それを討伐するために領地内を見回る騎士や兵士を集めて稼働させないといけないし、絶対数が足りないから領民から猟師や狩人を育成したり、冒険者が定着するように働きかけないといけない。
つまりは、厄介な魔物を討伐すればその厄介さに応じた報奨金を出したり、魔物の皮や骨に魔石を買い上げるときに補助金を出して、継続して魔物を討伐させて一般の領民が魔物に襲われる被害を極力少なくしないといけない。
同様に盗賊を捕まえたり、討伐すれば報奨金を支払うことにもなっている。
捕まえた盗賊はもれなく闇魔法でゴニョゴニョして、耕作地で働いていただくことにしている。ガタイのいい盗賊連中は多少はこき使っても大丈夫だし、耕作地には人手はいくらあってもいいからね。
やっぱりオレが不安に思ったように精神干渉が得意なんだな黒いモヤさんは…。
前世なら人権侵害だとか、犯罪者にも人権があるとか問題になるが、この世界ではそんな寝言は誰も聞いてくれない。
盗賊は討伐してもかまわない魔物と同等の存在なので、むしろ討伐しないで領地内の耕作地で働かせるほうが温情的処置と解釈されているそうだ。
生活が苦しくてやむにやまれずとか人に危害をくわえていないとか、それぞれの罪状によって、耕作地で働かせる期間を調整したり、生活待遇を良くしたりはしているようで、領民として受け入れられて定住する者もいるそうだ。
その反面、楽に稼げるからと盗賊行為を繰り返していたり、人に危害を加えても罪悪感の無い連中は即座に処刑されたり過酷で危険な採掘現場に回されて使い
領主代行は政務のトップだが、同時に軍事のトップでもあるから、量刑も刑の執行も職務権限として認められているということだ。
第二には領地の収益の安定・向上だ。つまり簡単に言えば金もうけだ。
農作物の収穫を安定させるために、農業用地や用水を確保し、農民が生活する開発村の環境を整備し、山に眠っている鉱脈・鉱石も掘り出して運び出さないとダメだし、海からは海産物や塩を収穫しなければならない。
生活の安全と収益の安定を両立させるためにはひたすら魔物を討伐しないといけないし、それにかかる費用と収益のバランスも大事だし、そのうえでさらになにか金もうけになるものがないかを探さないとジリ貧はまぬがれないから、とても頭が痛い。
領主様とは、ふんぞり返って
そりゃ気晴らしにたまには盗賊を闇魔法でゴニョゴニョしたくもなるよな。
ロザリーの話を聴いているうちに、オレは一方的に怖がっていたロザリーのことが少しだけ理解できてきた。
魔法大辞典に書かれていたようなマイナスイメージが怖さの原因だったが、おそらく五歳時に『神恵の儀』で闇魔法を授かってからは、口に出せないような苦労や屈辱に耐えてきたんじゃないかな…。
それを考えると、やればやるだけ結果が出て評価される領主代行の仕事は厳しくもあるがその分楽しいものなのかもしれない。伴侶も騎士で武力面では頼れるし、息子と娘もいて、土魔法が得意な息子との関係も良さそうだ。
さて、オードリーがグイグイ喰いついて聴き出したいいいものについてはまだ教えてくれないらしい。
無敵のおばちゃんトークはまだ続くようだ。
お腹空いたなぁ……(二回目)
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