第37話 闇魔法は怖い魔法なの?

 オレは魔法大辞典の闇魔法の項目を読み始めた。ざっくりとななめ読みした限りでは、闇魔法はあまり評価が高くないということだ。


 火・水・風・土は一般的な評価を得ていて、貴族のみならず平民にも広く使い手はいる。それぞれの魔力量や習熟度によって評価の差はあるが、適材適所というか魔法使い…あるいは魔法を使える◯◯といった感じで職業としても成立している。


 実際にアーネストはコーバン侯爵領内で土魔法を使い、領地内では領民から高い評価を受けているらしいと聴いたな…。


 そのほか光魔法や聖魔法は使い手も限られていて、浄化や治癒に特化した熟練の使い手は敬意を持って扱われたりするが、ここで厄介なのは " 魔を打ち払う能力 " がからんでくることだ。


 " 魔 " とは、そのものズバリに悪魔を意味するが、その派生物としてのアンデッド=スケルトン・ゾンビ・グール・レイスなどの不死者やそれらをあやつる者たち…闇魔法使いをも意味する。


 つまり闇魔法使いやその派生魔法である、影魔法や死霊魔法は『神恵の儀』でということらしい。


 闇魔法の特徴は【精神干渉】が得意ということらしい。


 いわゆる洗脳だ。


 人の精神に作用して闇魔法使いの意図することをやらせたり、逆に抑制したりできるらしい。その他にも闇魔法使いは人の身体を拘束したり、闇に閉じ込めたりもできるらしい……コワイヨォ…。


 しかしオレは思った。闇魔法も使い方や使う者によって、人の役に立つ凄い魔法なんじゃないかと。


 オレは前世で母親エロブタにされて、人と触れ合うことに忌避きひ感を抱いたまま生涯を終えた。


 オレに闇魔法が使えていたら、前世の母親エロブタの精神に干渉して自分の子どもにセクハラしない健全な母子でいられたんじゃないか…?、単身赴任で家庭をかえりみなかった前世の父親の精神に干渉して、父親として息子の生活や成長にもう少し関心をもたせることができていたら、オレも少しはマシな前世を送れて、女性を好きになって家庭を築けたのではなかったか………。


 オレは今更ながら前世のオレの境遇を思い返して涙が出てきた。それは前世のオレをあわれむと同時にこの世界に転生してから家族のあたたかさを知り、人と触れ合うことに忌避感を感じなくなったことへの喜びかもしれない…、まぁ精神ココロは大人でも身体は四歳児だから、感情がたかぶると涙が出ちゃうのはしょうがないねw。


 オレはさらに想像してみた、犯罪を犯した人たちの精神に干渉して、再び法に触れる行為をしないように抑制したりもできるんじゃないかと。


 前世でよくニュースになっていた痴漢やストーカー・詐欺師・反社集団などの、性的欲望や暴力的欲望などの自分さえ良ければいいという連中の精神に干渉できれば、犯罪被害者を減らすことができるんじゃないか…、そこでちょっとマジで怖くなってきた。


 オレが闇魔法についてななめ読みした程度の知識で思いつくことなら、すでに誰かが思いついているだろうし、それが権力者なら、精神干渉を統治手段として利用しているんじゃないか?。


 オレが権力者=帝王なら、闇魔法使いを身近に置いて、臣下や貴族たちからの自分に対する評価をちょいとイジらせたりできるし、誰かが精神干渉してきたらそれを察知さっちさせて撃退させられるし、帝国民たちの精神をイジって絶大なる支持を受けられるようにする…それは教会の高位聖職者も同じかぁ。


 聖職者が " 魔 " を利用する。


 ぶっちゃけ権力者ならなんでもありで、法律だの良識だのはその時々の権力者によってどうにでもできるからありえる話かもしれないな。


 しかし精神干渉が得意な者が反逆の意志を持ったらどうする…、絶対服従なんてさせられるのか?。


 絶対服従の魔法とか魔道具とか…、それかなにか弱みを握るか。


 家族を人質にする…?。


 その家族が貴族なら…、貴族の子どもが闇魔法使いならば、親兄弟や一族郎党が人質にできるかもしれないな。実際にどこかに幽閉ゆうへいする必要なんてない、むしろ少しだけいい地位や権力を与えればいいんだ。つまり人質の価値を高くすれば、その闇魔法使いは唯々諾々ゆいゆいだくだくと権力者に従うしかなくなる。


 魔法も魔道具も必要無い " 見えない首輪 " がガッチリはめられるな。


 オレはだんだん落ち込んでくる気分のままで、ロザリーについて考えてみた。


 高位の貴族令嬢が闇魔法使いで女男爵、父親は侯爵で軍務副大臣、長兄は伯爵で軍務副大臣筆頭秘書官、次兄は子爵で魔法師団副団長、弟も子爵で騎士団副団長…、アレっ?……、なんかヤバくない…。


 自分の想像の世界で勝手に怖くなったオレは身体をブルブル震わせながら、精神干渉を阻害する魔法が無いのか調べてみようと思った。


 とりあえず鑑定魔法対策の結界魔法〚反射・切断〛を常時発動させておくかな。


 そういえばロザリーは鑑定魔法を息を吸うように自然にオレに使ったし「私のことをキライにならないでね」って言ってたな。


 う〜ん、コーバン侯爵領での生活はお気楽なものにはならなそうだなぁ…、ハァ〜ァ。


 クラークとアーネストがスヤスヤ寝息をたてている中で、オレの暗い気分は晴れなかった。


 コンコンッとドアをノックしてオードリーとロザリーが部屋に入ってきた。ベッドで大の字になって寝ているクラークとアーネストを見て二人は微笑んだが、涙目で身体をこわばらせてロザリーを見ているオレに気がつくと怪訝けげんな顔をした。


 机の上に置いてある魔法大辞典の闇魔法のページが開かれているのを見て、ロザリーは顔を伏せた。


 


 


 


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