第35話 魔剣を持つにはまだ早い

 ジェームスの剣技を見ていたオードリーとロザリーは膝をついてフラフラしているオレに近づいてきた。


「アラン、大丈夫?。魔力切れみたいね。アナタはお部屋に戻ってお休みしていなさい」オードリーはそう言うと、近くにいたメイドのヘレンにオレを部屋に連れて行くように指示した。


 ヘレンに抱かれたオレはジェームスの剣をジット見た。


 うーん、魔力を込めると刀身の色が変わり切れ味が増す剣か…オレも一本欲しいなぁ。


 オレとヘレンが屋敷に入っていくのを見とどけたオードリーはジェームスに言った。


「子どもたちの前でずいぶんはりきったわね。まだ一閃いっせんを見せるのは早かったんじゃないの?」


「ハハハハハ、一閃いっせんを使うほどの事案はしばらく無かったし、剣技もみがかないとびつくだけだからな。それにアーネストはミッチーにしごかれて剣の稽古もしっかりやっているし、帝立学園でもみっちり学んでいくだろうが、目指すべき目標の一つとして見ておいてもらおうかなと思ったんだ。アランの魔力全開の結界も切ってみたかったしな」


「ジェームス、まだその剣を使っているのね。アナタが騎士団の御前試合にのぞむ前にお父様(ドナルド・コーバン侯爵)にいただいた魔剣…」ジェームスの手にしている剣を見ながらロザリーが言うと「「魔剣!」」と声を合わせてクラークとアーネストが叫んだ。


「お父様、その剣が輝いていたのは、魔剣だからということですね」とクラークがきくと「そうだよ。ほら、持ってみなさい」と言ってジェームスはクラークに魔剣を手渡した。


 いきなり魔剣を渡されてその重さに取り落としそうになったが、顔を真っ赤にして両腕に力を入れてなんとか持ちこたえたクラークは「お…、重い」とつぶやいた。


「クラーク、剣先が下についてもいいから、そのまま魔力を込めてみろ」


 ジェームスに言われて、剣先を地面につけて安定させると、クラークは魔剣に魔力を流し始めた。黒い刀身はかすかに赤い色をおびた。フウ〜と息をついたクラークは言った。


「お父様、この魔剣は私の魔力をグイグイ吸います。だんだん頭がクラクラしてきました」


「そうだ、その魔剣は魔力をかなり吸う。もうそこで止めておきなさい」と言うと魔剣を受け取り、アーネストに手渡した。


「アーネストもやってみろ」


 魔剣を受け取ったアーネストはクラークと同じように剣先を地面につけて安定させると、魔力を流し始めた。


 魔剣はかすかに茶色いモヤをまとい始めた。それを見ていたジェームスはアーネストに言った。


「アーネスト、ユックリでいいから剣を持ち上げて、先ほど放った土礫アースバレットが剣先から放たれるように思い描いて振ってみろ」


 アーネストはやや中段ぎみに剣を持ち上げると、魔剣を横に振った。剣先からアースバレットは出たが、力無く五メートルくらい先で地面に落ちてくだけた。ユックリと剣先を地面につけて安定させると、フゥ〜〜と息をついた。


「うむ、まぁ最初にしてはいい出来だ。これからが楽しみだな。身体は大丈夫か?」


「はい、少しダルくなりましたが大丈夫です」


「ミッチーも同じような魔剣を持っているはずだが…」


「ええ、私とミッチーが結婚したときにお父様からいただいているわ」近づいてきたロザリーがそう答えると、アーネストがちょっと頬をふくらませて言った。


「えーー、私は知りませんでしたよ」


「アナタが魔剣を使いこなせるようになったら教えようと思っていたのよ」と言ってロザリーはニッコリ笑うと「だから剣も魔法もまだまだと言うことね」とアーネストに追い討ちをかけた。ガックリと肩を落としたアーネストをなぐさめるようにジェームスが言った。


「姉上、コーバン侯爵領に戻ったらアーネストに見せてやったらいいんじゃないですか?、アーネストが鍛錬を続けるはげみになりますよ」


「そうねえ…、ミッチーに相談してみるわ」


 それを聴いてアーネストは元気が出たようで「母上、お願いしますよ」と念押しをした。


 ハイハイわかりましたと軽く流しながらロザリーは笑った。ヴィヴィアンは魔剣には興味が無いようで、もう屋敷に向かって歩き始めていた。


「アナタ、そろそろ出仕のご用意をしないと…」オードリーが言うと、魔剣の刀身を確かめていたジェームスは鞘に収めて屋敷に向かって歩き始めた。


「アナタたちも汗ビッショリじゃない。木剣を片づけて屋敷に入って着替えなさい」と言うとロザリーと屋敷に戻っていった。


 その頃オレはヘレンに着替えを手伝ってもらって、ベッドにもぐり込んでスヤァしてましたとさ。


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