第11話 魔法バカはあなどりがたし
子どもたちを引き連れて書庫に入り、自分が集めた魔法書や数々の魔道具を見せながら、
「ここにあるものは私が集めた魔法に関するモノたちだ。まずは自分の授かった魔法について書かれた本を何冊か見て、読みたいものを選びなさい。それからここにある魔法具の使い方を教えてあげるから、気に入ったものをひとつ持ち帰っていいよ」
リチャードはクラークを火魔法の魔法書の棚に、ヴィヴィアンを光魔法の魔法書の棚に連れて行った。そしてアランを抱いたまま、大きな魔法書を棚から取り出すと、窓際に置いてある書見台に持っていき、アランに見せながらそのページをめくっていった。
「アランの授かった結界魔法についてはこの魔法大辞典が詳しく説明しているが、アランには大きすぎて一人では見れないね。どうしようかな………」
書見台の前に置かれた椅子の上に立ち上がって魔法大辞典を見ていたオレも、どうしようかな……?と考えたが、結界でページをめくればイケルんじゃないかと試してみることにした。
「お・じしゃま、ぼーくに・やりゃしぇて、やりゃしぇて (叔父様、ぼくにやらせて、やらせて)」
オレは指先でページの端をそっと持ち上げると、そこに結界の板を差し込んでゆっくりとページの裏側全体をカバーした。表側も結界板でカバーしたあとで、二枚の結界板でページをしっかり固定すると、ゆっくり右から左に結界板を動かして、ページをめくることに成功した。そのままゆっくりと左から右に結界板を動かして、元のページに戻してみせた。
「お・じしゃま・ぼーく・このごほん・みりぇましゅ」
オレは得意げにムフーッと息を荒くしてリチャードに言った。
リチャードは見た目は誰も触っていないのにページが左右に動くのを見て、感心して言った。
「アランは結界の面白い使い方を知ってるんだね。よし、じゃあここでこの魔法大辞典を見ていなさい。それとこのページの半分くらいの大きさで結界を二つ作って私の目の前に浮かべることはできるかな?」
「はぁい、どーじょ」
オレがリチャードの顔の前に二枚の結界板を出して、指差すと、リチャードはそうっと触って、満足そうに頷いた。
「複数の結界を出すこともできるんだね。じゃあこの板を打ち合わせてみて」
オレはシンバルのように、結界板を打ち合わせてみた。パァーーンという甲高い音がして、書棚で魔法書を
「いいねいいね!。私はクラークたちの魔法書選びを手伝ってくるから、アランはここにいてこの魔法大辞典を見ていなさい。もしなにか困ったことがあったら、今みたいに大きな音を立てて教えるんだよ。いいね」
「はぁぃ、わきゃりましぇた (はい、わかりました)」
オレは結界魔法について書いてあるページを見ながら、ふと気がついた。あの
敵もサルものひっかくものだな。まぁ叔父としてオレを擁護するために必要なのか、ただ興味があってのことかは知らないが、やつには要注意だな。
そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、リチャードはクラークとヴィヴィアンに魔法書を選んで持たせ、光が灯る魔法具や風の出る魔法具を持たせてキャッキャ遊び始めた。
オレは『おこちゃまたちうるさいよ』とウザくなってきたが、結界で作ったイヤーマフを両耳にはめて、雑音をシャットアウトして魔法大辞典に集中した。
しばらくは無音の世界で結界魔法について集中して読み進んだが、『最強の盾』として個人や戦闘集団を守る防具的なものや複数の魔法使いが魔法陣を使って行う地域全体を覆うバリア的な使い方についてのみで、攻撃手段としての記述は無かった。
攻撃手段として『見えない矢』や『見えない槍』や『見えない剣』を作れれば、『最強の盾』と『最強の剣』を一人で扱えることになるはずなのに、今まで誰も思いつかないはずがない…それにはなにか重大な秘密があるのか…。
オレが自分の世界に入り込んで結界魔法の効果的な使い方を考えていると、なんだか目の前がチカチカする。ん~~っ、なんだぁ〜、とまわりを見渡すと、クラークとヴィヴィアンが大きな口をあけて何か言っている。
「にゃぁ~にぃ〜」
言ったとたんに、自分の声が頭に響き、結界のイヤーマフをしていたのを思い出して解除すると、甲高い音声でヴィヴィアンが叫んでいた。
「アランーー!、き・こ・え・な・い・のーー、アランってば!」
オレは大きく手を広げて言った。
「ききょぇてぃぇましゅ、ききょぇてぃぇましゅ (聴こえてます、聴こえてます)」
「もう!、何回も呼んでるのに知らん顔をして魔法書を読んでるから…大きな声を出しちゃったじゃない!!」
光の魔法書を胸に抱えて、光が灯る魔法具をオレにむけていたヴィヴィアンがオレを叱りつけた。
姉よ、それはアンタのやったことだろうが、オレのせいにするなよ。子どもだなぁ…、あっこの子まだ五歳だったよ。
「アラン、ずいぶん熱心に魔法大辞典を読んでいたけど、結界魔法については何かわかったの?」
火の魔法書と水が出る魔法具を大事そうに両手で抱えたクラークがオレにきいてきた。
「うぅ〜〜ん、よくわきゃらにゃい、でぃぇもぉ・わきゃりゅよう・おべんきょ・ぎゃんばりぃましゅ (うぅ〜〜ん、よくわからない、でもわかるようお勉強頑張ります)」
リチャードがオレの頭を撫でながら、言った。
「少しずつわかるように教えてあげるから、頑張りなさい。この魔法大辞典は面白かったかい?」
「はぁぃ、よぉきゅ・わきゃりゃにゃい・きぇど、え…えぎゃ・おみょ・しりょきゃった… (はい、よくわからないけど、絵…絵が面白かった)」
「え…、絵かい?。このページに書かれているのは結界魔法の魔法陣だけど、アランは魔法陣が読めるのかい?」
ヤベッ!、またやっちまった。魔法陣が読める二歳児なんてまともじゃないよなぁ、でも読めちゃうんだもぉ〜〜ん。
『創造神様の加護』恐るべしだぜ、テヘペロ。
リチャードは探るようにオレの顔や耳もとを見ていたが、少し首を振ると言った。
「さあ、もうそろそろお祖父様やお父様たちのお話も終わっているだろう。さっきのお部屋に戻ろうか」
リチャードはオレが読んでいた魔法大辞典を書棚に戻すと、オレを抱いて書庫を出た。
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