第10話 お貴族様はめんどくさい

 リチャードが子どもたちを連れて応接室を出ていくと、ドナルド・コーバン侯爵は深いため息をついた。


長男アーノルド次男リチャードの子どもたちには、こんな悩み事は無かったが、三男ジェームスの子どもたちはなかなか、第ニ夫人クラリスのところに光魔法や結界魔法の使い手はいたかな?。オードリーの実家はどうだ?」


 長男アーノルドと次男リチャードは第一夫人であるエミリアの子どもで、エミリアの実家は現帝王実弟で軍務大臣のサマダン・オチョーキン公爵である。王弟支持派の結束を固めるために娘をドナルドの第一夫人としてめとらせている。


 ジェームスの母親は現帝王支持派の筆頭である財務大臣のオリバ・ヘンニョマー侯爵の娘で、長女ロザリーと三男ジェームスを産んでいる。


 ドナルドにはもうひとり夫人がいる。第三夫人のシンディはガーシェ大帝国内外に広く手を広げて商売をしているマルゴン商会の娘で次女カレンの母親だ。


 アランが結界魔法を使いこなせるという話が広まると、王家のみならず王弟支持派やマルゴン商会からも何かしら言ってくるかもしれない。王弟であるオチョーキン公爵自身は帝位簒奪の意志は無いが、あわよくば息子や孫を帝位につけようと思っているようで、水面下で何やら画策している。そうなると王家からの監視の目もキツくなり、身を守る手段を強固にしたいと思うのもしかたのないことで、アランの結界魔法=『最強の盾』を手に入れようとしてくるだろう。


 本来ならば、ドナルド・コーバン侯爵が王弟支持派筆頭としてその動きを率いるはずなのだが、現帝王支持派の筆頭侯爵家から娶った第二夫人が実家から連れてきている従者やメイドたちがコーバン侯爵邸で働いているので、コーバン侯爵の周辺で帝位簒奪のあからさまな動きがあると、それらの者から現帝王支持派に情報が漏れるおそれがあるので、コーバン侯爵はいい意味で蚊帳の外に置かれている。


 正直なところ、コーバン侯爵は、帝位をめぐるいざこざには関わり合いたくないのだ。ガーシェ大帝国が安定して発展していくことを軍務副大臣としての職務を通じて維持していきたいだけなのだが、貴族のしがらみというものはそれを許してくれないものなのだ。


 オードリーは地方の男爵家出身で、風魔法・土魔法・水魔法の使い手が出たという記憶はあるが、光魔法や結界魔法などとは縁のない家系だ。


 ジェームスの母親の実家であるヘンニョマー侯爵家も土魔法が得意な家系で、まれに水魔法や火魔法の使い手が出る程度だ。


 「遠い祖先に光魔法や結界魔法の使い手がいたのかもしれんが、まぁそれを詮索するよりも、アランの身の安全をはかるためには、やはり王都から出すしかあるまい。ワシはコーバン領で暮らすのがいいと思うのだが、どうだ?」


 王都から東へ向かったコーバン領は長女ロザリーが夫とともに領主代理として治めていて、自然が豊かで、南は険しい山脈が連なる穀倉地帯で海に面してもいるので、海産物や塩も取れるのどかな場所だ。


 五歳になる前に体調不良を理由に静養に行かせて、帝位をめぐるいざこざが収まる頃合いをみて、呼び戻すことになった。


 ジェームスとオードリーには納得しかねる話だが、帝位簒奪に巻き込まれることも避けたいし、ロザリーとジェームスは実の姉弟で子供の頃から仲が良かったので、甥のアランを邪険にはあつかわないだろうと、しぶしぶながら受け入れた。


 オトナたちがめんどくさい話をしているあいだ、アランは書庫の中でリチャードが集めた魔法書や杖に数々の魔道具を見てハシャイでいた。






 

 


 


 

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