第9話 魔法バカ
結界魔法は『最強の盾』。コレを使える者は重用されると言えば聞こえはいいが、実際は死ぬまで自由はなく、権力者のそばでただひたすら誰かが攻撃してくるのに備えていなければならなくなる。一瞬でも気を抜いて権力者への攻撃をゆるしたら、その存在価値は失われ、殺されてもしかたのないという『高級奴隷』なのだ。
だから王家はもちろんのこと、他の貴族や大商人たちにもバレるとマズイ。
その場で決まったのは、五歳になっても『神恵の儀』には出席しないこと。
それまでの二年間で結界魔法をより強く硬く使いこなせるように
しかしすでに司教に知られていることから、教会にはもちろん、司教と繋がりのある貴族に知られるのは時間の問題で、王家にそれが伝わり、いずれは真偽を問いただされるのは間違いない。
さて、どうやってごまかすか…。
コーバン侯爵はなにかいい手が無いか頭をひねったが、なにも浮かばない。
横にいる
『ダミーの結界でごまかせるんじゃね?』
オレは侯爵に向かって言った。
「お・じーしゃま、こーりぇをみぃてぃぇくだしゃい」
オレは最近よく練習している『見える結界』を侯爵の目の前に浮かべた。
それは本来透明な結界の表面をザラザラにして、うっすら白く見えるようにして、硬さはペラペラのビニール袋のように柔らかくしたものだ。
侯爵は指先でそれに触れると、んーー?何だコレはという顔をした。
「だりぇかに・けっきゃい・まほーを・みしぇる・とーきは、これを・みしぇるにょは・どーでしゅか?」
「なるほどな、『最強の盾』は見えないことに意味があるのに、これではどこに盾があるのかわかってしまい、そのスキを狙われるし、この程度の硬さの結界しかつくれないのでは、つかいものにならないということでごまかすか…」
この『見える結界』は、結界箱を身を守るための盾としてだけではなく、攻撃手段として使いこなすために考えた標的で、最近はこの『見える結界』に小さく作った結界箱の角をぶつける練習をしているのだ。
それに慣れれば『見えない結界』を作って攻撃し放題ということだ。
「しかし、コレでしばらくはごまかせるとして、いつまでもつかな……、いずれは硬くて見えない結界が扱えることは知られるぞ………。五歳を過ぎたら、どこか王都から離れた場所に移らせるか………」
コーバン侯爵がひとりごとのようにつぶやくと、
「この子をどこかへ…わたしたちから奪うのですか?」
オードリーが侯爵をするどい目で見ると、魔力が身体からあふれ出てきて、長い髪がフワァと広がってきた。風魔法が発動する前兆だ。
ジェームスがオードリーの肩を抑えて言った。
「オードリー、まだみんなでこれから話し合うことだから、落ち着きなさい。それに今すぐではない。まだ二年も先の話だよ」
「それは………そうね。お義父様、お義兄様、取り乱してしまい失礼いたしました」
侯爵は手を上げてオードリーを制した。
「母親がおさな子を奪われるかと思って取り乱すのは当然だ。言葉が足りなかったな。だが王都においておけば、アランが災難に巻き込まれるかもしれぬことも事実だから、覚悟を決めておかなければいけないよ」
侯爵はリチャードに言った。
「さてアランのことはおいおい考えるとして、いい機会だから、お前の集めた魔法書を子どもたちに見せてやったらどうだ。光魔法も結界魔法の魔法書も集めているんじゃないか?」
「う〜〜ん、ありますよ。じゃあみんなで魔法書を見に行こうか。お父様、もう遮音魔法は解除してよろしいのですか?」
「いや、オードリーは遮音魔法を使えるな?」
「はい、お義父様。使えます」
「ふむ、では頼む。ジェームスとオードリー、アーノルドは残ってくれ。リチャード、子どもたちを頼んだぞ。それとまだ誰も部屋に入らないように言ってくれ」
「わかりました。みんな行くよ!」
リチャードがそう言うと、子どもたちは歓声を上げて立ち上がった。
オレも結界魔法の魔法書を読めるのは大歓迎なので興奮して言った。
「けっきゃい・まほーのごほん、よみてぃゃーい。ごほん。ごほん。お・じしゃま・どきょにあーるの?」
「書庫にたくさんあるからな。アランに読める魔法書を探しに行こう」
リチャードはオードリーからオレを受け取ると、兄姉を連れて応接室を出ていった。
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