第6話 ろっこんしょーじょー?

 魔法が使えることが両親やメイドたちにバレているみたいだけれど、気にしたら負けなので、オレは毎日せっせと魔力まわしと結界魔法の練習に励んだ。


 ペラっとした結界を箱型にする練習と硬くする練習を同時にしていた。


 箱型にするのは段ボール箱をイメージしたらできたんだけど、硬めるのにはかなり魔力をこめないと難しい。


 ハァハァと息を荒くしてやってるけど、ペラペラのビニール袋から赤ん坊の指で押してへこむボール紙程度の硬さにしかならない。


 まぁそれでも進歩しているのは間違いないので、続けることにした。


 指で押してもへこまなくなってきたら、その結界箱を長い時間維持できるように、常に発動していた。


 指で押したり、床に置いて足で踏んだり、寝るときは布団の下に置いて、魔力が足りなくなって魔法が解除されるとトスンと下に落ちる感覚で目が覚めるので、どれくらい継続して結界魔法が発動できるのか、その感覚を掴めるようにした。


 身体に魔力をまわす練習も少し変えてみた。ひじを曲げて両手を胸の前で合わせてから全力で魔力を腕に通しながら、グーーーンと伸ばしてみる。両足もお腹にくっつくくらいにひざを曲げてから魔力を全力で通しながら、グーーーンと伸ばす。


 魔力を全力で通す練習と手足を伸ばして早く身体を大きくする効果を狙った練習だ。


 前世で聞いたことがある『六根清浄ろっこんしょうじょう』を思い出して心の中で『六根清浄〜、六根清浄』と繰り返しながらやっていると楽しくなる、ちなみに六根とは首・両腕・両足とナニだ。ナニだナニw。男の胴体から生えてるナニだwww。

 ただよく考えたら、手足が伸びるのはいいとして、ナニがニョキニョキ伸びていくのはいかがなものか…。


 二歳児の真正ホーケードリルTINTINが、バ○ナン♪バナ○ン♪バァ〜ナァナ○♪になるのは、まだメイドたちにお世話されてる立場としてはこっ恥ずかしい。


 だから意識は両手両足限定で『伸びろ〜〜、伸びろ〜〜』とやっているわけだ。


 魔力まわしと結界魔法の練習をしながら言葉の勉強も始めた。


 どうも発話能力に問題があるのか口や舌の使い方がうまくないのかわからないけれど、言葉を喋るのが遅くてはっきりしない。だからメイドのヘレンとマリアに交代で子供向けの絵本を読んでもらい、一緒に声に出して読むようにしている。


 神様の加護を授かったおかげか、文字はスラスラ読めるし指先で書いてみることもできるし聞き取りも問題ないようだけれども、口に出す練習だけは何度もやらないとだめなようだ。


 毎日せっせと魔力まわしと結界魔法と発話の練習をしているうちに一年が過ぎ、姉のヴィヴィアンが『神恵の儀』を迎える日が来た。


 両親と兄姉はソワソワしながら着飾って教会に出かけるようだ。てっきりお留守番だと思っていたら、オレも普段着よりは上等な幼児服……おそらく兄貴のお下がり……を着せられて馬車に乗せられてしまった。


 馬車の中では母親と兄が我先にオレをひざに抱えようとうばいあう騒ぎもあったけれど、結局母親のひざに抱えられて教会に行った。


 教会の中に入ると姉と同じく『神恵の儀』を迎える子どもたちがギャアギャア騒いでやかましかったが、姉のヴィヴィアンは朝からずーっと青い顔をして黙っている。


 『神恵の儀』ではその子供にいろいろな魔法や戦闘スキル、生活に必要な計算/事務/交渉力などのスキルが授けられ、それがその子供の将来を左右することもある。


 平民ならどんな魔法でもスキルでも授かったものを有効に使って生活していけばいいけれど、貴族はそうはいかない。


 オレの生まれたコーバン子爵家は父親のジェームスが火魔法、母親のオードリーが風魔法、現在七歳の兄クラークは父親と同じく火魔法を授かっている。父親や母親と同じ魔法か、他の魔法や戦闘スキルでもいいから何か貴族として使えるスキルを授かればいいが、生活スキルや最悪何も授からないなんてことになったら、お先真っ暗だから、青い顔をしているのはしかたがない。


 オレは創造神様から加護と結界魔法と生活魔法を授かっているから、お先真っ暗になる心配はないんだけどね。


 母親に抱かれているオレは「ヴィーのちょころ、いきゅたい」と母親に言った。


 母親に抱かれたままでヴィヴィアンの腕を指先でツンツンつついてから、顔をのぞきこんで言った。


「ヴィー、だーじょーぶ?、かみしゃまは、やさしーから、ヴィーはしーぱいしなくていーよ」

 

 クソ!、もっとハッキリ喋れればちゃんと勇気づけてあげれるのになぁ……。


 オレが自分の口がうまくまわらないのに落ち込んでいると、ヴィヴィアンは顔を上げて「アラン、ありがとう」と母親と同じ青い瞳をうるませて、オレの頭を撫でてくれた。


 子供たちの前に教会の司教が登場すると、ザワザワしていた教会内がスーッと静かになり、司教が『神恵の儀』を迎える子供たち全員に祝福の言葉を述べて、最後に「つきそいの家族の皆にも、創造神様のご加護があらんことを」と祝福してくれた。


 平民の子供たちから司教の前に置いてある水晶玉に手を置いて、司教が何かゴニョゴニョ言うと、光ったり…光らなかったりした。


 水晶玉が光った子供には司教が耳もとで何かを言って笑顔で送り出した。


 水晶玉が光らなくて泣きそうに…いやもう号泣している子供は、しっかり抱きしめて少し長く耳もとで何かを言ってから背中をポンポンっと叩いて送り出した。


 オレはそれをボーっと見ていたが、水晶玉が光らなかった子供に対する司教の態度を見て「アイツ、いいヤツかもしれない。もしくは、いい印象を残しておいて見ている人たちからの教会への寄付金が増えるのを期待しているのかもしれないけどw」と思っていた。


 さすがに退屈になってきたので、教会の天井に結界箱を浮かべて、右や左に動かして遊んでいたら、正面に置いてあるデカい創造神様の石像と目があって、パチンとウインクされたような気がした。


 ヤベッ、見られてる!と思い、結界箱を消して、知らーん顔でおとなしくしていた。


 平民の子供たちが終わり、いよいよ貴族の子供たちの順番がやってきた。


 「ヴィヴィアン・コーバン子爵令嬢」と呼ばれて、司教の前に立ったヴィヴィアンの顔はド緊張でもう真っ白になっていた。


 司教は優しく微笑むと水晶玉に手を置くように言い、何かゴニョゴニョ言った。すると水晶玉が大きく光りだした。


 ヴィヴィアンは下を向いてギュッと目をつぶっていたようで、司教に肩をトントン叩かれるまで水晶玉が光っているのに気がつかなかったようだ。


 司教に耳もとで何か言われるのもよく聴いていないようだが、司教に送り出されると、まっすぐにオレたち家族のもとに走ってきた。


 貴族のご令嬢らしからぬはしたないふるまいに、母親はちょっとイラっとしたようだが、父親と兄に抱きついたヴィヴィアンの様子を見て、しかたないか…とあきらめたようにため息をついた。


 「あのね、あのね。わたし…」と創造神様から何を授かったかを大きな声で言おうとしたヴィヴィアンの口を手でふさいだ母親は「お静かに!、あなたが何か授かったのはわかっているから、貴族の娘らしくおとなしくしていなさい」と軽くヴィヴィアンをにらみながら、耳もとで言った。


 ハッとしたヴィヴィアンは静かに母親の隣に並んだが、オレの足をトントン叩いて小声で言った。


「アランが心配しなくていいよって言ってくれたから、大丈夫だったよ」


 それを聞いた母親はオレの頭をそっと撫でながら「アラン、ありがとうね」と言った。


 他の貴族の子供たちの『神恵の儀』も終わり、司教が儀式台の前から去ると集まった子供たちやつきそいの家族がザワザワし始めた。もう家に帰るんだろうなと思っていたら、父親が誰かと話をして家族みんなを呼び寄せた。


「さあ、行こうか」と言って、話をしていた男の後についていくから、家族もその後に続いた。


 

 豪華な装飾のあるドアを開けて入った部屋には、さっきまで『神恵の儀』を取りしきっていた司教がソファに座っていた。


 司教の前のテーブルには『神恵の儀』で使っていた水晶玉が置いてある。


 「司教様、本日は娘のヴィヴィアンの『神恵の儀』をつかさどっていただき、誠にありがとうございました。御礼申し上げます」と父親が言い、ヴィヴィアンも続けて「私の『神恵の儀』を司っていただきまして、ありがとうございました」とスカートのすそを軽くつまんで頭を下げた。


 「いやいや御礼には及ばない。創造神様におつかえするものとして当然のことをしたまでだからな」


「本日はお疲れのところ、誠にあつかましいお願いをお聞きとどけいだだき、重ねて御礼申し上げます」


「ふむ、その赤ん坊の能力を知りたいとのことだったな。だがあと数年で『神恵の儀』を迎えるだろうに、それまで待てないのかな?」


「はい、無理を承知でお願いいたします」


「ではその子の手を水晶玉に触れさせなさい」


 母親に抱かれたままで、オレは水晶玉に指先で触れた。


 何が起きるか興味しんしんで見ているオレは、儀式で司教が何をゴニョゴニョ言っていたのかわかった。


 『創造神様のお慈悲をこの子に与えたまらんことをこい願いまする』と言っていたのだ。


 すると水晶玉はマジで目が潰れるかと思うほどに明るく光りだした。思わずギュッと目をつぶると、白く輝く誰かが立っているのが見えた。


 ニコニコ笑っているその誰かは言った。


 〘やあ!、久しぶりだね。元気に育っているようで良かったよ。魔法の練習を頑張っているのは知っているよ。魔法を楽しんで使っていきなさいね。また会いたくなったら教会においで、じゃあね〙


『ちょっ…ちょっと待ってください、あなたが創造神様なんですか?』


〘そうだよ、君がこの世界に産まれる前に会ったよね。私のことはいずれわかると言っただろう〙


『はい、それは覚えています。創造神様!、オレが魔法を使えるようにしてくれてありがとうございます。練習頑張ります!』


 創造神様のお姿が消えると同時に水晶玉の光も消えた。


 司教も家族のみんなも水晶玉の強い光に驚いていたが、司祭は水晶玉にあらわれた文字を読んで、さらに驚いた。


 「この子は創造神様の加護を授かっている!。生活魔法と…結界魔法もだ!!、まだ赤ん坊なのに信じられん」


「やはりそうでしたか…。司教様、このことはなにとぞご内分にお願いいたします。これは些少ですが教会への感謝の気持ちです、お受け取りください」


 父親は懐から革袋を取り出すとテーブルの上に置いた。


 司教は黙ってウンウンうなずいているので、オレたちは静かに部屋を出て、みんな黙り込んだままで教会の外に待たせていた馬車に乗り込んだ。







 






 


 


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