第685話 今シーズンを振り返ったり、エトセトラ
11年目のシーズンが終わった。
個人成績は良かったが、チームとしては4位という不本意な結果に終わってしまった。
最終的には首位とは2.5ゲーム差、3位とも1.0ゲーム差。
結果だけをみると、惜しかったようにも見えるが、重要な試合をことごとく落とし、混戦を抜け出す力が無かったということだと思う。
レギュラー、そしてクリーンアップトリオの一角を担った僕もしても、責任を感じている。
大チャンスでの凡退は一度や二度では無いし、試合の趨勢を決めるようなエラーも犯した。
その試合の一つや二つものにしていれば、3位にはなれたのかもしれない。
ただ一つだけ、言い訳させてもらえば一つとして手を抜いたプレーはしなかった。
だから全ては自分の実力不足である。
タラレバを言っても仕方がない。 140試合以上やっていると、上手くいかない事はある。
プロ野球選手をやっていると、そういう割り切りも必要だと思っている。
そしてこれは僕に限った話ではなく、チーム全員が少しずつ実力が足りなかったのだろう。
その積み重ねが、シーズン通して、3位と1.0ゲーム差につながってしまったと思う。
さて、話題を変えよう。
仮にチームに残留した場合、来シーズン中に国内フリーエージェントの資格を取れる。
自分で言うのもなんだけど、よくここまで来たと思う。
18歳でドラフト7位で入団して、来季で12年目。
年齢的にも30歳になる。
2軍の試合の数合わせ要員と、某山城元コーチ等に揶揄されながらも、良く生き延びてきたと思う。
年俸も今シーズンは1億円を大きく越え(1億5,000万円プラス出来高)、多少の貯金もできた。
幼子を2人抱え、まだまだ稼がねばならないが、生活レベルを上げなければ、数年は大丈夫だろう。
今シーズンは外野守備にも挑戦し、もちろんゴールデングラブ賞を取れるようなレベルではないが、無難にはこなすことはできたと思う。
僕も作者も忘れていたが、607話で大リーグ挑戦のノルマを、「外野手に挑戦して、打撃成績で昨シーズン以上の成績を残すこと」と球団と約束していたようだ。
結果として、達成できたと言えるだろう。
これからどうするか?
とりあえずシーズンが終わったばかりだし、少しゆっくりしたい。
……………………………………………………………
「はーるばる来たぜ、アメリカへ」
「そういうのは良いから。で、迎えの車はどこだ」
到着ゲートをでて、機内に預けていたトランクを受け取り、僕は手に持っていたガイドブックで三田村の頭を叩いた。
飛行機の到着は、現地時間で真夜中の1時であり、当然公共交通機関はやっていない。
「痛いって。角で叩くなよ」
シーズンが終わったので、アメリカのポストシーズンを観戦しに、アメリカまで来てみた。
今はサンフランシスコの空港にいる。
通訳を雇おうかと思ったが、あまり知らない人と外国に行くのもちょっと怖いので、三田村に通訳 兼 荷物持ち 兼 雑用係で来てもらった。
静岡オーシャンズもクライマックスシリーズに進出できず、球団に掛け合うと休みを取れたらしい。
三田村の分の旅費は、僕持ちだ。
ビジネスクラスの航空券、ホテル代、その他諸々。
まあ話し相手にもなるし、それくらいは必要経費と考えた。
「おかしいな。確かに手配したはず、なんだけどな…」
出た。ホニャララのはず。
昔、火災防止の標語でこういうのがあった。
「怖いのは消したつもりと、消したはず」
「あ、原因がわかった」
スマホでメールを確認していた三田村が声を上げた。
良かった。原因がわかって。
で、いつ来るんだ?
「手配したの、明日の日付になっていた。
時差があると混乱しちゃうよね。てへ」
「てへ、じゃないだろう。
じゃあどうしたら、良いんだ」
「うーん、空港内で一泊明かそうか。
どうせ、ホテルの宿泊日も1日ずれていたし…」
今、なんて言った?
仮に迎えの車が来ても、泊まる部屋が無かったということか?
「まあ、こういうハプニングも旅の醍醐味。
後から良い思い出になるさ」
それはお前がいうセリフではないだろう。
長旅で文句をいう気も失せ、仕方なくベンチに座って朝を待つことにした。
すると僕の携帯電話が鳴った。
誰だ、アメリカまで、しかもこんな時間にかけてくるなんて。
画面を見たら、妹だった。
なんだなんだ?
「お兄ちゃん、今、どこにいるの?」
「どこって、アメリカだけど…」
「それはわかっているわよ。空港のどこにいるの?」
「え?、なんで?」
「どうせ、迎えの車の日付が間違っていたんでしょ」
「何で知っているんだ?」
「私を誰だと思っているの?
トーマスがそっちに向かうから、場所教えて」
トーマス?
どういうことだ?
「えーと、到着ロビーのC付近にいるけど…」
「Cね。わかったわ、伝えておくわ」
そう言うなり、妹は電話を切った。
どういうことだ?
僕と三田村がその場で佇んでいると、何と携帯電話で話しながら、トーマス・ローリーがやってきた。
「ハーイ、タカハシ、ミタムラ。アメリカへヨーコソ」
どうしてトーマスがここにいるのだ?
確かに明後日、会う約束はしていたけど。
また妹から携帯電話に着信があった。
「どう?、会えた?」
「ああ、今会った。どういうことだ?」
「家でパソコンの電子メールをみていたら、迎えの車もホテルも日付が間違っていることに気づいたのよ。
だからお兄ちゃん達が、飛行機に乗っている間に、トーマスに電話して、お願いしておいたのよ。できた妹でしょ。お土産期待しているからね」
そう一方的に言って、電話が切れた。
なるほどそういうことか、たまには妹も役にたつこともあるのだな。
異国の地で初めてそう思った。
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