第684話 ラストゲーム?

 オワタぁ。

 終わった…。

 しゅーりょー。


 色々な表現の仕方がある。

 そう、今日でシーズンが終わったのだ。


 札幌ホワイトベアーズは、最終戦までクライマックスシリーズ進出の可能性を残していたが、京阪ジャガーズがつい先程、熊本ファイアーズに勝利し、クライマックスシリーズ進出を決めた。


 その一報がもたらされたのは、仙台ブルーリーブス戦で、6回裏の守備を終えて、ベンチに戻った時だった。

 ここまで0対0。

 先発の山信田投手に無得点に抑えられている。

 この回の先頭バッターは僕であり、625話で張った伏線を回収しようと、気合を入れてバットを握りしめた時、その情報が耳に入った。


 ヤル気無くした…。

 せめてこの打席が終わってから、知りたかった。

 僕は重い足を引きずりながら、バッターボックスに入った。


 もはやクライマックスシリーズ進出の可能性は無く、首位打者も無くなった。

 最高出塁率も盗塁王も逃し、今シーズンのタイトルは、最多安打だけとなった。

 まだ全日程は終了していないが、安打数2位の選手は残り2試合で11本のヒットを打たなければならないので、ほぼ確定だろう。


 マウンドの山信田投手は、東京六大学からドラフト1位で、仙台ブルーリーブスに入団したエリート右腕だ。

 開幕からローテーションを守り、ここまで9勝7敗で新人王の最右翼である。

 力のあるストレートと、キレの良いスライダー、そしてスプリット、チェンジアップのコンビネーションが厄介な投手だ。


 クライマックスシリーズの可能性も、首位打者の可能性も無くなった僕に残されているのは、野球エリートの鼻を明かすくらいだ。

 

 ワンボール、ツーストライクからの外角へ逃げるスライダーを捉えた打球は、ライト線上に飛んでいる。

 切れるなよ。切れたら、僕もキレるぞ。

 一塁に向かいながら、そんな事を考えていたら、一塁塁審が腕を回した。

 ポールに当たったみたいだ。


 もんだどうだい。

 僕は鼻息荒く、マウンドで呆然としている山信田投手を見ながらホームインした。

 まだまだ青いな。

 僕は一発を狙って、スライダーとチェンジアップにヤマを張っていたのだ。

 

 今シーズン、第16号。

 チームではティラーの21本、谷口の18本に継ぐ3位の本数で、ブランドンと同数だ。

 努めて淡々とした表情を装ってホームインした。

 貴重な先制点ではあるが、あまりはしゃぐ気持ちにもなれない。


 そしてこれで気落ちしたのか、続くティラーがヒット、ブランドンがツーベース、そして弱っている相手には滅法強い、下村選手が2点タイムリーヒット。

 ここで山信田投手は交代を継げられ、マウンドを降りた。

 

 9勝と10勝では印象が大きく違う。

 新人王争いは、混沌としてきたと言えるかもしれない。


 ということで札幌ホワイトベアーズは、今シーズン最終戦を勝利で飾った。

 ゲームセット後、僕らはグラウンドを出て、アウェーの中、札幌ホワイトベアーズを応援してくれたファンの方々に挨拶をした。


これで日本球界で最後かもしれない。

自分でも不思議なのだが、そんな感傷的な気分には全くならなかった。

 さあ、来季の開幕はどこで迎えているかな。

 自分のことながら、どこか他人事に感じる自分がいる。


 忘れないうちに今シーズンの僕の成績を記しておく。


 137試合に出場し、打率.317(526打数167安打)、ホームラン16本、打点75。

 盗塁は32個、出塁率.386、得点圏打率.329。

 奇しくも安打数は昨年と同数だが、打数が今季のほうが少ない。(昨シーズンは544)


 数字の上では多くの数値で自己最高を更新し、打率ランキングでは2位。

 我ながらチームの三番打者として、役割は果たせたと思う。

 チームとしては残念な結果に終わったが…。


 クライマックスシリーズにでられなかったし、今シーズンは長いシーズンオフになりそうだ…。

  


 

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