第676話 愚連隊との野球観戦
母校の甲子園出場記念に、特注のタオルを1,000枚作成したが、野球部関係者だけでなく、生徒、教員、そして寄付をしてくれた方々への御礼にも使用したらしい。
仲村から遠慮がちに、追加の依頼が来たので、僕は2つ返事で追加で1,000枚発注した。
喜んでもらえたのなら、嬉しい。
群青大学附属高校の甲子園初戦は、ちょうど京阪ジャガーズとの2連戦を終えて、札幌に帰る移動日であった。
ご都合主義の典型ではあるが、応援に行けるのは嬉しい。
僕はチーム一行とは別の飛行機に予約変更してもらい、応援に行くことにした。
「おーい、隆介。こっちだ」
そんな大声ださなくても、観客席にゴリラがいれば一目でわかるって…。
僕が通路を抜け、観客席エリアに出ると、下の方からデカい声がした。
もちろん声の主は平井である。
そしてその付近には、柳谷、相川、井戸川、新田、上条、錦戸、その他モブキャラの面々が陣取っている。
見るからにガラが悪そうな面々であり、心なしかその付近に空席が多いように見える。
派手なシャツにサングラスをつけている奴が多く、カタギには見えない。
奥さんや子供を連れている奴もいるので、まあ若干緩和されているが…。
僕は他人のふりをして、別の場所に行こうとも思ったが、まあ懐かしい面々と会うのも、悪くはない。
仕方なく、その場所に行った。
「何だこれ、遺影か?」
席の一つに高校時代のユニフォームを着た、山崎の全身写真が置かれている。
そしてそこの横の席にはカメラとパソコンが鎮座している。
「ああ、あいつから観客席からの映像を中継してくれと言ってきてな。
全く面倒なことだ…」
ため息をつきながら、井戸川が答えた。
井戸川は大学まで野球を続けた後、家業の電気工事の会社に入っており、こういうのには詳しい。
「あいつ、今日は登板しないのか」
「ああ、ホテルで見るんだってよ。
遠く離れていても、気持ちは皆と一緒だ、とかのたまっていたぜ」
「なんだそれ、気持ちが悪いな。寒気がする…」
「おい、聞こえているぞ。気持ち悪いとはなんだ」
パソコンから山崎の声がした。
「な、なんだ。聞いていたのか?」
「ああ、音声も繋いでもらっている。
ていうか、隆こそ、そんなところにいないで、練習しろ。
来年、戦力外通告を受けて、マイナーリーグに挑戦するんだろ」
「うっせぇよ。今日は移動日だから、良いんだよ。
お前こそ、明日先発じゃねぇのか」
「良いんだよ。後輩たちから勇気を貰って、明日好投するんだから」
「ところで今日は元カノの結衣ちゃんは、来ていないのか?」
山崎が聞いてきた。
「誰が元カノだ。結衣も来たがっていたけど、小さい子供が2人いるし、暑いからテレビの前で応援するってさ」
「そうか。まあそこの愚連隊といると、子供の教育上、悪いしな」
「まあ、それもある」
「誰が愚連隊だ。良いのかな、このカメラ切っちゃうぞ」新田がパソコンの電源を落とそうとした。
「あ、ウソウソ。お前らは品行方正で模範的な、元野球部員たちです」
今や有名なメジャーリーガーになった山崎だが、僕らの関係はあの頃と全く変わっていない。
「葛西は?」
「ああ、アイツは今日は試合で来れないってさ」
「あいつも、正念場だな…」
高校時代、僕と二遊間を組んでいた葛西は、大学、社会人を経て、新潟コンドルズに入団した。
堅守を武器に昨シーズンは82試合に出場したが、今シーズンは若手の台頭に押されて、まだ一軍昇格がない。
年齢的にも僕と同じ29歳なので、もう若くはないので、厳しい立場に置かれていると言えるだろう。
サイレンが鳴り、試合が始まった。
甲子園で高校野球を見るのは久しぶりである。
しかし高校野球がこれほどまでに、人を惹きつけるのはなぜなのだろう。
プレーのレベルで言えば、プロは言うまでもなく、大学野球、社会人野球の方がもちろん高い。
僕から見ると、プレーの質は未熟である。
でもひたむきに白球を追っている姿を見ると、辛くも楽しかった高校時代を思い出す。
3年間練習はキツく、毎日辞めたいと思っていた。
だが、今は全てが良い思い出である。
山崎のせいで遠征先で他校との喧嘩に巻き込まれたことも、平井のせいで街中で喧嘩に巻き込まれたことも、遠征時にバスに乗り遅れてトボトボと30kmを走って帰ったことも、全てが良い思い出である…かな。
我が母校は先攻であり、初回の攻撃はあっさりと三者凡退に終わった。
飛行機の時間を考えると、9回まで見られるか微妙であるが、時間の許す限り応援する所存だ。
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