第671話 ヒーローインタビュー23
球場内は照明が落とされ、お立ち台への道だけが、投光器でカラフルに照らされている。
「さあ、本日のヒーローをお呼びします」
男性アナウンサーの声が響き渡り、球場内の大勢を占める、札幌ホワイトベアーズファンが沸いている。
「一人目は、8回に同点に追いつく好走塁を見せた、高橋隆介選手です」
大歓声が湧き、僕は勢いよくベンチを飛び出した。
そして段差に足を取られ、コケてしまった。
バッターン。
一転して、球場内を悲鳴が包む。
僕は真正面からグラウンドに這いつくばってしまったが、そこは土。大して痛くはない。
すぐに起き上がり、何事もなかったかのようにお立ち台に向かった。
「高橋選手、くれぐれも足元には気をつけて下さい」
アナウンサーが余計な事を言い、球場内を笑いが包む。
じゃっかましい、わかっとるわ。
僕は照れ笑いをしながら、足元に気を配りながらお立ち台に上がった。
もしあそこで怪我していたら、当然、公傷として認められるだろう。
(さあどうでしょうか。不注意と判断されると思いますよ。作者より)
「次に本日の主役をお呼びします。
9回裏にサヨナラホームランを放った、道岡選手です」
一際大歓声が湧き、道岡選手はベンチを飛び出した。
そしてコケるふりをした。
球場内を爆笑が包んだ。
全く余計な事を…。
ん、て言うか僕は主役じゃないのか?
道岡さんの前座ということか?
まあ良いけど…。
今日のヒーローインタビューは、僕と道岡選手の二人である。
ファーストへの犠牲フライを打った、ブランドン選手や、満塁ホームランを打たれた鬼頭投手、ソロホームランを2本打たれたルーカス投手、9回表にツーアウト満塁のピンチを作った新藤投手も呼んだらどうだろうか。
試合を面白くしてくれた、という意味で。
「それではまずは前座の高橋隆介選手にお話を伺いします」
おい、はっきりと言いやがったな。
自分でもそうだとは思っていたが…。
「さっきベンチの前で、転ばれていましたが、お怪我はないですか?」
最初にそれを聞くかい?
「はい、手をついた時に少し捻りましたが、大丈夫です」
「それは良かったです。とても心配していました」
うそつけ。そうは見えなかったぞ。
「まずは6回裏、7対6と1点ビハインドの場面で、ツーアウトからの道岡選手のセーフティスクイズ。
あれはベンチからのサインだったのでしょうか?」
「いえ、僕とティラー、そして道岡選手の間でのサインプレーです。
以前、もしこういう場面があったら、一度やってみようと話をしていました」
「そうなんですか。うまく決まりましたね」
「はい、一度しかできない作戦だと思いますので、うまくいって嬉しいです」
「あのような作戦は、他にも用意してあるのでしょうか?」
「さあ、企業秘密です」
「そして8回裏。1点ビハインドの場面での先頭バッター。どんな気持ちでバッターボックスに入りましたか?」
「はい、ベンチで肩を落として、しょぼくれていた、ルーカス投手のためにも、何としても塁に出てやろうと思っていました」
「結果的にスリーベースヒット。三塁に進むのは勇気が必要だったと思いますが、その点はいかがですか?」
「はい、三塁コーチャーの新川さんが腕を回していたので、それを信じて走りました」
「日頃の信頼関係が、あの好走塁に繋がったということですね」
「いえ、例えアウトになっても、新川コーチのせいだと割り切って、思い切って走りました」
「そうですか…。
そしてワンアウトから、ブランドン選手のファースト後方へのファールフライでホームイン。
良く思い切りましたね」
「はい、狙っていました」
「味方の新川コーチも驚いているように見えましたが…」
「はい、敵を欺くには、まずは味方から。
あのプレーは、僕の独断です」
「もしアウトになったら、どうなっていましたかね」
「そうですね。少なくても、今ここには立っておらず、監督室で正座させられていたと思います」
「そ、そうですか…。次にサヨナラホームランの道岡選手にお話を伺います。
ナイスホームランでした」
「はい、ありがとうございます」
「9回裏、先頭バッターとして打席に入りました。
どんな事を考えていましたか?」
「はい、結構早いうちからこの小説にでているのに、いまいち活躍の場を与えられていないので、一発決めてやろうと思っていました」
「確かにそうですね。主人公と同じチームになって、活躍の場が増えると思いきや、たまに名前が出るだけで、ほとんど活躍を描かれなかったですものね」
「はい、この小説は主人公目線で描かれているので、仕方がない面もありますが、登場人物が多すぎて、一人一人のキャラが立っていないのが、課題だと思います」
一体、何の話をしているんだ。
あまりメタ発言すると、コメント欄に苦情が来るぞ。
「気を取り直して、真面目な話をします。
打った瞬間の手応えは、いかがでしたか?」
「はい、久々の会心の当たりでした」
「スタンドに入った瞬間はどう思いましたか?」
「はい、素直に延長にならなくて良かった、と思いました」
「そうですね。試合が長くなっていましたものね」
「はい、こら、高橋、欠伸しない」
うわっ、バレちゃった。
「…。やはり延長戦はきついですか?」
「そうですね。しかもカード初戦で明日はデーゲーなので、インターバルが短いと老体には堪えます」
「まだそんなお年ではないと思いますが…。
最後に札幌ホワイトベアーズファンの皆様に、一言ずつお願いします。
まずは欠伸を堪えている、高橋選手お願いします。
高橋選手、聞いていますか?」
やばい、ボーっとしていた。
「あ、はい。嬉しいです」
「何の話をしているんですか?
ちゃんと話を聞いていてくださいね。
ファンの皆様に一言お願いします」
「えー、あー、はい。
明日も頑張りますので、応援よろしくお願いします」
「次に道岡選手、お願いします」
「はい、またこの場に呼んでもらえるように頑張りますので、皆様からの温かい応援、よろしくお願いします」
「はい、ありがとうございました。
今日のヒーロー道岡選手と、前座の高橋隆介選手でした」
今、なんて言った?
お立ち台を降りて、道岡選手と球場内を一周し、声援に応えた。
6づくしで始まったこの試合、最後はグダグダになったが、勝ててよかった。
さあ、明日も頑張ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます