第667話 やっぱりそう来たか…

 5回を終えて、6対0。

 2本のスリーランホームランにより、札幌ホワイトベアーズが優位に試合を進めている。


 グラウンド整備が終わり、試合再開となった。

 マウンドには引き続き、先発の右のサイドスロー、庄司投手が上がっている。


 庄司投手は緩急をうまく使うピッチャーで、ストレート、シンカー、スライダーでピッチングを組み立てるタイプだ。

 ここまで何と川崎ライツ打線をノーヒットに抑えている。

 フォアボールは2つ出しているが、いずれもタブルプレーで切り抜けている。


 6回表は下位打線からの打順である。

 ここは3人で簡単に終えたいところだ。

 ところが先頭バッター、森田選手の打球を、ショートの湯川選手が弾いてしまった。

 記録はエラー。

 ノーヒットは継続しているが、この回の先頭バッターを出してしまった。

 何となく嫌な予感…。

 

 そして8番の渡嘉敷捕手にはデッドボールを当ててしまった。

 まだヒットを打たれていないとは言え、ノーアウト一、二塁のピンチだ。

 矢作ピッチングコーチ、そして札幌ホワイトベアーズの内野陣がマウンドに集まっている。


 僕はスコアボードを見た、6回表、6対0、そしてエラーをしたショートの守備番号は6。

 おまけに湯川選手の背番号も6。

 これはフラグか…。

 嫌な予感しかしない。

 そして僕の嫌な予感は大体当たる…。


 9番は深沢投手の打順だが、ここは代打の杉盛選手。

 あまり足が速い選手ではないが、意表をついたセーフティ気味のバントを敢行した。

 庄司投手はダッシュして、サードに投げたが、セーフ。

 つまりフィールダースチョイス。

 ノーヒットでノーアウト満塁のピンチだ。

 しかも次は1番打者だ。


 これってヤバくねぇ?

 嫌な予感しかしない。


 そして1番の高野選手は初球を捉えた。

 鋭いライナーがこっちに飛んできた。

 前だ。

 瞬間的に僕はそう判断した。


 だがジャンプした、サードの道岡選手のグラブの僅か先を越えた打球は以外と伸びている。

 やばい。


 僕は後ろ向きにダッシュしたが、間に合わない。

 打球は僕の頭を越し、フェンスにダイレクトで当たった。

 凄い打球の伸びだ。

 恐らく真芯に当たったのだろう。


 僕は懸命に打球を拾い上げ、ホームに投げたが、一塁ランナーの生還を止めるのが精一杯だった。

 記録はヒットだったが、僕としては目測を誤ってしまった。


 これで6対2となり、ノーアウトランナー二、三塁。

 そして2番の与田選手はフォアボールを選び、再びノーアウト満塁。


 だがここで庄司投手は踏ん張り、3番鈴木選手、4番ボックス選手から、2者連続三振を奪い、ツーアウト満塁までもってきた。

 しかしながら、5番のライン選手にデッドボールを与え、押し出しで更に1点を失ってしまった。


 これで6対3。

 ツーアウト満塁で相手は6番の三野選手。

 とても勝負強いバッターだ。

 川崎ライツの中でも、ピンチで迎えるには1番嫌なバッターだ。


 ここでジャック監督がベンチを出た。

 ピッチャー交代だ。

 札幌ホワイトベアーズには、今年もKLDSが健在だ。

 

 庄司投手がマウンドを降り、代わりに鬼頭投手がマウンドに上がった。

 鬼頭投手は修羅場経験が豊富であり、こういうピンチの場面では非常に頼りになる。


 そしてカウントはツーボール、ツーストライクからの5球目。

 高めのストレートにバットが出た…ように見えた。

 だが判定はノースイング。

 これがストライクかボールかでは天と地ほどの差がある。


 これでフルカウントとなり、鬼頭投手は腕を振って、自慢のストレートを真ん中低めに投げ込んだ。

 カキーン。


 打った瞬間、それとわかる当たり。

 僕は呆然とレフトスタンドを眺めるほか、できることはなかった。


 6回表、6点差を逆転する6番バッターの一振り。

 前話から嫌な予感はしていたが、やっぱりそう来たか…。

 だが試合はまだ終わっていなし、1点をリードされただけだ。


「まだまだ試合はこれからだ」 

 後続を打ち取って、うなだれながらベンチに向かう鬼頭選手の肩をポンと叩きながら、僕は言った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る