第663話 ツイている時は、とことんついてる?

 作者に言わせると、ツイているときはとことんついているものらしい。

 例えばいつもは、パチンコで大きくハマった末に大当たりを引いても、単発で終わるのに、ツイている時は、すぐに確変を引いて20連チャンするとか、パチスロでプレミアムのフラグを引くとか。

 そして不思議なことにツイている日は、台に座ればすぐに当たりをひけるらしい。

 作者が言うには、運はバイオリズムのように上がったり下がったりするそうだ。

 それがもし可視化できれば負けないのに…と愚痴っていた。

 一生言っていろ貧乏人、という感じである。


 さてバカ作者の話は置いておいて、話を戻そうと思う。

 三回表、ツーアウトからワンヒットワンエラーで、二塁まで進んだ僕はベンチのサインを見ていた。

 えーと、あれは盗塁のサインだね。

 本当か…?

 見間違いではないだろうな。


 これがワンアウトならわからなくもない。

 ランナーを3塁まで進めれば、外野フライや内野ゴロでも一点を取れる可能性がある。

 でもツーアウトならランナー2塁でも3塁でもあまり変わりはないのではないか。

 打った瞬間、スタートを切るので、僕の足であればヒット一本で高い確率でホームに帰ることができる。

 まあ、サインとあれば従いますがね。

 

 僕はリードを取った。

 岡山ハイパーズバッテリーはあまり警戒はしていない。

 それはそうだろう。

 サードスチールはセカンドスチールと比べても格段に難しい。

 しかもバッターは一応それなりに打つ、谷口だ。

 ここでリスクを冒す意味はあまりない。


 初球、投球と同時にスタートを切った。

 投球はストレートであり、谷口は空振りした。

 そして楠捕手はサードに素早く送球してきた。

 これはタイミングはアウトだ。

 僕はサードベースに足から滑り込んだ。

 アウトとわかっていても最善を尽くさないとね。


 「痛てッ」

 僕は足のすねに痛みを感じた。

 何と送球が僕の足に当たったのだ。

 そしてボールは転々とレフトの方へ転がっている。


 僕は素早く立ち上がり、ホームへと走り出した。

 ボールが当たったところは痛いが、まあガマンできる。

 ボールは外野の芝で球足が弱まっている。

 レフトからの送球が来たが、余裕でセーフ。

 貴重な2点目だ。


 これで今日は2打数2安打、2得点、1盗塁。

 我ながら大活躍だ。

 そしてベンチに帰り、ポケットから例のキーホルダーを取り出した。

 それを見た瞬間、僕は血の気が引くのを感じた。

 何と真っ二つに割れていたのだ…。

 ヤバい…、ヤバすぎる…。

 

「やっぱりあのキーホルダーの効き目はすごいだろう」

 茫然とキーホルダーを見つめていると、後ろから声がした。

 言わずと知れた麻生コーチだ。

 なんてタイミングが悪いんだろう。


「どうした。そんな暗い顔をして」

 そう言いながら、麻生コーチは僕の手のひらにあるキーホルダーに気が付いた。

「あ、壊したのか」

「す、すみません。さっき滑り込んだ時に壊れたみたいです…」


 ここは素直にお詫びをするしかない。

 僕は頭を下げた。

 麻生コーチは、僕の手のひらからキーホルダーを取り、それを目の前にかざして見ている。

「すみません。せっかく娘さんからもらった大事なキーホルダーを壊してしまって…」


 麻生コーチはしばらく真っ二つに割れたキーホールダーを眺めていたが、やがて静かにこう言った。

「形あるものはやがて壊れる。

 気にするな。このキーホールダーはお前、そしてチームのために幸運を運ぶという役割を果たしたんだ」


 麻生コーチ…。

 何と人間のできた人なんだろう。

 僕はこの人を誤解していた。

 適当なアドバイスをして、高い給料をもらっている、昼行灯のような方だと思っていた…。 

 僕は感激していた。


「もし良かったら、もう一つ貸してやろうか?」

 そう言いながら、麻生コーチはユニフォームのポケットからさっきと同じキーホルダーを取り出した。

「???」

「先日の休みの日に、娘とガチャガチャで取ったんだ。

 全種類集めたくて、30回くらいやったから、かなりダブってな。

 娘がダブったものをくれたんだ。


「…」

「しかし今のガチャガチャって高いんだな。一回、300円もしたぞ」

 さっきそれを77万円で、僕に売ろうとしなかったか?

 しかも俺の宝物だと言っていたような…。


「一応、お借りします」

 真相はどうあれ、このキーホルダーをポケットに忍ばせた間、ラッキーなことが続いたのは確かだ。

 僕は麻生コーチから借りたキーホルダーをまたポケットに忍ばせた。


 


 



 


 

 

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